セフィロスに呼び出されて部屋に行くと、その部屋は白く煙っていた。ふとテーブルの上の銀細工の灰皿を見ると、そこには山のように吸殻があった。
少しは片付ければ良いのに、と思いながらクラウドはそれを眺める。
「クラウド、今日はどこに行ってたんだ?」
「え?」
ドキッとして思わずのけぞる。何で知ってるんだろう。
「午後の訓練は今日は急遽無くなったと聞いたぞ。お前に伝言があったから探してたのに、どこにもいなかったろう?」
さすがに耳が早い。確かに午後の訓練は、何故か休みになった。
それは何だか上の人間の都合だったらしいけれど、それを聞いた途端にクラウドは神羅を抜け出してミッドガルに走ったのだった。
「ええっと…その、いろいろやってて」
作り笑いなんかをしながらそう言ってみたけれど、どうも笑いが怪しいらしく、セフィロスは疑惑の目つきを向けてくる。
もし此処で本当の事を言ったら、セフィロスはどんなに怒ることだろう。
セフィロスが怒るのはもう何度かあったけれど、その度にクラウドは落ち込んでしまい、しかもなかなか機嫌が直らないので、そうなるのがとても怖かった。大好きだけれど、それだけは嫌だと思う。
「色々、とは何だ。説明してみろ」
「ええっ?そ、そんな…色々は色々だよ!俺だって暇ってワケじゃないんだから」
「へえ、暇じゃない?ってことは相当、重要な用事だったわけだな?」
「う…、うん。……多分」
「多分って何だ。お前、自分の事だろう?」
「そうなんだけど…」
まったくテンポの悪い会話だった。
実際クラウドは良く分からなかった。とにかくその煙草を吸ってみたい一身で出かけたけど、結果はボロボロだったし、何だかんだいって一本だけしか吸えなかったのだ。その残りは今まだズボンのポケットに入っている。
「…全く、ハッキリしない奴」
そう言ってセフィロスは煙草に手をかけた。その動作はとても手馴れていて、さっきクラウドがしたのとは全然違う。
それを見ながら、クラウドは話を逸らすようにこう聞いてみた。
「あ、そういえば伝言って何?それで俺を探してたんでしょ?」
セフィロスはソファに背をもたれて、ああ、そうだった、と思い出したような顔をする。どうやらクラウドの心配はそこで終わるようである。
「お前、ソルジャー試験の事前テストって知ってるか?」
「え、事前テスト?初耳だけど…」
急に真面目な話題になって、クラウドは躊躇いながらそう返す。
そういえば今期のソルジャー試験の期日はもうすぐだった。今度の試験は訓練生の大半が受けることになるらしく、だから審査が殊更に厳しいかもしれないとの噂なのだ。それはソルジャー志願者がやけに多くなっていることが理由らしい。
「今期は希望者が倍増してるらしくてな。定員があるわけではないが、まあ…金銭面の都合上か知らんが、かなり厳しい篩いにかけるつもりらしい」
「それ、聞いたよ」
だからこそ、受かるのかどうかが心配だった。
大体最近ではスカウトされる人間や入社してくる人間が、最初から能力値が高いとの噂である。だからこそ、その中でソルジャーを目指すのは厳しかった。
「ソルジャー試験は項目が幾つもある。筆記もそうだが、一番がやはり技能関係だろうな。そこで事前テストをする事で、本試験の技能の一部を免除されるって制度ができたらしい。お前、受けてみたらどうだ?」
「え、でも…テストってどんななのかな?」
「さあ…詳しくは知らん。普段の訓練時の能力値が計算されるって話らしいが。もう希望者もそろそろ出てきてるらしいぞ」
「そっかあ…」
何だか遠い話のような気がしてしまって、クラウドは肩を降ろした。
確かに神羅に入った理由はそれだったけれど、憧れの存在は目の前にいるし、その生活はそれはそれで楽しかったし、それ以上なくても良いかもしれないと思ってしまう今日この頃だったのだ。
ソルジャー試験は受けるつもりだけれど、そんなに気合は入らない。
そんな自分が、ちょっと弛んでるな、と思ったりもする。
「どうした、クラウド。お前、やる気無いんじゃないか?」
そう言われて反射的に、違うよ!、と拒否してしまう。それを見ながらセフィロスは少し笑った。
「弛んでるんだろう?じゃあ…ソルジャー試験が終わるまでは、おあずけだな」
「オアズケ!?…って、何が!」
「分かってるくせに」
からかうようにそう笑うと、セフィロスは吸っていた煙草をねじ消した。銀細工の灰皿に吸殻がまた一本、増える。
「…性格悪いよ、セフィロス」
拗ねるようにそう言うと、
「何を今更。別に俺も認めてる」
と軽く流される。どうにもこうにも、やはりセフィロスには叶わない気がしてしまったクラウドである。
それにしても、本当にソルジャー試験までは一緒にいられないのかな、と真面目に思って、少し落ち込んでしまう。セフィロスは何気にクラウドの昇進を激励してくれている部分があったし、そうなれば将来は一緒に任務に行けるな、という話もしていた。
だから、それは本心かもしれない。
今まで座っていた場所から立ち上がってセフィロスのいるソファまで向かうと、クラウドはその隣にそっと腰を下ろした。
それから、何となく静かめな声でこう聞いてみる。顔は不安げだったかもしれない。
「…あのさ。さっきの、本気で言ったの?」
「ん?“おあずけ”の事か?」
面白そうに言うセフィロスに、クラウドはムスッとしてしまう。
「もうっ!……だから、つまり…。一緒にいれないの?」
最終的には声音が弱くなってしまうのも仕方無い。それだけ今の生活は“普通”になっていたし、セフィロスがいない状況なんて今では考えられないのだ。
そんなふうに突如として真剣に弱音を吐くクラウドを見て、セフィロスは少し表情を戻した。
セフィロスにとってもまた、クラウドの今の生活の中心が何であるかはハッキリと分かっていたし、それが無くなったらば、クラウドがどうなるかは簡単に予測できることだった。
真剣に見つめてくるクラウドに、セフィロスは静かに右手を動かす。
その手はまだ弾力のある頬にそっと寄せられ、それから人を魅了するに十分な綺麗な顔がクラウドに近付いた。
形の良い唇が、そっとクラウドの唇に触れる。薄く開かれた口は、待ち受けていたようにセフィロスの舌を受け入れて、その動作に合わせて絡みついた。
頬に沿わされていたはずの手はそろそろとクラウドの腰を捕まえると、そのまま腕を巻きつけて強く抱き寄せる。ぴったりと沿った身体から、セフィロスの体温が伝わった。
咽喉の奥の方まで吸い上げそうに、貪る舌は激しくなる。いつの間にか自然と目を閉じていたクラウドは、手探りのままセフィロスの首に腕を回すと、かかる体重をそのまま受け止めた。
大き目のソファにドサリ、と倒れこむと、そこから先は何も見えなくなったようにお互いを求め合う。
長らく重なっていた唇をようやく離すと、絡み合った後のその口のまま、セフィロスはクラウドの首筋から鎖骨までをなぞった。華奢で余分な所のないクラウドの身体は、クッキリと綺麗なラインの鎖骨を露にしていて、それが妙に艶かしく目に映る。
いつからだったろうか、この身体がこんなふうにセフィロスの眼に触れるようになったのは。
じっくりと見つめられると、恥ずかしくて顔を背けたくなる。そんなクラウドにセフィロスはこういう時特有の優しい声を出してこう言う。
「お前の全てを見せてくれ」
魔法みたいなその言葉は、いつの間にか羞恥心などを捨て去ってくれる。だから言葉通りに自分で衣類を剥ぎ取ると、何も隠さないままの姿を曝け出す。ついでにセフィロスの服を脱がせるのもクラウドの役割だった。
そうしてやっと二人で本当の体温を確かめられる。
肌と肌が触れ合って、とても暖かい。
それは服をつけている時では感じられないものだった。
それ以上の行為はまた別物だったけれど、そうして裸で抱き締め合う事、クラウドはそれが好きだった。こういう時はセフィロスがとても近く感じられる。自分の側にいるんだ、と実感できる。
「あのね…」
ふと抱きしめた腕の中からそう声を出したクラウドに、セフィロスは、ン?と答える。
「……好き」
そう小さく呟いてみる。別に恥ずかしいことじゃないし、今更だったけれど、もう一度確認するように、口をついてしまう。
そんなクラウドに決まってセフィロスは答える。
「…知ってる」
そんなふうに。
そして、二人は始まっていった。
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