Lively【セフィクラ】

セフィクラ

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■SWEET●SHORT
困っているクラウドを助けるセフィ。

Lively:セフィロス×クラウド

最近なんだか生き生きしてんじゃない?

そう言われてセフィロスは首を傾げた。

「生き生きしている…?」

生きてはいるが、生き生きというのは今までこれといって感じたことがない。物心ついた時から生きる道は一つだったし、でもそれに生きがいがあるというわけでもなかった。

だから、生き生きというのがどんなものか、あまり考え難い。

しかし、セフィロスにそう言ったザックスは「そうだよ」などと言いながら笑った。その笑いはちょっとからかうふうだった。

「セフィロスが自分から何かするなんて、あんま想像つかなかったけどなー」

「何だそれは」

「何だって…そりゃアンタ。その手に持ってるもん。それが証明してるでしょうが」

「え?」

そう言われてふと自分の手を見遣る。

その手の中には、小さな一つの本があった。


クラウドが課題を出されて泣きに入ったのは、つい先日のこと。

長期休暇を目前にして出されたその課題は、何だかどこぞの学校の宿題の如くレポート提出ということになっていた。

さて、その課題であるが。

「俺、神羅の歴史なんて知らないよ~」

――――神羅の歴史について、だった。

神羅カンパニーには、神羅の歴史について書かれている書物など存在しない。というか、存在してもそれは一部の幹部だけが入れる書庫にあるかもしれないというくらいで、クラウドのような人間は到底入れなかった。

その課題を出した男は、実に意地悪である。資料もないものを課題として出して、兵士達が困り果てるのを見るのが彼には嬉しいことだった。だから実はこの課題、パニックして「カレーの作り方」を書こうが「正しい貯金のため方」を書こうが、どうでも良かったのである。何しろ困っているのを見るだけでその男は満足だったのだから。

しかしそんなこととは知らない兵士諸君は実に困っていた。

資料も無い。

大体の兵士はそれでも頑張って近くの村や町に聞き込みに行くと張り切ったものだが、最初から挫折した一部の兵士は「カレーの作り方」を研究し始めていた。

さて、そんな中クラウドは一人、泣きに入っていた。

別に理由は無かったが、セフィロスの元に行くとゲッソリした顔でその話題を振ったりする。課題なんてものが出されたけれど、神羅の歴史なんて知らないんだ、と。勿論これはわざとではなく、単に相談とか愚痴とかいったレベルのものである。

しかし、幸いにもその相談とか愚痴を言った相手であるセフィロスは、神羅の歴史というものを大方把握している人物だったのである。

混乱気味のクラウドには、そんなことを考える余裕は無かったが。

「神羅の歴史か…」

セフィロスは特別何もアドバイスなどしなかったが、そう呟いて顎に手をやる。

セフィロスは神羅の歴史がそれほど綺麗なものでないことを知っていた。今でこそこんなに華やかな大企業となったものの、その過去といったらモノクロ映像みたいなもので、汚さも狡さも存分に有している。

しかしそんなことをさもシリアスに語るわけにもいかず、セフィロスは、

「そんなものは知らない方が良いと思うが」

などと言った。しかしクラウドは、自身の興味でそれを知りたいわけではなく、課題の為にそれを知りたいだけであって、そんなことはどうでも良かった。

「俺はレポートがかければそれで良い!」

あ~どうしよう、そんなふうに嘆きながらクラウドはそう言ったものである。

だからセフィロスは、クラウドには何も言わずにあることを考えた。それは、兵士達が欲しがっていた「資料」の提供だった。

そんなわけで。

一部の幹部しか入れない書庫などに出向いて、柄でもなく「神羅の歴史」にまつわる本などを持ち出して、英雄セフィロスはクラウドにそれを渡そうと思っていた。

まさに、小さな親切。



クラウドを呼び出したセフィロスは、資料である小さな本をクラウドに手渡した。

その本は表紙に何も書かれていなくて、少し汚れていて、何だか感じが良いものではなかったので、それを手渡されて受け取ったクラウドは首などを傾げていた。

身に覚えの無い本なのだ、当然だろう。

しかしそれを受け取ってパラパラと捲ったりするうち、クラウドはそれがどんな本なのかを把握した。あまり読みたいと思わせる作りではないが、確かにそれは神羅の過去について綴ってある。

そう、資料なのだ。

「セフィロス、これどうしたの?」

少し喜んでそんなふうに聞いたクラウドに、セフィロスは淡々と答えた。

「書庫にあった」

「それ、俺じゃ入れないところでしょ?」

「ああ、そうだな」

ふうん、などと感心しながらクラウドはその本を見ている。楽しいとかそういう問題ではなく、その本があることで課題が消化できるということが大きい。

暫くそうしてパラパラとしていたクラウドは、やがて顔を上げると、にっこりと笑ってセフィロスに礼を言った。

「ありがとう。これでやっとスッキリしそうだよ」

それを見たセフィロスは、やはり淡々とした調子で「ああ」などと答える。

しかし心の中では、クラウドの見せた笑顔にとても嬉しいと感じていた。

それはセフィロスにとって、何だか奇妙な感覚であった。

レポートが滞りなく提出できたことで、クラウドは勿論、セフィロスも安堵していた。本来なら長期休暇後に提出でも良かったのだが、その本のおかげでクラウドはさっとそれを纏め上げると、煩わしい課題を消化しきったのである。

だから休暇中は何も考えずに気楽に過ごせるというもの…これは実に良い。

その長期休暇というのは、クラウドのような兵士にとってはパラダイス状態だったが、ザックスやセフィロスとなると少し話が違った。

ザックスの場合は期間が少し短い。

セフィロスの場合は、無いに等しい。

つまり休暇中でも仕事はあるからである。

ザックスは文句の一つも垂れていたものの、セフィロスは特別その事実に何も思いはしなかった。休みというのは普段取れている分で十分だと思っていたし、長期休暇など取ったら身体がなまってしまいそうだからである。

それだからセフィロスは普通と同じように過ごしていた。

―――――――――但し、クラウドの言葉を聞くまでは…。

「セフィロス、聞いてくれよ!」

そう言ってセフィロスの元にやってきたクラウドは、セフィロスの渡した資料を手に今にも泣きそうな顔をしていた。

これはどうしたことか?

本当の資料が、果たして「カレーの作り方」に負けたとでもいうのか。

はて、そんなふうに首を傾げたセフィロスは「どうした」とやはり淡白な顔をして聞いたが、クラウドのこの一言にネジが一つや二つは外れてしまったらしい。

「酷いんだ!こんな資料どこから盗んだって怒るんだよ!!」

因みのそのネジの名前は「理性」というらしい。

「…それで?」

表面的にはいかにも淡白だったが、内心セフィロスの心はファイアーだった。いや、ファイラか、もしくはファイガでも良い。

「それで、ある人から借りましたって言ったら、それはどこのドイツだって言うから、俺はちゃんと“セフィロスです”って言ったんだけど、“そんなことあるはずないだろう”っていうから“そんな事あります”って答えて、でもやっぱり“そんな事ありますなんてあり得ない”って言われて、俺ムカついてつい“そんな事ありますなんて在り得ないって事は在り得ない”って怒鳴ってやったんだ。それで…」

「ちょっと待て」

「はい」

「延々続いたのか、その会話は」

「うん。で、あまりに疲れたからそこでやっと途切れたんだけど、捨て台詞に“盗みも嘘も駄目”とか言われてさ」

「……」

セフィロスはやはり淡白そうに顔色一つ変えなかったが、その代わり黙り込んだ。そして考え込み、暫くした後にやっとクラウドの顔を見遣る。

内心ファイアーはファイガ以上になっていたが、なるほど考えればクラウドがセフィロスとこうして話せる仲であることなど信じられない事に違いない。クラウドが本当のことを述べても勿論それを信用するとは思えない。

確かにそうなると、盗んだなどというのは頷けない話ではなかった。

しかし実際のクラウドは、盗んでもいないし嘘もついていない。

――――――要はココが問題である。

「ふむ…。ではクラウド、こうしようか」

「どうするの?」

やっとそう口を開けたセフィロスは、セフィロスの答えが読めていないクラウドに一つの提案をした。

問題はクラウドが信じてもらえていないという、その部分にあるのだから…つまり。

「それは実際のところは嘘でも盗みでもないが、相手はそう思う他ないのだろう。だからこうしてはどうだろう。相手の目にわかるように、嘘でも盗みでもなくすれば良い」

「…え。でもそれって、どうやって?」

首を傾げるクラウドに、セフィロスはただふっと笑った。

それはいつもの表情の中では一際映える表情だった。


さて、長期休暇が終わったその日のコト。

課題を出した男が蒼白になる出来事があった。それというのも、彼の出した課題に対して殆どの人が正しい神羅の歴史を書いて提出したからである。

男にすれば、とてつもなく詰まらない状況であることは間違いない。

その詰まらない表情の男を見ながらクラウドは一人笑いをかみ殺していた。何故ってそんな「つまらない状況」を作り出したのは他でもなくクラウドとセフィロスだったからである。

神羅の歴史をちゃんと書き上げて提出した兵士諸君がクラウドに感謝したことは言うまでもない事実だったが、クラウドもその状況には満足していた。むしろ兵士諸君に感謝していた。

たった一人だけでは非難の的だが、大勢であれば非難などできなくなる。

つまりセフィロスが言った「相手の目にわかるように、嘘でも盗みでもない」状況を仕立て上げればよかっただけの話。

「クラウド、助かったよ~。俺、カレーの作り方で終わるとこだったからさあ」

ある男がそう言えば、

「うん。資料があって良かったね」

クラウドはそう言って笑う。

ただそれをするだけで、その資料の出所などは一切口外しない。だから兵士諸君はクラウドがセフィロスと繋がりがあるなんて事は知らないわけで、例え課題を出したその男が何を喚こうがそんなものを証明するものもなかった。逆に言えば繋がっている事実を証明する者もいなかったが、それでもそれは問題視などされない。

クラウドはその状況に本当に満足をして、セフィロスに心から何度もお礼を言った次第である。それだからセフィロスも勿論悪い気はしない。セフィロスの方も大満足という具合。

その出来事は、セフィロスの中にちょっとした喜びを与えた。

但し、それがザックスの言う「生き生きしている」に繋がっていることなど、本人は到底気付いていなかったが。



しかしそれでも変化したことはある。

それは、もしクラウドがまた何か困った事態にでくわした場合、その時には助けてやりたいとそう思ったこと。

セフィロスは、本当に自然にこう口にしていた。

「クラウド、また何かあったらすぐに俺に言え」

その言葉を聞いたクラウドは、にっこりと笑ったものである。そして、ありがとう、セフィロス、などと言う。

それを聞いてセフィロスは少しだけ思った。

こうして誰かの為に何かをするというのは、何だか良いものだな、と。

だから次にザックスに会った時には勿論しっかりと肯定することができた。

最近やっぱり何か生き生きしてるんじゃないか、と言うその言葉に今度はしっかりと、笑みすら携えて。

「悪くない生き方を、見つけたからな」、と。

END

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