午前4時【ツォンルー】

ツォンルー

■SWEET●SHORT
ある日の午前4時の寂しがり屋の様子。
ルー様視点♪


 

午前4時。
寂しさと現実の境界線。
起きたわけじゃない、ただ単に眠ってないだけ。

こんな時間に、例えば急激に寂しくなっても、誰も起きているわけがない。
電話なんかできるわけがなくて、メールだって迷惑だろうし、結果的に寂しさは寂しさのまま蓄積されてく。

 

『遠慮なんかしないで下さい』

 

ツォン、あいつはそう言ってたな。
そう思い返しながらも、押せないボタンをそのままに携帯を弄ってる。遠慮しなくて良いといったって、さすがに午前5時はないだろう。

だけどこの瞬間、究極に寂しいとしたら?
お前は許してくれるんだろうか?

 

私は必死に言い訳を考えていた。
だってお前が良いと言ったんだろう、とか、言うことがきけないのか、とか、諸々。
だけどそのどれもが独りよがりで、本当に言い訳がましい。

結局私はこの寂しさを埋めるために、何とか電話かメールをしたいだけなんだ。
そして、その連絡にちゃんと出てくれる人間が欲しいだけなんだ。
だけど、常識が私を制裁しようとする。
こんな時間にマトモじゃないぞ、っていうふうに。

 

私が常識を打ち破ったのは、もうすぐ4時30分になろうというときだった。
とうとう電話をした。
あいつ、怒るかもしれないな。こんな時間に何ですか、って怒るだろうな。いくら優しいツォンでも、さすがにこの時間は無いだろう。私はそんな緊張感を持ちながら、鳴り響くコールを聞いていた。

 

1回、2回、3回…となり続く。
もし10回以上鳴っても出なかったら切ろう、私はそう思っていた。
が、意外にもそういうことにはならなかった。

 

「あ…」

 

思わず呆けた声が出たが、それも仕方ないだろう。
だって、まさか出るとは思わなかったのだから。

 

『もしもし』

 

電話の向こうの声に、私は一瞬どうして良いか分からなかった。
が、いつまでもだんまりを決め込むわけにもいかなくて、とりあえず何かを言わなくてはと思ったのだ。そこで出た言葉が、「おはよう」だった。何故そんなことを言ったのか分からない。
まだ眠ってもいないのに馬鹿だ。

 

『はい、おはようございます。もうお目覚めなんですか、随分早いですね』

 

何も疑問に思っていないようなツォンの声が響いてくる。
私は呼吸を整えて、さっきまでの寂しさなんてどこかに行ってしまったかのように、平然を装った。そんなことをする必要などなかったのに。

 

「目が…冴えてしまってな。悪かったな、こんな時間に電話なんて」

『いえ、大丈夫です。実のところ眠れなかったので、丁度よかったです』

「そうか、なら良かった」

 

私はそう切り返しながらも、ツォンもまだ眠っていなかったことに感激していた。
が、次の瞬間には、もしかしたらそれは単に気を遣って言っているのかもしれない、という気分になる。そう思ったら急に気持ちが沈んでしまった。

 

『それにしても…まさかルーファウス様から電話がくるとは、本当に奇遇です』

「奇遇?どういう意味だ?」

 

訪ねると、ツォンはいつも通りの調子でこう言った。

 

『今、何となく貴方のことを考えていたんです』

「え…」

『眠れませんでしたから、寝付けの酒でもと思って…そうしたら参ったことに貴方のことしか浮かばなくて。余計眠れませんよ』

 

ツォンはそう言って電話越しに笑う。
私は、どう返していいか分からないままに携帯をしっかり握っていた。

正直、これほど嬉しいことはないと思っていたのだ。
迷惑がられると思っていた午前4時の電話が迷惑がられず、それどころか私のことを考えていたなんて言うのだから。

私の中にあった寂しさは、急激に姿を消した。
それどころか、何かが満たされて、それが溢れ返ってしまい、どうして良いか分からなかった。

こんな時間だというのにいてもたってもいられない気持ちになり、私は恐る恐るツォンに告げる。まさか自分がこんなことを言うとは思わなかった、そんな提案を。

 

「あの…な。今から会いに行ったら…ダメか?」

『…え?』

 

ツォンのその反応を聞いたとき、私は一気に後悔した。
やはり言わなければ良かった!
恥ずかしさでいっぱいになる。

慌てて、何でもない、忘れてくれ、と言おうと思ったが、その前にツォンが慌てて話しかけてきた。

 

『あ!いえ、全然構いません!私も正直、そうできれば本当に嬉しいです』

「そう…か?でも本当は迷惑じゃないか?」

『そんなこと無いです。ただ、それだったら私がそちらに行きますよ』

 

ツォンは笑っているようだった。
いつもよりやや響きが明るい。

 

『正直、少し驚きました。来いと言われるならまだしも、貴方が来て下さると言うんですから。まさか、そんなことさせられませんよ』

「そんな、大袈裟だな」

『いいえ。だってそんなことをされたら悔しいですから』

「悔しい?」

 

どういう意味だか私には良く分からなかった。
でもツォンは笑うだけで一向にその意味を教えてくれない。
それでも電話を切る最後の瞬間に、そっとこう言う言葉が聞こえた。

 

『会いたいと思ったのは私の方が先だと…自信がありますから』

 

午前4時。
寂しさと現実の境界線は、幸せと現実の融合へと変わろうとしていた。

END

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