Diary of CLOUD(13)【セフィクラ】

*Diary of CLOUD

Diary of CLOUD / ニセモノ

  

「気が済んだか」

そう言うセフィロスの声が響いた。
もう既に黒い服を着込み、今までの行為に余韻などはないといったようなふうである。それはいつもの事だったが、それでもクラウドを詰る様な嫌な感じは一切無い。

クラウドはまだ上半身だけ服をつけないままだった。

どうしても納得がいかない。
あれだけ優しいセックスをし、なおかつそんな言葉すらかけてくる。どうしてそんなふうになってしまったのかが分からなかった。

「どうして…変わったんだ。アンタは、誰だ」

そんな言葉がふいに口をついた。

絶対違う。
こんな人間はセフィロスではない。

それだけはクラウドも譲れない部分だった。

何故なら、セフィロスはそういう存在であるべきだったから。そうでなければ、今まで作り上げてきた自分すらも「違う」。それすら否定しなければならない。

とにかく、許せない――――――。

「…どういう意味だ」

「せ…“セフィロス”はもっと…違う。違うんだ。アンタみたいな人間じゃない」

怒りと恐れが同時に襲う中、そんなふうにクラウドは言う。それを受けてセフィロスは何故かとても苦痛そうな顔をした。

その意味はクラウドには分からなかったが、やがてセフィロスの口から語られる事実によってハッキリとした。

それはまるで嘘のように、スルリとクラウドの耳に入り込む。

「お前は…俺の抜け殻を見ていたのだ…」

それを語る口調は、いつか医務室で医者と話すセフィロスを思い起こさせた。あの時の会話はクラウドには理解できないものだった。もしかしたらそれが何か関係あるのかもしれない。

「良く聞け。今の俺が、真実なんだ」

そう言って、セフィロスはクラウドの顔を見据えた。

 

 

 

戦争が終結した三年前、セフィロスの中で何かが変化し始めた。
元々セフィロスは宝条から特別な診察を受けており、それは戦時中だけはストップしていた。その為か、戦後に神羅に戻ってからは何かと身体の異常が続いていたのである。

身体が弱いのかと一時は疑いもしたが、戦闘中の感じからしてはそうは考えにくい。そもそも宝条の診察の意味や理由自体、良く理解できないでいた。

しかしそれを外せば何かとおかしい事が起こるのは承知していたので、セフィロスはそれを拒否する事はなかった。

一度だけ、何がおかしいのか、と宝条に聞いた事がある。

「そんな事は知らなくて良い」

だがその質問に、宝条はそう答えるだけだった。だからその理由は今でも明らかではない。

とにかくセフィロスの身体の異常が大きくなったのは戦後の事だった。

「戦闘中には異常は無い」

そう言うセフィロスに、宝条は「それはそうだろう」と軽く答える。

「問題はそうでない時だ。お前の場合、戦闘中は意識が勝手に高まる。つまり気を張り詰めた状態という事になるな」

「ではそれ以外の状態には何が起こっているんだ」

その質問に、宝条は低く笑った。酷く嫌な笑いで、セフィロスでさえ気分が悪くなる。

「お前が訴えてる異常を考えてみるんだ」

そう言われ、セフィロスはここ最近の異常について考えた。それは色んな部分で起こっていたが、一番大きいのが記憶の喪失だった。

ふと気付くと何日か経っており、その間の記憶が無いという事が頻発していたのである。その間に自分は勿論任務を遂行していただろうし、生きてもいたはずである。それでも記憶が無い。

そんなふうだったので、我に返った後に、あの件だが、などと人に言われるとさっぱり話が噛み合わない事も少なくなかった。

「記憶喪失…の状態、か」

そう呟いて宝条を見遣ると、相手は何も言わずに頷く。その通りだ、とでもいうように。

何かカルテのようなものを手にしながら隣の書類の束を捲りだした宝条は、それを見ながら「つまり…」と言い出した。

その書類には、今まで積み重ねてきたセフィロスの診察結果が記されている

「つまり戦前は身体的な異常しか見られなかったものが、今度は精神面に出てきたという事だ。まあ、こうなる事も予期はしていたが」

「予期していただと?」

自分の身体の詳細を知り尽くしているような宝条は、セフィロスにとっては謎な存在だった。それと同時に、他では妙な実験すらしていて、その部分においては軽蔑すらしていた。

「そうだ、お前は特別な人間だ。だから徹底管理が必要なのだ…他のクズ人間共と違ってな」

「……」

「まあお前にも分かるように説明しておこう」

そう言いながら宝条は近くにあった椅子に腰を降ろす。それから、セフィロスの異常に対する考察が語られた。

「さっきも言ったが、お前は特別な人間なのだ。それがどういう意味でかは言えんが、戦闘に適しているという事だけは確かと言って良い。

戦闘に適すとは即ち、肉体的・精神的に強靭であるという事を意味している。その強靭さを数値に直すとすれば、元々その数値が高いという事だ。しかし普通の人間からすればその高さは異常だ。普通のソルジャー連中は戦闘時に意図的に意識を高めるが、お前は勝手に高まる。

それは何故かといえば、無意識にそういった状態になるように精神が動いているからだ。
戦闘を終えた後、高まった意識は大体、収まるものだ。だがお前の場合、一度ヒートするとそれがすぐに収まらないわけだな。だから連続して戦うような状態…つまり戦争中などはずっと意識が高まったままといえる。
戦闘以外の状態では、お前は普通の人間と同じ状態だ。…まあ知能指数は違うがな。

まあ、それは良い。とにかく戦闘が終わった場合、お前は普通に戻ろうとする。それは意図的にお前が行っている動きだ。だが無意識中に高まった意識はまだそのままなのだ。そこで矛盾が発生する。分かるか?」

一気にそこまで説明すると、宝条はセフィロスに同意を求めた。それにただ頷くと、宝条はまた延々とこう続ける。

「それこそが原因だ。無理に相反する意識が混同するから、そこに溝ができる。どちらが優先されるべきかお前の精神は考えるわけだ。

だが、何度も言うがお前は元々特別なのだ。強靭な精神とは、意図的にお前がする動きではなく、無意識に動く方を指す。つまり戦闘時の高い意識の方だな。
それこそが本質なのだから、そういう場合はそちらが勝つ事が多い。

が、しかし、だ。それとて限界というものがある。
あまりに長時間ヒートすると、たまに急速に落ちる。それが今の状態…つまり普通の状態だ。

だが基本は強靭なのだから、落ちた後にまた急速に上昇する。その動作が繰り返されると、次第にその連続状態から抜け出せなくなる恐れがある。…それは非常に不便だ」

「じゃあどうしたら良いというんだ?」

宝条の説明からすると、今の普通の状態の自分は一時的なものといえるはずだ。もう暫くしたらまた意識は上昇し、普通の状態に起こすアクションの記憶が吹き飛ぶおそれがある。

「戦争参加は意外と悪影響だったな…」

そう呟きながら、宝条はクルクルと歩き回る。しかし暫くすると、書類の束から一枚の紙を抜き取り、それをなめるように見た。

「元々こう精神面に異常が出たのは、身体的な異常を止めたからだろうな。以前は…体の一部が妙に痛み出したりしただろう?」

「ああ…」

「その状態を止める為に、戦争直前に薬を投与した。しかしそれが精神面のコントロール力を弱めたようだ。まさかこんな失態をするとは…」

そう言いながらも宝条は笑っている。不可思議な行動である。

「仕方無い。あの時とは反対の薬を投与するとしよう。今はまだ両面を直す薬はない。だからまた身体に異常がでるかもしれないが、取り敢えずはそれで精神面は安定するだろう。コントロールがうまくいく」

宝条は早々に薬とやらを用意しようとしたが、そこで思い出したように肩を落とした。どうやらその薬品のストックが無かったことを思い出したようだ。

仕方無いといったふうにセフィロスに向き直ると、宝条はこんなふうに言った。

「…時間がかかる。三年はかかってしまうだろう。その間、今のままで過ごせるか?もし出来ないなら、完全に意図的な動きの方を消すしかない。曖昧だと周囲の人間に不審に思われるだろう」

「しかしそれでは、俺はずっと無意識に行動するという事か?」

「まあ、そういったことになる。だが安心しろ。無意識の行動とはいってもお前はお前だ。ちゃんと仕事はこなすだろう。ただ、その人格は保障できないがな」

「人格…そういえば俺はどういったふうに振舞っているんだ…?」

記憶のない間の自分というのが、セフィロスには良く分からなかった。その分、それが三年も続くというのは不安でもある。

「問題ない。戦闘時のお前の強靭さが続いたような…そんな人格だろう。そもそも今のお前は少し甘すぎるな」

クク…と笑いながら宝条はそんなふうにセフィロスを表現する。それは、人に気を遣ったりする部分がある「普通」の状態…つまり意図的に動く今の自分を否定されたような気分にさせた。

嫌な奴だ――――そう思う。

「三年経てば、その効果がなくなるようにしておく。心配はない」

まだどちらにするとも選択をしていないというのに、宝条はすっかりその気だった。セフィロスは何も言わずにそのまま黙っていた。

結果、それは宝条の選択に同意した事になり、セフィロスは三年の間、全く意識のない状態で、しかも全く違った性格のまま過ごす事になったのだ。

 

 

 

その三年後が、その年だった。

その間、セフィロス自身は自分がどういう振る舞いをしていたかを知らない。ただ、三年ぶりに自分という意識を取り戻し、変わり果てた様子に順応しなければと思っていた。

薬の投与を受け、何週間はまだ意識の上下があった。
だが、それもようやく無くなってきていた。

 

 

 

その話を聞いて、クラウドは目を見開いた。

まさかそんな事で今までの行為を否定するというのだろうか。いくら無意識だとはいっても、違う人格や性格だったといっても、それでも自分を狂わせるほどの事をしてきた人物なのだ。

クラウドにとってその事実は変わらなかったし、それに慣れきった状態で急に変化されるのも違った。

違う―――――。
その事実を聞いてもなお、クラウドは目前のセフィロスを拒否した。

「俺は…信じない…」

「信じる信じないの問題じゃない。真実だ」

そう言い切るセフィロスを、クラウドは睨み付けた。

許せない、認めない、要らない。
こんなセフィロスは、“あなた”じゃない――――!

ふと近くにあったシーツを強く握りこむと、クラウドは力任せにそれを引っ張った。それは宙に舞い、セフィロスに降りかかる。それを難なく振り払うと、セフィロスは眉をしかめた。

セフィロスには、クラウドが何を望んでいるのかが理解できなかった。彼にとっては、セフィロスという人間は自分自身でしかない。クラウドや、その他の人間がこの三年間に関わってきた“セフィロス”など知りえないのだから。

「セフィロスはどこだ…っ!」

「私がセフィロスだ。血迷うな」

「違…うっ!」

唇をかみ締めて、クラウドは咽喉の奥から声を絞り出した。頭が変になる。

 

認めない、嫌だ、そんなのは違う。
居なくなれば良い、アンタなんか!

そう、いなくなれば…セフィロスを騙る、ニセモノ。
要らない、要らない、消えろ…!

――――あの人に、アナタに、会いたい。

あの人だけ…!

 

「セフィロスを…返せっ!!」

 

クラウドの声が部屋に響き渡った。

  

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