PERFECT GAME(3)【レノルー】

レノルー

 

『――――分かりました』

ツォンさん、残念だったな。

でも後は任せてくれよ、この俺に。アフターケアは万全って感じ。ツォンさんの分まで、坊ちゃん、存分に可愛がってあげるからさ。

つまりこれってさ。

ゲームオーバー。

勿論、俺じゃない。

ツォンさんの、ゲームオーバー。

 

 

予定時刻、午後八時。

ドアがバタン、と開く。しかもこれまた、かなり勢いが良い。そこから顔を出したのは勿論。

「レノ!」

「待ってたんだぞ、っと」

はい、大当たり。俺の予想通りそれは坊ちゃん。大丈夫、内容は分かってる。

ツォンさんが大好きなんだって伝えに来たんだろ?でもそれはお断り。

「お前…どうして、どうしてツォンに…」

俺の前で泣きそうな面してる坊ちゃん。そんなに悲しまないで欲しいんだぞ、っと。喜劇はこれからなんだからさ。

「俺は言ってないんだぞ、っと。俺が言ったのはもっと別の事」

「何…?」

「まあまあ。でもさ、ツォンさんは何て言ってたわけ?」

「……“分かった”、って…」

そうそう、そう言ってたよな、ツォンさん。でも坊ちゃん、それの意味分かってないもんな。でも此処で俺が教えてあげるのは勿体無いんだぞ、っと。

だから自分の耳で確認。ツォンさん、何て言うか知らないけど。

「何が“分かった”んだろうなー、ツォンさんは」

「レノ…何が言いたいんだ…?」

坊ちゃん、そんなに震えるなって。

だから俺はちょっと紳士になる。だって坊ちゃん、ツォンさんみたいな紳士が好きなんだろ?

だから俺も紳士になってあげるって話。

そうそう、その腕を引いてさ。抱き寄せて、髪を撫でて。

耳元で囁いてやるよ。

「愛してる」

ほら、見事なもんだ。見様見真似でも此処までできるって知ってる?

「レ、レノ…?」

この前の三流メロドラマ、此処で再放送。ただ残念なのは主演が変わったところ。

でもこれも一つの展開。

なあ、そうだよな。

「ツォンさんなんかやめれば。寂しいんだったら」

「な、何言ってるんだ」

お決まりパターンも必要。だろ?

「ツォンさんは仕事を取る人、でも俺は違うけど?」

「……」

「俺なら坊ちゃんにそんな隙、与えない」

「…仕事は…、大切だ」

ふーん、あくまでツォンさんの肩持つって訳。

――――腹立つな。

俺のゲームは完璧じゃないと困るんだぞ、っと。

だからこれは奥の手。さて坊ちゃん、最後の審判。本当を教えてやる。

俺はそっと坊ちゃんの内胸ポケットから携帯を取り出す。そんな驚いた顔しても無駄。分かってるんだって、全部。ほら、短縮0番でツォンさん。熱いね。

でもさ、ちょっと許せないな。

どうやら俺もヒートアップしてきてるらしい。まあそれはそれで良いんだけど。

で、俺はその短縮0番でツォンさんを呼び出す。そしてそれを坊ちゃんに渡すって訳。

何が何だか分からないって顔の坊ちゃんは、それを恐る恐る受け取る。

表示された字は、勿論、ツォンさんの名前。

さて坊ちゃん、覚悟は良いかな?

『…もしもし』

「あ…ツォ、ン…」

『何か、ご用ですか』

「あ…いや、用は…無い」

『用も無いのに電話ですか。随分、余裕がおありなのですね』

ツォンさん、相当キてるね。そりゃそうだ。だってまだツォンさん、坊ちゃんのこと好きなんだから。

ツォンさんからすれば意味不明。だって坊ちゃんはツォンさんと離れたいって事になってるんだから。これこそ俺にとっちゃ最上級のグルメ。

「ツォン…。この前の話だけど…」

『…まだあの話に続きがあるのですか?』

「いや、そうじゃなくて。その…お前は“分かった”って言って…」

『……ええ、言いました。だからもう貴方とはこうして電話でプライベートな話をする必要も無いと思いますが?』

「え…?…ど、いう…意味だ」

『貴方は言ったはずです。関係は間違いだったと。だったらもう、こんな電話も金輪際しないで下さい。―――――――――辛いだけです』

空しい電話の切れる音。

坊ちゃん、これで全部分かったかな、っと。

とその前に、そんなに悲しそうな顔しないで欲しいな。泣きそうな顔しちゃって。

でも忘れたとは言わせない。その原因は、坊ちゃんにあるんだって事。

さてと、だったら誰に頼るかな。ツォンさん、もう坊ちゃんには戻らないよ。

答えは?

「レノ…お前、何を言ったんだ…!?」

へえ、答えはそれ?…結構、しつこいな。

だから俺、坊ちゃんを引き寄せて強引にキス。これはもうゲームの範囲外。

そりゃ時には脱線も有。

だってゲームは完璧じゃなきゃ。

「や、やめろ…っ!」

「駄目。現実はちゃんと見たほうが良いんだぞ、っと。ツォンさんはもう諦めて、俺を見れば良い」

「や、や…だッ…!」

パーフェクトへの道はこれからだって、坊ちゃん。

教えてやるって、ちゃんと。

 

そりゃ勿論―――その身体に、深く…な。

 

 

 

パーフェクトなゲーム。

さて、本家本元、最終結果。

俺の隣で坊ちゃんは放心状態。もう包み隠さず俺に全部を曝け出してる。

その目が少しばっかり濡れてても俺は気にしない。

俺は自分の携帯を取り出して、それからツォンさんに電話をかける。ほら、これが鳴り終わったら坊ちゃん、答えは出るから。

『何だ』

早速その言葉なんだ?良いね、展開は速く、ってね。

で、此処からが肝心。俺は坊ちゃんに顔を近づけて、かつての愛しい人、ツォンさんの声を聞かせてやる。これは別に優しさじゃない。

要は答え。答えを教えてあげるって訳。

「ツォンさん。俺さ、今、副社長といるんだけど」

『……』

「俺まだ迷ってるんだぞ、っと。手、出して良いと思う?」

坊ちゃん、そんな目で俺を見るなって。

『…さあ。私の知った事じゃない』

「そうだよな。じゃツォンさん、約束して欲しいんだぞ、っと。こんなことはやっぱ極秘だし。俺、これから副社長と…」

『勝手にしたら良い』

―――――はい、ゲーム終了。

どう、坊ちゃん?

「……」

「泣くなって」

泣くのは反則。そのくらい常識。

ツォンさんいなくても、俺がいるんだし。それにもう分かったはずなんだぞ、っと。

ツォンさんはもう、戻りはしないって―――ね。

でも全ては坊ちゃんが悪い。俺はそれにゲームを足してやっただけ。

「坊ちゃん、悲しい?」

だったらもう一度、抱いてやろうか?

何もかも忘れられるように。

だってもう縋る手は、俺しか無いんだから―――――。

 

 

 

パーフェクトゲーム、終了。

だけど最後に教えてあげようか。

このゲームの名前。

 

それはな、“嫉妬”。

 

 

END 

 

 

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