夏蝉【ザックラ】

ザックラ

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■SWEET●SHORT

ザックスに伝言しに行ったクラは一緒に夏の昼寝を…。


夏蝉:ザックス×クラウド

 

 

夏の終わり、虫の鳴き声が重なって響く。

過ぎ去っていく短いその季節を弔うかのように。

まるで死に向かうものへの弔いの歌かのように。

 

 

 

「こら、ザックス!またこんなトコで寝てっ!」

ふっと目を開けると目の前にクラウドの姿があって、ザックスは眠たげな目をこすりながらも、おもむろにその体に手を伸ばした。

それからぐっと力強く引き寄せる。

「うわっ」

ドスン、と音を立てながら、クラウドは地面――――ザックスの体の上に倒れた。

「おもっ…」

「何だよ!ザックスが引っ張ったんだろっ!」

そうブチブチ文句を言いながらもクラウドの顔はそんなに怒ってるふうでもない。それを見て、柔らかく笑ったザックスは、今まで通りの昼寝の体勢で、くつろぐように欠伸を一つした。

目の前には空が広がっている。雲一つなくて、快晴で、時たま風がそよぐ。

神羅敷地内にある公園のようなところで、ザックスがこうして昼寝をするのは、最早、日課だった。とにかく気持ち良いし、良く眠れる。

与えられている部屋なんかよりよっぽど居心地が良い。

「ねえ、午後訓練、始まりそうなんだけど…」

がっしり掴まれて身動きが取れなくなっていたクラウドがボソリとそう呟いた。

「あ、そうか。ごめんな」

そう言ってザックスは慌てて手を離したが、クラウドは何故かそのままの位置で動かないままでいる。

「何だよ。行かねーのか?」

「行かねーのか、って…。せっかく此処まで来たのにさあ。冷たい、ザックス」

「冷たいかあ?そういや、何で此処まで来たんだよ?」

不思議そうな顔をするザックスに、クラウドは少しムッとしながら「伝言あったし」と言う。それはセフィロスからの伝言で、ザックスの午後の任務は担当が変わったから、という内容だった。

それを聞いたザックスは、おし!、とガッツポーズをして本格的に寝に入ろうとする。

「って!ザックス!寝るなっ!」

「何だよー。気持ち良いんだって、此処。お前も寝てみ?ほら、仰向けになって!はい!」

「えっ、ちょっ…」

あれよという間にザックスの隣で大の字にされたクラウドは、結局、一緒に仰向けになって空を仰ぐ格好になる。

――――――悔しいが、確かに気持ちいい。

上には限りなく空が広がっていて、僅かな風が頬をなでてくる。それがまた何とも眠りを誘う。

がしかし、眠れない要因が出来てしまう。

それは、突如頭上から降り注ぐ。

 

ミーン ミーン ミーン……

 

「ああああ~!!!もう、眠れねーよ、これじゃあっ!!」

いきなり鳴き出したのは、夏には良く見かけるセミだった。奴らの声といったら凄まじく、しかもやたらと長い。

「うるせーうるせーうるせー…」

「…ザックスもセミみたい…」

思わずそう呟いてクラウドは笑った。それに対してザックスは、だってよ、とぶつくさ文句を言っている。

ふっと目を閉じて、クラウドがこんなことを言い出したのは、セミの鳴き声もBGMになりつつある頃のことだった。

「セミってさ、確か夏しか生きられないんだよね」

その言葉に、今まで目を瞑っていたザックスの方は、それを開けて「ああ、そういえば」などと答える。

「夏っつーか、二週間とかじゃなかったかな?」

「そうだっけ?…にしても短いよね」

「ああ」

そよぐ風と青い空に、溶けていくように響くセミの声。

それはとても強く、存在を示すかのように鳴り響く。

誰しもがその声を耳にして、ああ、と思うのだ。鳴いているのはセミだとすぐ分かる。

「セミはその間に子供生んで死んじゃうんだよね、確か」

「そうだな。じゃなきゃ毎年鳴かないぜ、こいつら」

そうだね、と言ってクラウドはまだ目を閉じたままで笑った。

セミは何故その期間しか生きられないんだろう。そういう生き物として生まれてきて尚、この世に存在している理由とは何なのだろう。

きっといつかセミが鳴かなくなったら、誰しもが思うはずだ。今年は鳴かないなあ、と。だけどきっと夏という季節に彼らがいなくても、果てしなく困るということは無い。

それでもセミは鳴く。存在を示すように。

「俺、人間で良かったなあ」

ふっとそんなことを言い出したクラウドに、ザックスは「はあ?」と素っ頓狂な声を出す。何でそんなに話が飛躍すんだ、という顔をしている。

それをチラッと見遣って、だってさ、とクラウドは静かに言う。

「だってちゃんと言葉があるじゃん。伝えられるもん。俺は此処にいるよって言えるし、好きな人に好きって、ちゃんと伝えられるでしょ?」

その言葉を聞いて、成る程と納得したようにザックスは頷き、

「確かにそうだな」

と呟いた。

そうしながらも、ごろんと転がるようにしてザックスはクラウドの方向に身を寄せると、また目を閉じてしまったクラウドの顔をそっと覗き込む。随分涼しげな顔をして、のんびりとしている。そんな様子に思わずザックスは笑ってしまう。

そういえばクラウドは午後の訓練がどうたらとか言っていたはずだ。それすら今はどこかに消えてしまったかのように、その広い土の上には二人きりだった。

その時丁度、風が強く吹いて、ザックスの髪の端がクラウドの鼻を掠めた。

「ん?」

何だというように目を開けたクラウドは、あんまりにも至近距離にザックスがいて、思わず「わっ!」と声を上げた。

「何だよ、びっくりするじゃないかっ」

「何言ってんだ。観賞だ、観賞」

ははは、と笑ってそう言うザックスに、クラウドは眉をしかめる。

「……俺の観賞…?」

「そうそう」

「嫌な感じっ」

ふいっと顔を背けるクラウドにザックスはまた笑う。

クラウドとの会話はいつもこんな具合だったけれど、とてもとても和むものだった。何だかんだといってザックスはしっかり知っているのである。クラウドが自分を見ていること―――――例えば今日もわざわざ此処にやってきたのも、そうであるように。

それと同じようにザックスにとってもまたクラウドはそういう存在としてしっかり目の中に入っていた。

本当に偶然の出会いで、共通点なんてどこにも無い。

それなのに、それでも……。

ふとクラウドの背けられた顔に手を寄せたザックスは、それをやや強引に自分の方向に向けさせた。

「何?」

ちょっと不貞腐れた顔をまだしている。

そんな顔の、ある部分だけに焦点をあてると、ザックスはそのままそこに向けて、自分の唇を重ねた。とても自然なキスで、クラウドも拒否などしない。何だかそうする事はとても自然な事のように感じられる。

「ん…何か…?紅茶の味…」

ふっと離れた口で、ザックスはそんなふうに言った。

「あ、ばれた?」

「バレバレ!俺も飲みたい」

そう言ってもう一度、重ねてみる。一応それは外で、しかも公共の場であるのに、そのザックスに指定席には大概人がいないから、こうするには非常に好都合だった。

たっぷり味わったその後に、ザックスはまたごろんと横になる。クラウドの方は何だかボーッとしていて、そんなことは目に入っていないようだった。余韻に浸っているのかもしれない。

しかしザックスの方はそんな事はお構いなしといった感じで、もう既に違うことを考えていた。

そしてまだボーッとしているクラウドに向かって、こんなことを言う。

「俺、セミでも良いな」

やっと我に返ったクラウドは「え?」と訳が分からないといったように声を出す。

まだセミの話が続いていたなんてビックリするしかない。

しかもセミで良いとはどういった意味なのだろうか。

「何で?」

一応そう聞いてみるクラウドは本当に不思議そうに首を傾げる。

ちょっとしか生きられないし、言葉も無いのに。

そんなクラウドにザックスはこう言った。

「セミだって同じようなもんさ。此処にいるんだって事、ちゃんと伝えてる」

「鳴き声で?」

そう、と頷いてザックスは言葉を続ける。

「それに短命って事はだな、余計なモン全部とっぱらって、たった一つの為に生きてるようなもんじゃねえ?」

「何それ。子孫、残す為?」

その為に生きてるなんて寂しくない?とクラウドは首を傾げる。しかしそんなクラウドに、ザックスは、違うって、などと言いながら笑った。

「セミにとっちゃ子孫残すことがメチャクチャ大切なことなワケだろ。つまりさ、メチャクチャ大切なことが、その“たった一つ”って事になんだよ」

そんな言葉に、クラウドは成る程と納得したような言葉を返す。

ザックスの言葉は更に続いた。

「でもだぜ、考えてみ?その子孫残すのが一番大切だとしたらさ、“俺は此処にいる”って鳴く行為はつまり、相手に訴えてるって事になるわけだ。だよな?」

「そうともいえる…かなあ」

何だか誘導されている気がしないでもないが、それもそうだなあなんてクラウドは唸る。

「何かそう考えるとセミも良いかなって。な?」

ザックスはそこまで言ってから、やはり笑った。

そうしてたった一つ、たった一人、大切な物を人を求めて、訴えて、そうして消えていくセミ。

命をかけて。

「誰かの為に死ねたら格好良いな」

そう言ったザックスに、クラウドは顔をしかめる。

何だいきなり、という顔である。

「何でもねえよ」

ザックスはそう言いながら、また先ほどのようにクラウドの体を抱き寄せた。それからしっかりとその体を抱きしめる。

クラウドは何を思ったかプッと吹き出した。

丁度その形がセミのようで。

「…セミ?」

「そ」

「じゃあ俺って…大木?」

「そ」

「もおっ!!」

思わず二人は笑ってしまった。

笑い声はそよぐ風と青く広がる空と、セミの声に溶けていった。

頭上ではセミがうるさく鳴いている。

 

 

 

夏の終わり、虫の鳴き声が重なって響く。

過ぎ去っていく短いその季節を弔うかのように。

まるで死に向かうものへの弔いの歌かのように。

 

END

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