インフォメーション
暑中見舞いの葉書にセフィがお怒り…!?(笑)
暑中お見舞い申し上げます!:セフィロス×クラウド
「”暑中お見舞い申し上げます”…何だこれは」
セフィロスは、ある日自分宛に届いたその一枚の葉書を見て、怒り気味でそう呟いた。
そんなセフィロスの隣でくつろいでいたクラウドは、その葉書を覗き込んで、
「何って、暑中見舞いでしょ」
そんなふうにさも当然のことを言う。
というか、そんなものは言われなくても分かる。見りゃすぐ分かるのだ。
「そんな事は分かっている。だがこれはいかにも定型文ではないか」
「いや、でも、決まり文句みたいなもんだし…」
「誰が決めたんだ、そんなもの」
「し、知らないよ!」
ほぼどうでも良さそうなことに怒り始めたセフィロスに、クラウドはそろそろと防御体制に入る。
そう…こういう時は関わらないに限るのだ。
セフィロスときたら本当にどうでも良さそうなことに怒り始める。
確かそう…いつだったかの祝日もそうだった。その祝日は確か神羅の創立記念だか何だかの日で、嬉しいことにその日は休みとなっていたのだが、それに対しても何故だかプンプンと怒っていたのだ。
お怒りの理由は――――――「記念だからといって何故休みなんだ!!」、である。
何故といわれてもそんなものはクラウドの知ったことじゃない。というか、休みなんだからラッキーくらいのものである。
それだというのにセフィロスは何でだかそういうものが納得できないらしい。
「全く…この世には不可解なことが多いものだ」
「はあ、まあ…」
っていうかセフィロスの方がよっぽど不可解だし、と思ったが敢えてそれは言わず、クラウドは同意っぽい言葉だけを口にしておく。
今回セフィロスがお怒りの件は、暑中見舞い―――――そう、付き合いとして出す、アレである。
暑中見舞いの葉書などというものは今ではほぼ定型文なのが相場だろうと思われるが、セフィロスはどうやらそこが気に食わないらしい。
「で、それ誰から来たの?」
念の為セフィロスから数メートル離れておいたクラウドは、取り敢えず会話を続ける為にそんなことを聞いた。今ここで黙り込んだらそれこそドツボである。
「これか…これは、ザックスからだ」
「へえ!ザックスが?」
何だか意外だな、そんなふうに思ってクラウドはちょっと表情を変化させた。ザックスといったらそんなに筆まめとは思えないけれど、さすがにこういう時は葉書なんぞを出したりするものなのか。
そうしてクラウドは、どちらかというと感動気味だったのだが、しかしセフィロスはそういうわけにはいかなかった。
「”暑中お見舞い申し上げます”…ああ、ますます気に食わん!ザックスが”暑中お見舞い申し上げます”だぞ、”暑中お見舞い申し上げます”!何が悲しくてあいつに”暑中お見舞い申し上げます”だなどと言われなくてはならないのだ。そもそも”暑中お見舞い申し上げます”などというのは…」
セフィロスはやたらめったらに”暑中お見舞い申し上げます”を連呼し始め、最後には「もうどうでもいい!!」と叫び出す始末である。どうでも良いなら最初から言うなよ、とすかさずクラウドが突っ込んだのは言うまでもない。
で。
何故セフィロスがザックスからの感動の葉書をなじるかというと、それは定型文のせいではなかった。
最初セフィロスは、暑中お見舞い申し上げます、という定型句が気にくわないような事を言っていたものだが、どうやらザックスからの暑中見舞いに関してはちょっと怒りの意味が違っていたようである。
それはつまり、こういうことだった。
「暑中お見舞い申し上げます、という定型句はもう聞き飽きたのだ。そんなものは分かっている。そもそもこの殺人的な暑さに対して暑中お見舞い申し上げますどころで終わらせることなどできようはずもあるまいが!!」
「は、はあ…そうです…よね」
確かに暑い。暑いのだ。定型句で綺麗に飾るところの騒ぎではない。
できれば「暑い」じゃなくて「あっぢ~」でサックリ終わらせたいところである。
「しかもだ!ザックスがこの言葉を使うのは馬鹿げている!!」
「そ、その心は?」
「つまり!奴とは昨日会った。そしてそこで奴は言ったのだ。”あっち~な全くよ。やってられねえよなあ”と!!それが一転して”暑中お見舞い申し上げます”だと…ふざけるのも大概にしろ!」
いや、ザックスとてふざけてはいないと思うが。
「へ、へえ…ってことはつまり。ザックスが言うと嘘くさいんだってこと??」
「いや、そういう意味ではなく…ってお前。それはさすがにザックスに悪いだろう」
「…ごめん…ザックス…」
「つまり。俺は昨日ザックスに会って、あいつの本心が”あっち~な全くよ。やってられねえよなあ”であることを分かっているのだ。にも関わらず、もう既に分かりきっていることをわざわざこのような定型句にして、更には葉書にまで書く、ということが分からないのだ。そもそも夏の挨拶というなら、最近暑いったらねえでございますよね~、本当やってられねえざますよね~、だけで済むだろうが!違うか!?俺は間違ってるか!!?」
「いや、滅相もありません!すっごく合ってます!」
クラウドは敬礼の如くに額にピッと手をつけながらそう言うと、心の中で別のことを考え始めた。
なるほど、そういう意味だったらば――――――これはマズいぞ……、と。
確か…そう、クラウドは今日、セフィロスに何度か言ってしまったのだ。
”暑いね”、と。
それだけなら別に問題もないだろうが、実はクラウド、ザックスと同じくあることをしてしまったのである。
そう…つまり、何と言うことかセフィロスに暑中見舞いを出してしまったのだ…!
その暑中見舞いの葉書は、今日セフィロスの元にやってくる前にポストに投函したもので、多分明日にはつくだろうと思われるブツである。
当初クラウドは、ほぼ毎日顔を合わせているのに葉書なんて書かなくても良いか、と思っていた。仕事上の付き合いも勿論あるから公用として出すというのは考えられるが、しかしセフィロスとは恋人関係でもあるし、普段から色々と話しているわけだから今更改まって挨拶というのもおかしいかなあなどと思っていたのである。
しかしそれでもクラウドがそれを出したのは、いきなりそれが届いたらセフィロスも驚くだろうと思ったからだった。
しかもクラウドの予定でいくとセフィロスは、驚いたけれど心底喜ぶ、という設定まで用意されていたのである。喜んだセフィロスはクラウドをヒシッと抱きしめ、そして……。
――――――――――”予定は未定”。
嗚呼!
何て素晴らしい言葉なのだろう!!
「……うっ」
まずかったな、そう思わざるを得ない。
明日にはきっと届いてしまうクラウドの暑中見舞い。
それは、その日のクラウドの体感温度を、ちょっとだけ低下させたのであった。
後日、クラウドの葉書は無事、セフィロスの元に届いた。
その葉書にこう書かれていたのは言うまでもない。
”暑中お見舞い申し上げます”。
END