グラウンド【セフィザ】

セフィザ

インフォメーション

■SWEET●SHORT

ザックスがいつもこっそり覗いてた懐かしい風景。そこにはヒミツがあって…。


神様の所在:セフィロス×ザックス

 

「うお~マジ痛ええええ!」

「大丈夫か?」

その日、ザックスは腹痛に悩まされていた。

これといって悪いものを食べたわけでもなければ、当たりそうなものに食べたわけでもない。無論、賞味期限切れの牛乳をガブガブやった記憶もない。

そのような場合、非常に不本意ながら便秘というかくも悲しい可能性が出てくるわけだが、残念ながらザックスの朝は爽快だった。

そんなわけで、何が原因で痛いのかはさっぱり見当もつかない。
しかしとにかく、あんまりの激痛には違いなかった。

「全く、困った奴だな」

「ホント悪い…この借りはいつか返すからさ…」

顔を歪めながらそう言うザックスに、セフィロスは溜息をつきながらも、

「金利十倍でな」

そう言ったのだった。

 

 

 

その日の任務は、セフィロスと一緒にやるはずだった。

だから朝も早々からセフィロスと待ち合わせをして神羅までやってきたのだが、その道中に激痛に襲われたという次第である。

務遂行できないのは悔しいが、この腹痛では仕方が無い。
結局ザックスは、任務は全てセフィロスに任せて、自分は医務室へと向かった。

任務のほうはセフィロスさえいれば何とかなるだろう。一応一般兵が何人か同行する予定になっているが、むしろその辺りは不必要に近いと思う。というより、任務自体それほど切羽詰った種のものではない。

「じゃあ、ザックスさん。とりあえず鎮痛剤打っときますね」

「はあ、すみません…」

医務室にて、ザックスは上腕にプスリ、と小さな注射をされた。

本当ならば飲み薬で十分なのだが、ザックスがソルジャーであることと、それから効果の即効性を考慮して、医者は飲み薬ではなく注射を打つことにしたようである。

注射はそれなりに痛かったが、さすがに効果の方は最高だった。みるみる内に痛みがひいてくる。

「折角だし休んでいったらどうですか?ほとんど休みなしでしょ、ソルジャーって」

「まあ、そうっすね」

痛みもひいたことだし、すぐにでも任務に復帰できそうだと思ったザックスだったが、医者がそう言うのでそれも良いかな、という気分になった。すっかりサボりモードである。

まあ任務の方はセフィロスがいるし、自分が休んだってどうってことはない。
まあ、たまには良いか。

そう思って医者の勧め通りに、医務室の奥にあるベットにごろん、と横になった。医務室の奥はちょっとした病室みたいになっており、ベットが合計10床ある。

とはいえ、あまりにも大きな怪我だとか重病だったりすると、別途用意されている病院に搬送されることになるから、ここのベットは専ら仮眠用に使われているようだった。今はザックスしかいない。

「結局さっきの激痛って何だったんだろ?」

窓際のベットに横たわったザックスは、ベットの上で腕組なぞをしながら首を捻った。
そういえば医者はその辺りについて詳しく教えてくれなかったのである。

言われたのは、気持ちの持ちようだよ、だとかいうわけの分からない言葉だった。要するに原因不明ということだろうか。

学校に行くのが嫌だ嫌だと思っていると、自然とお腹が痛くなってくる…というような摩訶不思議がザックスの体内でも起こっていたのかもしれない。まあ任務に対して嫌気がさしていたということは特別無かったけれど。

「やれやれ…」

こんな激痛に毎度悩まされていたら大変だ、そう思いながらザックスは窓の向こうに目を遣る。すると、そこにはある風景が見えた。

「お!」

思わず声を上げたザックスは、ベットの上で跳ね起きて、胡坐をかきながらその風景に食いついた。その動作たるや、どう考えても健康そのものである。

窓の外に見えているのは、神羅の兵舎裏にある小さなグラウンドだった。そこだけ見るとまるで学校のようである。しかしその学校のグラウンドのようなそこは、大概使われることはなく、普段は忘れ去られている存在だった。

兵士が訓練をするための施設は、神羅の中にたんまりと存在している。加えて、大型のグラウンドが少し先に構えており、兵士達は大概そのどちらかで自己訓練などをしているのだ。

尤も、ザックスのようにソルジャーになってしまうと、殆どが屋内の高性能な機械を使用してしまう。お日様の下で、ということはまず考えられない。

窓の外に見えているグラウンドは、大型のグラウンドが出来る前に使用されていたもので、今から考えると随分と前に現役だった存在である。今ではすっかり使われないが、たまに大型任務の説明などに使われることがあるようだった。大人数を集めるのに丁度いいサイズだからだろう。

「はは、懐かし~!」

ザックスはグラウンドを眺めながら思わずそう呟いた。いつの間にか顔が笑っている。
そのグラウンドの存在なんて久しく忘れていたけれど、思えばかつて自分はそこであくせくと訓練していたのだ。それは大型のグラウンドが出来る前のことだったから。

それに、もう一つ懐かしいと思うことがあった。それは、この医務室のベットからあのグラウンドが見える、という事実である。

ザックスはかつても、こうしてこの場所からこの景色を眺めたことがあったのだ。それを、思い出したのである。

「懐かしいなあ」

そういえばあの頃、良くこのベットに来ていたのだ。小さな怪我をして、そのまま此処でサボって、何だか夢中になっていたものである。

何しろ此処からはあのグラウンドが見えるのだ。ザックスが出入りできる他の場所からは、あのグラウンドは見えないようになっているから、此処が唯一、あのグラウンドを上から見渡せる場所だったのである。

あの頃、あのグラウンドには見えていたのだ。
”あるもの”が。

 

 

 

ふと気付くと、窓の外は夕暮れ色に染まっていた。

どうやら、いつの間にか医務室のベットに横たわりながら眠ってしまっていたらしい。はっと目を覚ましたザックスが慌てて壁面の丸時計を見遣ると、時針は午後八時を指していた。

「やっば…寝すぎだっつーの!」

セフィロスに任務の様子を聞きにいかなきゃ、と思う。

まあ大した任務内容ではないし、別にそれを知る必要など無いのだが、一応は自分も任されていた任務だったから経緯くらいは知っておかなければと思ったのである。

午後八時、セフィロスは帰宅してしまったろうか。

そう思って急いでベットから起き上がると、ひよんひよんに跳ねていた髪をぶんぶんと振ってささっと手櫛で整える。とにかく早く行かないと。

そう思った瞬間に、ふいに窓の外に目を遣った。すると、そこには夕暮れ時の小さなグラウンドが映し出されており、ビックリしたことにはそれだけではない他のものも映し出されていた。

「え!?」

驚いて窓に張り付いたザックスは、目をまん丸にしてそれをじっと見遣る。

小さなグランドの端っこに、何だか黒い影が見えた。その影はじっとしていて動く気配がない。まるで柱のようにじっとそこに立っている。

「マジ?」

ザックスは窓の鍵を外すと、ガララララと派手に窓を開け放った。そうして、夕暮れ時の涼しげな風を顔面に受けながらも窓から顔を突き出す。

グラウンドの端っこの影が、ふっと揺れた。

「本物だ。―――お~い!セフィロス~!!!!」

ザックスは大声でそう叫ぶと、窓から落ちそうな勢いでブンブンを大手を振った。するとグラウンドの端っこの影は、小枝をひょこっと出すように動く。挨拶するように手を上げたのである。

やはりそれは、ザックスの思った通りセフィロスの姿だった。

 

 

 

何であんなところにセフィロスがいたのかは分からないが、ザックスにはすぐにそれがセフィロスだと分かったものである。

もう殆ど使われることのないグラウンドに、セフィロスがぽつんと立っているだなんて可笑しかったが、何だかそれはとても見慣れたもののような気がして、ザックスはどちらかといえば嬉しかった。

医者に礼を言って急いで医務室を出ると、超特急で建物を出る。

いつもなら通らない道を通って、今や自分とは関係のなくなってしまった兵舎までやってくると、その脇にあるフェンスを越えて小さなグラウンドに入り込んだ。

あのグラウンドは兵舎からしか入れなくなっているから、外から入るにはフェンスを超えなければならないのである。

ひょいとそれらの動作を成し遂げたザックスは、上からだと小さく見えるものの実際はそれなりに大きいグラウンドを奔走した。

さして息は上がっていない。さっきまで病室で眠っていた人間とは思えないくらいである。まあ別に病気でも何でも無かったのだから当然だろうが。

「お~い!セフィロ~ス!!!」

ブンブンと手を振りながら、窓から見えた影に駆け近づいていったザックスは、ようやく顔まで判別できるような距離になってそう叫んだ。その先にいるのは、紛れも無くセフィロスである。

薄暗い空の下で黒いコートに身を包んでいるものだから、すっかり黒くて訳が分からない。まるで空気に同化してしまったみたいである。

「どうだ、調子は?」

「あ?調子?もう絶好調よ、絶好調!」

笑ってドン、と胸を叩いたザックスは、それにむせてゲホゲホと咳き込んだ。そんなザックスを見てセフィロスが思わずぷっと噴出す。お前バカだな、などと言いながら

「任務は終了した。俺が誰かさんの分まで苦労しながら働いてやったからな」

「良く言うぜ!本当は全然苦労なんかしてないくせに」

ああ、やだやだ、などと両手を広げてわざとらしく首を横に振ったザックスに、セフィロスは少し笑った。そうして、ザックスが聞きたがっていた任務経緯を簡潔に口にすると、良かったな、などと言う。

一瞬その意味が分からなかったザックスだが、どうやらそれは朝の激痛についてを言っているのだと気付いて、まあな、と笑って答えた。治って良かったな、という意味なのだろう。

まあ原因不明というところが微妙なのだが、それは敢えて言わないでおいたザックスである。

「でもセフィロス、何でこんなトコにいんだよ?とっくに家じゃねえの?」

「ああ、まあ帰ろうと思ってたんだがな。お前が医務室に行ったことを思い出したら、何だかこのグラウンドのことを思い出した」

セフィロスはそう言うと、すっと腕を上げ、真っ直ぐにある場所を指差した。

その指の先を辿った場所には、医務室奥の病室がある。さっきまでザックスがいた、あの場所のことだ。

さっきはザックスがいたことで電気がつけられていたが、今は誰もいないせいか真っ暗になっている。薄暗い空の下から見ると電気のついている部屋はぱあっと明るくて、何だかとても目立つ気がした。

多分さっきのセフィロスの目には、ザックスのいた病室もそんなふうに映ったのだろう。

「だから、此処に来てみた」

セフィロスはそう言うなりすっと身を翻すと、近くに置かれていた愛刀の正宗を手に取った。そうして、何と言うことかその刃先をピン、とザックスに向ける。

びっくりしたザックスは何か言おうと口を開けたが、そうする暇もなく身を躍らせることになった。セフィロスが剣を振り回したのである。

「うわっ!!」

一瞬でも判断が遅かったら、確実に斬られていた。

そのくらいの素早い動きが、さっきまで病室にいたザックスを襲う。

一体全体何だっていきなりこんな展開なんだと俄か混乱したザックスに、セフィロスは満足そうに笑って剣を収める。そして、冗談だ、と、冗談にならないようなことを口にした。

「どうやら完治しているようだな。安心したぞ」

「…っていうか今少しでも遅れてたら完治どころか死んでたんですけど」

「そうか。じゃあ死ななくて良かったな」

「…つーか喧嘩売ってんだろ」

じゃあ高値で買ってくれ、などと冗談を言ったセフィロスに、ザックスはわざとらしくはあ、と溜息をつく。これだからセフィロスは意味不明なんだとぼやきながら。

所在無げな小さなグラウンドにソルジャーが二人。

かつてザックスが訓練したこのグラウンドは、病室から見れば小さく見えたものの、立ってみればそこそこ大きく感じられる。

しかし、あの頃あくせくしたこのグラウンドは、今やザックスにとってあくせくするような場所ではなかった。セフィロスの繰り出す不意打ちにすぐに対応できるくらいには小さな場所になっていたのである。

「昔な」

セフィロスは暗い病室を見上げながら口を開く。

「俺はこのグラウンドで訓練をしていた。兵士に見本を見せてやれと言われて剣技の指導もした。今じゃすっかり使われないがな。お前も使っただろう、このグラウンドを」

その言葉にザックスは、ああ、使ってた、と頷いた。

少し経ったら大きなグラウンドが出来てしまったし、ザックスもソルジャーに昇格してしまったから、その後はすっかり使わなくなってしまったけれど。

「その頃、あの病室からこのグラウンドをじっと見てる奴がいてな。そいつは気付くといつもあの病室にいるんだ、そして此処を見てる。何だろうとずっと疑問だった」

チラ、とセフィロスの視線が自分の方に向けられて、ザックスは思わずギクリとする。しかしセフィロスは特に何かを指摘するでもなく話を続けていった。

「ある日俺が一人で訓練していると、やはりそいつが此処を見ていた。しかも、窓にべったりと張り付いてこっちを見てる。俺は少し考えて、軽く手を上げてみた。するとそいつは、慌てて窓から離れていったんだ。逃げるみたいにな」

セフィロスは、クツクツと笑いながら、バカだなアイツは、などと言う。

その隣でザックスは、隠していたおねしょがバレた少年みたいに、半分青く半分赤くなっていた。

セフィロスの言うそれは、紛れも無くザックスのことである。ザックスはその話を聞いた瞬間にすぐにそれが分かった。セフィロスも分かっていてそれを話したのだろう。

しかし、そんなことはすっかり忘れていたし、まさかセフィロスがその事に気付いていたとは全く夢にも思わなかったザックスである。

何で分かったのだろうか。

このグラウンドからあの病室までは距離があり、顔など絶対に判別できやしない。先ほどのザックスがそうであったように、お互い影のようにしか映らないのである。

そもそもあの頃は顔見知りでもなかったのだから、分かるなんてあるはずがない。

「俺はあの日と同じように軽く手を上げただけだ。でも、あの時は逃げたアイツが、今日は大手を振って俺の名前を呼んだ。面白いもんだな」

「いや、それは…」

だって今は知り合いだし、と言い訳をしたかった。

しかしそれをしたいと思った時点で、既に色々なことがバレていて、その過去の話を肯定してしまっているのが明白だということに、ザックスは気付いていなかったものである。

そんなザックスの前で、セフィロスは過去を確定していった。

あの病室にいたのがザックスであったことを、今迄一緒に任務をしていてそんな話には一切触れなかったものの最初から知っていたのだ、ということを。

「お前と初めて顔を合わせたとき、俺は閃いた。ああ、あの病室のバカはコイツだったんだな、とな」

「何で分かったんだよ。つーかバカは余計だよ」

「目を見たら何となくな。視線が同じだった。やっと会えたとでもいうような目をして俺に挨拶をした。“初めまして”ってな。思えば、一度挨拶したじゃないかとでも言ってやれば良かったな。尤も、そんなことをしたら逃げていたかもしれんが」

「あ~そうですかそうですか!英雄は自意識過剰だと思いますけどね!」

ザックスはふん、と顔を逸らしてぷんぷんと怒った。

でも、本当はこっ恥ずかしくて仕方なかったのである。何故バレたのかと疑問だったが、視線だなんて言われたらどうしようもない。そんなに気持ち悪いほどの視線だったんだろうかと、内心ドギマギしてしまう。

確かにあの頃のザックスはセフィロスに憧れていたし、セフィロスの演習を見たりするのが大好きだった。

あの医務室の窓際のベットは特等席で、あそこからしかセフィロスをじっくり見ることなどできなかったから、たまにサボってあのベットにいたものである。

あそこからだったら誰にも何も言われずにじっと見ることができたし、そうしていてもセフィロス自身に何か言われる心配もなかったから。仮に近くで眺めてなんかいたら、セフィロスは怒っていたに違いない。

すごいなあと、かっこいいなあと、ずっとそう思ってきたセフィロス。

そのセフィロスに面と向かって挨拶できることになった日、本当に嬉しかったのだ。それが、きっと表れていたのだろう。

遠くで見ることしかできなかったセフィロスが、僅か1メートル先の距離にいるということが、ものすごく凄いことだと思っていた。

「ザックス」

肩にポン、と手を置かれ、ザックスはビクッとする。
かつて遠かった手が、今ではこうして簡単に肩に触れる。

「俺はな、アイツをバカだバカだと思ってきたんだがな…」

「…で?」

やっぱり言うことはそれか、と溜息を吐きつつ、ザックスはその先を促す。
するとセフィロスは…。

「本当にバカで驚いた」

「何だと~!!?」

その後、小さな思い出のグラウンドで鬼ごっこ状態になったのは言うまでもない。

病室からの景色には、今や二人の姿が並んでいた。

…訂正、二人の姿がバターになりそうなほどグルグルと回っていた。

 

END

 

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