ETERNITY(2)【セフィクラ】

セフィクラ

 

とうとう…言ってしまった。真っ白だった。

そう言って…返ってくる言葉次第で、もう俺はセフィロスと一緒にいられなくなるのに。

だけどそんな事、考えられなかった。

今が苦しいんだ。

俺はこの時、一体どんな表情をしてたろう。

もしかしたら泣きそうな顔をしてたかもしれない。

セフィロスは俺の言葉に少し黙って、短くなった煙草を消した。それから俺の方を見ながらこう言った。

「お前は俺の事をどう思ってる?」

何言ってるんだ、この人は。

そんな当然の事を聞いてどうするんだ?

―――そう思ったけど俺は正直に答えてみる。

「…好きに、決まってるだろ…」

少し小さな声になってしまう自分が情けない。

だって…セフィロスにこんな事を言ったら…何だか笑われそうだったから。

でも実際には違ってた。セフィロスはどういう訳か眼を細めて困ったような顔をした。

―――どっちにしろ、あまり良い反応じゃない。

「…お前に聞いてみたい事があるんだが」

「何?」

「好きというのは、どこを上限とし、どこを真実とする?」

「え…?」

俺はセフィロスの言ってる意味が分からなくて、そんなふうに聞き返してしまった。

セフィロスの言うことは難しい。もっと簡単に考えれば良いのに、って思うけど。

セフィロスはそんな俺に、こう言い直した。

「お前が望んでいる事は、俺の気持ちということだろう?―――それが良く分からない。そもそも好きというのは、どこまで好きになれば本物なんだ。良くそういう感情を求めてくる奴がいるが、どこまで好きといえば納得できるんだ、お前たちは?」

俺は何だか抉られた気分になった。

聞かれた事に―――ってよりも、俺みたいにセフィロスにそう望んでいる人が他にもいて、その人達と一緒に、セフィロスからそう思われてる、って事に。

そう思いながら俺は必死にセフィロスに言った。

「他の人よりも―――好きでいてくれる、くらい…かな」

「じゃあお前よりも後に誰かを“好き”になったとして、それがお前以上の感情だったら?お前は俺を責める…と、そういう訳か」

「そう…なるかな」

普通、そういうもんじゃないのか?

セフィロスにはこの“普通”が通じないみたいだ。

セフィロスは溜息なんかつき始めた。相当、嫌気が差してる証拠だ。

「―――では。“好き”でなければ側にいるのもおかしい、という事だな。他のどんな事よりもお前を大事に思って、その他の何に対してもそれ以上の感情を持ってはならない―――そういう事だろう?」

「違うよ!そういう事じゃなくて、俺は単に…っ!」

「どこが違う?単にそういった言葉を吐けばお前は満足できるのか?証拠なんてどこにもない言葉でも?」

俺は返答に詰まった。確かに―――証拠なんてない。嘘なんていくらでもつける。だけど…そうじゃなくて、ちゃんと心で思って欲しい。

だけど、それをどう言葉にして良いかが分からなかった。

「…お前、ザックスの事はどう思ってる?」

え?何でいきなりザックス?

「え…好きだよ…?」

セフィロスは俺を見て、つまらなそうな顔をした。でもそれは俺の嫉妬とは違う、すごく乾いた表情だった。

「そうだろうな。今お前は好きだといった。その“好き”とどこが違う?全く同じ言葉を使って感情を表すなら、その真意なんて分からないだろうが。大体―――それを他人に求める事が、間違ってる」

そういうものなのか?

好きって、そんなに深くキッパリ分けなきゃ伝わらないのか?

…違うよ、セフィロス。俺はセフィロスと一緒にいたいし、キスだって嬉しい。普通の“好き”とは違うのに―――どうして伝わらないんだろう。

俺は段々悲しくなってきた。それと同時に無性に腹も立った。

もしかしたら最初から、セフィロスにそういう事を求めるのが、やっぱり間違いだったのかもしれない。

そもそもこの人は罪悪感なんて無いんだ。

そうだ――――それが、この人の“普通”。

 

 

 

すっかり沈黙してしまったその空間に、あの匂いと煙草の匂いが混ざり合っていた。

俺はもう一度、再確認するみたいにその部屋を眺めてみる。

簡素な部屋、何も無い部屋。…だけど、思い出深い部屋。

初めて此処に来た時は、何て寂しい部屋なんだろうと思ってた。

毎日此処で暮らしてるんだなあとか、そんな事に一喜一憂してた。

それが今ではすっかり慣れてしまった。

不思議だ、こういう感覚…。

「俺がセフィロスにそれを求めるのも、間違ってる?」

久々に口を開いた時には、もうそんな言葉しか思いつかなかった。

「ああ」

一言だけの答えを聞いて、俺はちょっと微笑んだ。

そうだよな、分かってたことなのに。

「じゃあ―――もう、やめよう?」

もう引き返せなくて、最後の言葉が口をついた。

セフィロスは何も言わない代わりに二本目の煙草に火を点ける。そして、ゆっくりと煙を吐き出しただけだった。

どういう訳かその煙は俺の方に流れてきて、視界を曇らせる。

まるで、霞みたいに。

俺は何も言わず、そのまま部屋を後にした。

 

 

 

それは今までセフィロスと会って来て、一番後味の悪い日だった。

当然だけど―――。

兵舎に帰るあいだ中、俺はずっとセフィロスの笑顔を思い出していた。

俺だけに見せてくれていた、笑顔。

それをただ―――。

 

 

 

染み付いたあの匂いが、俺の鼻を掠めていた。

 

 

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