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奇襲のキス:ザックス×クラウド
クラウドは今、果てしなく許せない現状を目の当たりにしていた。
そう…人のことを呼び出しておいて寝ているなどという恐ろしくフトドキな輩が、目の前で気持ちよさそうに目を閉じているからである。
電話で呼び出されてから、おおよそ20分。
それほど遅くはないはずだ。
「…っていうか俺、何の為に来たわけ?」
クラウドは大きなため息を吐くと、取り敢えず落ち着こうと思い、適当にベット脇へと腰を下ろした。
今、ザックスはベットに仰向けに寝転がっている。
何もかけていないし、あまりにもラフな様子だから、間違っても「寝よう」と思って眠ったわけではないだろう。恐らく、待っている間にうとうと…というのが本当のところだろうと思われる。
「…まあ、ザックスだって忙しいもんな」
きっと疲れてるんだろう。
クラウドはそう思い、無駄足になってしまった自分については諦めようと思い始めていた。
だって、眠っているザックスを見ていると、とても起こそうという気にはならない。疲れているなら眠るほうが良いのは決まっているし、そんな中で自分に会いたいと思ってくれたことに対しては怒るなんて出来るはずがない。
―――ってことは。俺はこのまま帰るのか。
クラウドはちょっとザックスを見遣ると、残念そうな顔をしながらも笑った。
「仕方ないよな。また明日…」
そう言って、ベット脇から立ち上がろうとしたそのときである。
ふと、ザックスが寝返りを打った。
「うわっ」
思わず驚いたクラウドは、ついつい出てしまった声に慌てて口を押さえる。そうして、ザックスが起きてしまわなかったかをそろそろと確認した。
そっとそっと顔を近づけて、いざ観察。
「…よし」
どうやら起きてはいないらしい。良かった。
しかしそれよりも気になったのは、見慣れたザックスの顔にも知らない一面があるんだなあという事実である。そう、思えばこうして寝顔なんて見るのは初めてのことだったのだ。
「へえ…意外。なんか寝てる時って幼いカンジ…」
そんなことを思ったら、とたんに可笑しくなってしまったクラウドである。
だって、ひとたび起き上がればザックスはいつものザックスになってしまう。元気で、陽気で、笑顔で、とにかくパワーのあるザックスに戻るのだ。
だけれどこうして眠っているときだけは、そういうパワーいっぱいの自分を休業しているみたいに見える。
もしかしたら実はコレ…レア体験なのかも?
「俺だけの秘密、かあ…」
そう考えると、段々とこの状況が好ましく思えてきたクラウドである。折角こんなふうに秘密の状況なのだから、もっと面白そうなことをしようとあれこれ考えてみたものだが、これといって良いものは浮かばない。そもそもザックスの部屋にいるので、いまいち勝手が分からないのが痛い。
「……せめてキスくらい良いよね」
クラウドはチラッとザックスの顔を見遣ると、誰も見ていない部屋の中だというのに少し照れたように上の方を見遣り、コホン、とわざとらしい咳をした。
そうして、そっとザックスに顔を近づけ、奇襲のキスをする。
――――筈だったのに。
「お前、意外とエロいな」
「!!?」
なんということか、クラウドの奇襲キスは寸でのところで遮られてしまった。しかもそれは、バッチリ目を開けているザックスに、である。
先ほどまで眠っていたとは思えないほどにスッキリと開かれたその目は、何だか異様にニヤニヤと笑っている。
クラウドの顔が一気にかあぁっと赤くなったのは言うまでもない。
「ちょ…!ザ、ザックス、起きてたの!?酷いよ!言ってよ!」
「いや、言うタイミング失っちゃってさ。どうしよっかなって思ってたら…なんかオイシイ展開になってきたから目え覚ましちゃった」
ザックスはベットに寝そべったままの状態でクラウドの腰あたりに腕を回すと、
「俺にキスしたいんだろ?していいよ」
そう言った。
更に悪いことには、俺はされるがままになるから、などと言い出す。そんなふうに言われたら、返って緊張して出来やしない。
クラウドはむっつりしながらフン、とそっぽを向いた。
…恥ずかしさを隠せないまま。
「良いよもう!もうしなくて良い!」
「何だよ、もう終わりか?ったく、人の寝込み襲おうとしたクセにな~」
「人聞き悪いこと言うなよっ。っていうか襲ってないし!未遂だろ、未遂!」
「だから今から襲えば良いだろ?ほら、早く!クラウドからキスしてくれなきゃダーメ」
「はあ!?なにそれ!?」
余裕綽々のザックスに対し、クラウドは憤慨しまくりながらも大きな後悔をする。
奇襲キスなぞしようとしてしまったことを、これほど悔やむことになろうとは誰が考えただろうか。あんなものはただの可愛い好奇心に過ぎなかったのに。
それなのに、いつの間にかザックスに付込まれるキッカケになってしまったらしい。
あんなことしなければ良かったのに……でももう遅い。
「…分かったよ」
クラウドは渋々そう言うと、さっきの奇襲とは全く違う雰囲気の、手早く軽いキスをした。ターゲットは唇ではなく、頬。本当に挨拶程度のキスである。
「もっとマジなキスくれよ、クラウド」
「やだよ」
「何で?好きだろ、俺のこと」
「…あのさ。どっから出てくんのその自信?」
呆れた調子でそう言ったクラウドに、ザックスはにっこり笑ってこう言う。それがあまりにも自然だったから、クラウドは反論する気になどなれなかった。むしろ、気づいたら顔が緩んでいたほどである。
「そりゃ勿論、クラウドのこと好きだなって思ってる俺の中から。だろ?」
―――結局。
二人はもう一度キスをした。
勿論、今度は唇に。
END