Honey Style(Tuesday-1)【ツォンルー】

*Honey Style

火曜日:置去りハート

 

朝である。
すっきり快晴!…とは残念ながらいかなかったが、昨夜から“お隣さん”になったルーファウスと一緒に出勤などという恐ろしい構図を逃れ、ツォンは少し満足していた。

ああ見えてルーファウスの朝は早い。どうもあまり眠れない質らしい。
それはともかくとして、その早さを上回る早さで起きたツォンは、何が何でも捕まるものかと大急ぎで神羅カンパニーに出社した次第である。

勤怠は完璧―――――皆勤賞だ、ツォンはそう思ってほくそえむ。

取り敢えずはルードに一言言ってやりたいと思っていたが、彼の顔を見たらその気持ちも失せてしまった。よくよく考えればルードは何も悪く無いのだ。

自分とてルーファウスの本性を知らなければ同じ答えを出していただろう。
ツォンは、昨日散々ルードに毒づいていたことを少し後悔していた。

が。

そんな穏やかな状態も直ぐ去ってしまった。

「ツォンさん、副社長と一緒に住んでるんだって?」

ポン、と肩を叩かれそう言われる。五寸釘がグサッと胸に突き刺さったが、ツォンは何とかその相手を振り返った。

「言葉には気をつけろ、レノ。一緒じゃない、隣だ、隣」

「えー、どっちだって一緒なんだぞ、っと。一つ屋根の下なんだし」

マンションに屋根かと突っ込みたい。

「ツォンさんも苦労が耐えないな。ま、頑張って」

「……」

「…ツォンさん、何そんな物騒なモン、出してんの」

「…いや」

つい無意識に内ポケットの拳銃に手がいっていたらしい。きっと疲れているのだ。きっとそうだ。それはきっと…というか、絶対的に昨日からだろう。

とにかく今はもう社内なのだし、お仕事の時間である。そうそう子悪魔的ルーファウスに嘆息している暇はない―――そう自分に言い聞かせ、ツォンは心を落ち着かせた。

 

 

 

その頃、ルーファウスの飽くなき野望はさらに膨らんでいた。しかもそれは権力ゆえに具現化されようとしていたのである。

「もしもし。ああ…そうだ、神羅の。ルーファウスだ。で、昨日手配した件だが、今日着くのだろうな?」

ルーファウスは足を組みつつ、片肘をついたりなどして電話中である。その相手とはルーファウス御用達の高級衣類店だった。

これはルーファウスのトレードマークになっているダブル白スーツの素材選びから何までを担った店で、その高級さゆえに凡人では利用ができない。

ルーファウスは昨日の時点でこの店にある物体の手配をしていた。本来この店は全てがオーダーメイドであるため、仕上がりには少々時間がかかる。が、昨日ルーファウスの手配した物体に関しては、我侭を通して今日までに仕上げるように言ってあった。

そんな訳で、それは確認の電話だったのである。

『はい、できております。それでご自宅の方に配送でようございますかね』

「ああ、頼む」

『して、お支払いの方ですが…』

ガチャン。
相手の言葉半ばで電話を切ったルーファウスは、もう既に野望渦巻く思考の中にいた。
そう―――待ちに待った状況がやってきたというのに、これを豪勢にしない手はない。

ふっと笑った後、少し無邪気な表情を浮かべると、ルーファウスはデスクに伏せって目を閉じた。

「楽しみだなあ…」

その物体が日の目を見るのは、仕事が終わって自宅に帰った後。
…ちょっと先の、話。

 

 

 

誘拐に似た形でソルジャー候補をさらってくること。
それもまたタークスの仕事の一つである。

ここ最近は神羅の名も上がったせいか、そんな事をせずともソルジャーになりたいと志願する者が多い。とはいえ、そういった志願者がそれなりの実力を伴ってやってくるかといえば、そうでもない。

一から育てるシステムは勿論整ってはいるが、それでも即戦力は欲しい。
そんな訳で、やはりタークスはそういう部分でも動かなくてはならなかった。

「どう、こいつ?」

「ああ…」

目の前にいたのは、どう考えても実力などなさそうな若い男。いでたちからすれば、何となく農作業などを生業としていそうな感じである。

今回この男に目をつけたのはレノだった。

「…で。どういう基準でこの男を選んできたんだ?」

そう言ったツォンに、レノは…

「まあ、第六感ってやつ」

「第六感!!」

―――――何と曖昧な!

ツォンは肩をがっくりと落としながらその男を見遣った。…どう考えてもヤバイ。何がといえば、やはりその表情だろう。

万が一レノの第六感通りに実力があるとしても、こんなほんわかした表情のソルジャーとはいかがなものか。
男は、非常に優しそうな顔をしていた。

「おい、お前。名前は」

「え~っと~、ジャガー」

「ほーう…」

名前だけなら、強そうである。が。

「ウチ、先祖七代ジャガイモ作ってるんす。んで、そこからジャガー。これねこれね、もっともっと良いジャガイモができますようにっていう意味でつけてもらったんす」

「ほ…、ほーう…」

思わずツォンはどもった。その隣でレノはツォンの肩をポン、と叩く。

「ほらな、ツォンさん。俺の第六感って凄いだろ」

「……神羅は野菜に困ってる訳ではないんだが」

「いやいや、力は絶対あるって。信じろって、ツォンさん」

「……」

いまいち信用できなかったが、ツォンは納得をした。…多分、疲れていたのだろう。

とにかくそのジャガーに話をつけてみる。彼はとてつもなく穏やかな顔で首を傾げたりしていたが、それでも最後には頷いた。

しかし一度家に戻りたいというので、その希望を聞いて一日だけ時間を与えることになった。

「じゃあ、明後日…木曜には戻ってこい」

「は~い」

「……」

のほほんとした返事に、やはり首を傾げてしまったツォンであった。

 

 

 

ジャガーとの話を終えた後、レノとツォンはタークス本部に向かった。レノは自分が連れてきた男が一応はツォンに認められたことに満足している様子である。まあそれも当然だろうか、何せツォンは駄目だしが多い。

「いや~これはお祝いなんだぞ、っと」

「本当に使えるかは明後日以降の話だぞ?」

「良いって良いって。まずは祝いでルードと飲まないとっ」

「…元気だなあ」

そう言って苦笑したツォンに向かって、レノはニヤリと笑う。そして、肘でツンツン、とツォンを小突いた。

「またまた!ツォンさんだって、まだまだ元気なくせに」

「はあ?」

「――――夜が」

「ぶっ!」

何も無いクリーンな廊下で、ツォンは見事にバランスを崩した。よろけた身体をすばやく立て直したが、胸に刺さった五寸釘はもはや深すぎて抜けそうもない。

何でそういう方向にいくんだ、とツォンは心の中で毒づいたが、口に出そうものならまた何か突っ込まれそうな勢いだったので止めておいた。…とはいってもレノの眼はニヤニヤしている。

…はあ…。
ツォンの口からは溜息が連発したのだった。

 

  

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