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■SERIOUS●MEDIUM
ザク部屋に遊びにいったクラ。そこにセフィが来て…。
不言不実行:セフィロス×クラウド
つかず離れずの距離、そういうものは存在する。思えばこれは、後悔から来たものなのかもしれないとも思う。
昼下がりの部屋でクラウドは一人そんなことを考えていた。
―――――あれはもう六月やそこらの話だったろうか。
一回だけ幸せだと感じるシーンに出くわしたことがある。多分、神羅に入って仕事以外で満足した唯一のものだったろうし、それは奇跡的なことだった。
セフィロスと会ったのは、神羅に入ったばかりの頃の話だったけれど、その時その人はとても近づけない存在だった。それは当然、誰だってその姿を見て萎縮したから。
本人と話したわけでもないのに、その人の背後にある様々なものは、その人の性格やらをイメージ付けた。そしてそれは釈明されることなく持続する。
だから殆どの人はセフィロスの本来の性格など知らないままに、イメージ付けられたセフィロスを見ていたのだ。
それが変わってしまったのが、六月。
「わりぃ。俺、用事入ったからさ」
そう言って立ち上がったザックスを、クラウドはビックリして見つめた。
どうせバレやしない、そう言われて兵舎を抜け出してザックスの部屋まで来たのは初めてではなかった。
もう数回もやっているし、帰り方を知らないワケでもない。だから一人で帰れと言われれば帰ることも可能だった。
けれど何しろ迷ったのは、そこにセフィロスがいたからである。
数回会っているこのセフィロスという人は、話してみるとそれほど恐くない。
イメージではとても恐くて近づけなさそうな感じだったが、実際は真面目というだけで優しい気遣いもしてくれるし、話だってちゃんと聞いてくれる。質問をすれば的確な答えも返してくれる。
だからクラウドはセフィロスについて、皆が今なお持っているような間違ったイメージは持っていなかったが、しかしそのセフィロスとこの部屋に二人残されるというのはどうにも問題だった。
今日は普通にザックスと会うだけだったのに、途中からセフィロスが加わった。
たまには良いだろ、と言って遊びでザックスが連絡をしたのが始まりだったが、セフィロスは真面目にそれを受け取って、ものの5分でザックスのところまでやってきたのである。
ザックスのところにやってきたセフィロスは難なくその中に加わると、まるで最初からいたみたいに会話に溶け込んだ。
まるで自然…だけどクラウドは、それはザックスがいるからだと分かっている。
ザックスが呼んだからこそ此処に来て、ザックスが話すからこそ会話は滞りなく続いて…。
だからその場からザックスがいなくなることは、どう考えても恐ろしい。セフィロスと二人きりで何を話せば良いかも分からないし、どうして良いかも分からない。
ザックス、いかないでくれ―――!
…そう願っていたけれど、やはりそういう訳にはいかず…結局ザックスは、
「じゃあ適当にくつろいでくれよな」
なんて残してその部屋を去ろうとする。
「あ、別に帰っても良いし、なんだったら泊まってっても良いぜ」
ドアを閉める直前、ザックスはそんな事を言った。
が、最早クラウドの耳にそれは入っていなかった。
―――――シーン……
ドアが閉まった後の部屋はいかにも静か。
「……」
「……」
さっきまでの明るい雰囲気が一転、嘘みたいに静まる。クラウドは緊張のあまり微動だにできないでいる。
セフィロスは…ザックスがいたときは珍しく饒舌になっていたというのに、一転して何も話そうとしない。
「……」
「……」
―――――マズイ。
いかにも、マズイ。
このままこの部屋で二人して沈黙というのは、どう考えたって良いと思えない。このままの調子で行くと、いつまで経っても会話が発生せずに時間だけが経っていきそうだ。
そう思ったクラウドは、緊張の中でやっと口を開いた。
「えっと……あの。―――――帰りますか?」
チラリ、とセフィロスを見てみる。
セフィロスは無表情でクラウドの方を見ていて、眼が合ってしまったクラウドは焦って視線を反らしたりした。
「帰りたいのか?」
「へ?」
「そんな事を聞くようなら、お前の方こそ帰りたいということだろう」
「いや、そんな…」
それは恐ろしくも図星だった。
しかし、かといって「帰りたいか?」と言われて「はい、そうです」だなんて答えられない。
まさかそれでは、セフィロスと一緒にいたくない、と言っているみたいだから。…というか、ある意味ではそうだったが。
「お前が帰りたいなら、そうすると良い。送ってやろう」
「え!あ、でも…そんな大丈夫です。俺、これでも何回か来てるし。一人でも帰れますから」
「ふうん?」
良く分からないままに、帰る方向に話が進んでしまった。
まあそれはそれで気が楽だけれど、セフィロスに送ってもらうのもアレである。
クラウドはそんなことばかりを考えていたが、目前のセフィロスは少し違うことを考えていたようで、クラウドにこんな事を尋ねて来る。
「何回も、か。それは良くやったものだな。―――――お前、ソルジャー棟には入ってはいけない身だろう?知っているのか?」
意外なところを突かれ、クラウドは慌てて、
「し、知ってます!」
そう答える。
そうだ、此処は確かに本来なら立ち入ってはいけない場所だし、それが数回ともなれば常習犯である。
それをうかうか自分から告白してしまったのだ、そう考えると何てことをしてるんだろうと、クラウドは少し恥ずかしくなった。
セフィロスみたいな人なら、やはり怒るのが普通なのだろうか。こういう違反は。
「―――――なるほど。意識あってのことか。…まあ良い。とにかく今日は送ってやろう」
「え。でも…」
「何でも良いから言うことを聞くんだ。その方がお前のためだぞ」
「はあ…」
そう強く言われ、クラウドはそれ以上を言えなくなってしまった。
確かにいつも危険ということには変わりない。けれど今のクラウドにとってみれば、その帰りの僅かな距離を緊張の連続で過ごすことの方がよっぽど危険だった。
しかしまさか「一人で帰りたいです」とも言えず。
「…じゃあ、お願いします」
―――――そういうことに、なった。
クラウドの部屋までの距離は、ままある。
そこまで辿り着くのにはある意味で危険な部分が何箇所かあるのだが、それは大方警備員のいる場所だった。
とはいっても、この夜間警備というのはあまり頑丈ではない。ソルジャーの住まうソルジャー棟の警備員などはっきり言ってしまえば意味の無いものだ。
何故って、もし何らかの犯罪が起こったとしても、その警備員諸君よりソルジャー諸君の方が余程腕が立つからである。
という訳で、ソルジャー棟では警備員はあまり見かけない。基本的に見回りはしているのだが、実際はもうしなくても良いという暗黙の了解になっているらしかった。
そんな訳だからクラウドが気をつけるのは自分の方…つまり兵舎の入口だけだった。
セフィロスが一体どこまで送ってくれるのかは良く分からないが、まあそこまでは来ないだろうと思う。
セフィロスの部屋はソルジャー棟の外れだから、多分、クラウドを送るといってもそれはソルジャー棟の出口くらいまでのはずだ。
そこまでの辛抱だ、そう思いながらクラウドは、セフィロスと肩を並べて歩いていた。
てくてく…
歩いている間の、ものすごい緊張感。
周囲は夜の闇だし、隣のセフィロスはすっかり何も話してこない。
クラウドの視界に入るのはセフィロスの胸辺りだったから、顔なんかはまず見上げないとならない。故に、視線は合わない。まあこの点は良いと思う。
ソルジャー棟と、棟を囲む塀までの間、二人は何も話さなかった。
けれど丁度その塀のところまでやってきた時、緊張を解いた顔でクラウドはこう言う。
そう――――だってソルジャー棟は此処で終わりだから。
つまり。
「ありがとうございました」
「―――――は?」
突然何を言い出すんだ、そんな具合にセフィロスが顔を顰めると、クラウドはなるべく満面の笑みを作りこう続ける。
「ソルジャー棟から先は、一人で帰れますから。セフィロスもこれ以上行くと手間がかかるだろうし」
「…お前バカか?」
「え。だって本当の事じゃないですか」
まさかこれ以上ついてこられて、緊張MAXになるのも、借りを作るのもゴメンだと思う。
そう思うが、そんなクラウドの事など何のその、セフィロスは呆れたふうに溜息なんかをつく。
「お前、今日がどういう日か知らないからそう言えるんだぞ」
「え?」
「―――――何の日か知ってるか?」
「いや、知りません」
はあ、そんなふうに溜息が聞こえてくる。
クラウドにはさっぱり分からなかった。
そんな大切な日なのだろうか、今日という日は?…良く分からない。
一体今日は何がある日なのだろうか?
「まあ良い…とにかく俺は、お前の自室まで送る」
「ええっ!?」
それは正に恐れていた事態だった。自室…というからにはやはり、一般棟である兵舎に入るということだろう。
此処からはまだ結構距離がある…となると、そのあいだずっと緊張が続く―――――…考えられない。
それだけは避けたい、それだけは勘弁!
そう思ってクラウドは慌てて、ブンブンと両手を顔の前で交差させた。
「いっ!良いですよ、そんな!!だって!悪いしッ!!」
「―――――お前、俺を迷惑だと思ってるだろ…?」
「いっ!!…そんなコトありません――――ッ!!!!」
「では問題無いな。送る」
「……」
すっきりした顔でそう言ったセフィロスに対し、クラウドは、ぜぃはぁ言っていた。
まさかまさか迷惑だなんて、絶対悟られちゃいけない。しかし、かといってこのままでは辛すぎる。
が、しかし――――――。
「ホラ早くしろ。遅くなるぞ」
「はあ…」
もう既に、セフィロスは前を歩いていた。
―――――…正に憂鬱…。
セフィロスが嫌いなわけではないけれど、どこか安心できないこの感覚は何だろうか。
ザックスとだったら絶対感じないのに、どうしてこう緊張してしまうのか。
それはセフィロスを良く知らないからだろうか。
それとも別の理由?―――――確かに憧れているけど。
「…はあ」
何だか嫌だ、この感覚。
送ってもらっているのに前後に歩いている。
ワケが分からない。
そんなふうにクラウドが、ああでもない、こうでもないと考えている内、ふっとあるモノが視界の中に見えた。
すっと、現れて―――――。
そして。
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