インフォメーション
■SWEET●SHORT
セフィロスの気持ちを聞きたいクラウド君の話。
言霊:セフィロス×クラウド
『言霊って知ってる?』
いつか誰かにそんな事を聞かれた。
言葉には魂がある、そういう内容だった。
言葉にすればそれは真実になるんだって、その誰かは言ってたっけ?
別に言葉なんか無くったって良いのにって思ってたけど。
でも…。
今なら、少しそれも分かる気がする。
「お前、帰らなかったのか」
リフレッシュ休暇とやらで、ガランと静まってる訓練生の兵舎。
残ってるのは、俺と、あと数人。
見回りとか言って兵舎に来てたせセフィロスは、俺を見つけてそんなふうに言う。
「だってセフィロスと会えないし。大体、俺は帰る資格無いよ」
俺は本当に思ってることを口にしただけだったけど、セフィロスは何だか不機嫌そうな顔になった。
そんなにマズイ事、言ったかな?
「休暇中とはいえ、お前は残ってるんだから自覚を持て」
「自覚って?」
「残っているなら話は別だ。個人訓練に励むんだな」
「ゔ…」
相変わらず痛いトコ突いてくるんだよなあ。でも仕方無い。だってセフィロスはソルジャーだし、会社で言えば普通に上司だし、言う事聞かないと。
でもセフィロスは嬉しくないのかなって疑問になる。
だって折角こんなふうに堂々と会えるのに。というか、普段から堂々とは会ってるけど、やっぱり二人きりとは違う。
休暇期間なら兵舎には殆ど人なんかいないし、俺は嬉しかったんだけどな。
俺はそんなふうに思いながらも、はい、なんて正直に返事をした。
「セフィロス、もう帰るんだ?」
用件は済んだといわんばかりに背中を向けるセフィロスに、俺は慌ててそんな事を言う。
本当にただの見回りなのか、セフィロスは「他に何かあったか」なんて答えてきた。
どうせ俺なんか眼中に無いんだろうな。
でも、引き止めてどうしようって訳でもなくて、俺は言葉を失う。
こういう時、何て言えば良いんだろう?
もっと一緒にいようよ、なんて口が裂けても言えないし…。
だってどうせ…。
「今は“任務”中だ」
「…だよね」
やっぱそう来ると思った。
俺はちょっと悲しくなったけど、それを気付かれないように、じゃあ、と物分りの良い言葉をかけた。そして、やっぱりセフィロスはお決まり文句を言った。
「ああ。くれぐれも訓練は怠るな」
はい、分かってます。
トレーニングルームで一人、汗を流してるのも何だか変な感じだった。それでも暇よりかは何倍か良かったから、俺は黙々とトレーニングしてやった。
日頃の訓練と同じ時間だけトレーニングするっていうのも、かなり体力を使う。でも結局はそれをこなして、慣れた自分の部屋に向かった。
戻っても誰もいないし、何だかんだ言って休暇期間って退屈かもしれない。だって俺は帰ろうとは思わないし。
俺は適当に飲料水だけ仕入れた。それから部屋に向かうと…どういう訳か、そのドアの前にはセフィロスがいた。
どうしたんだろう?
「終わったのか」
立ち止まってる俺に気付いて、セフィロスはそう声をかけてきた。
「うん。ちゃんとトレーニングしてきたよ」
約束は守ったよ、セフィロス。
俺は心の中でそう付け加える。
「“任務”は終わったの?」
「ああ」
「お疲れ様です」
「……」
一応、いつも通りのやりとりの手順を踏んだっていうのに、セフィロスはどうもまた不機嫌そうな顔になった。
また変な事言ったかな、俺?
困惑してると、セフィロスはふいに「入らないのか」と視線でドアを指した。
「あ、うん。入る。…えっと、セフィロスは?」
何だか誘ってるみたいで嫌な台詞だったけど、本当にそうなんだから仕方無い。いつも二人で会う時は、必ずセフィロスのトコだから、何だか変な感じかも。
「悪くない」
セフィロスは俺に問いにそんな曖昧な言葉を返した。
悪くない、って…本当はどう思ってんだろう?
でも此処にいたって事は―――なんて、期待するだけ馬鹿かもしれない。
「じゃあ」
俺はドアを開けて、セフィロスを招き入れた。
訓練生に与えられた部屋は、そう広くもない。というか、はっきり言って狭い、かな。
しかもこの日なんて最悪だった。何がって、正に部屋の中は無法地帯状態だったから。
「お前、少しは片付けろ」
ちょっと呆れたふうに言われて、ごめん、と取り敢えずは返しておく。
男だったら結構「普通」で済みそうなもんだけど、相手が悪かった。何せセフィロスは結構、身の回りは綺麗な方だしね。っていうかそれって、もしかして専属で誰かが片付けてたりして…。
「狭苦しいな」
ごく普通に、隅のベットに腰掛けたセフィロスは、部屋の中を視線だけで見回してる。こういう時、別に見られちゃヤバイものは無いのに、どういう訳か焦る。
「いつも此処で生活してるんだな」
「あ、うん。最初は寂しかったけど、今じゃもう慣れたよ」
「ふうん?」
初めて此処に来た時は、狭くて寒くて、それに独りきりだったから、思わずホームシックな気分にもなったりしたけど、今じゃある意味、快適って言えるかもしれない。
俺は買ってきた飲料水を取り合えず置いて、適当に腰を下ろす。
「普段、何をしてる?」
「へ?…何、って…。訓練の事、考えたりとか…」
「“とか”?」
うっ。
何でそういう所を突っ込むんだろう、この人は。
俺が普段考えてる事なんて、訓練の事か、あとは…。
この人の事、か…。
チラリとセフィロスを見てみると、珍しく笑ったりなんかしてる。何か嫌な感じだなあ。どうせ分かってて聞いてるんだもんな。
「自分で処理したり?」
可笑しそうにそんな事まで聞いてくるんだから、本当に困る。
「そりゃ…あるけど」
とりあえず答えておいたけど、何だか次の質問が見えてきて俺は一人で焦った。しかも正に的中って感じだ。
「何を考えながら?」
こういう時、セフィロスは本当に意地悪だと思う。だって、本当に分かってて聞いてるんだから。
俺の答えを聞いて、だからどうって訳でも無いんだろうけど…ある意味イジメだよ、本当。俺はちょっとイジけ気味にボソリと答えた。
「…セフィロスの事、とか…」
「―――ふうん?」
俺を見ながら、口の端はやっぱり上がってる。
やっぱ言わなきゃ良かった…そう後悔しながらも、その視線が随分と執拗で、俺は妙な気分になる。
何だろう…。
だけど良く考えたら、このシチュエーションって答えは一つじゃないのかな。
だって、特に用も無いのに夜中に二人きりで。本当のところ、俺は休暇期間を楽しみにしてたけど、その理由はコレだった訳だし。
でも何でか、凄く照れる。
いつもはこれ程、緊張なんかしないのにな。
大体いつもと違いすぎるんだ。いつも俺が独りで考えてる場所に、今はセフィロスが…本人がいたりなんかして。
何か凄く、変な感じだ。
「クラウド。…どうしたい?」
いきなり髪を撫でられて、思わずビクッとしてしまう。
どうしたいか、セフィロスが俺に聞くのはいつもの事だ。
毎回思うけど、コレってやっぱり意地悪だよ。そういう雰囲気に持っていくのはセフィロスなのに、いつも肝心な事は言わない。
結局最後に言うのは俺ばっかりなんだ。分が悪いよ。
でもやっぱり今日も、俺が決定打、なんだ。
「……しよう、よ」
→NEXT