Honey Style(Saturday-3)【ツォンルー】

*Honey Style

土曜日:恋人達の土曜

 

ルーファウス宅のベットは、言うまでも無く広い。

これは別にダブルベットでもなんでもないシングルベットだったが、それでもその余裕といったらもう素晴らしかった。天晴れ・副社長!という具合である。

この日、自宅(仮)に戻らずそのままルーファウス宅に訪れたツォンとしては、さすがに今日はこのまま帰ろうとは思っていなかった。

まさかそんな下心的なことを口に出しはしなかったが、何故かルーファウスもそれを当然のことのように思っていたらしい。

此処で忘れてはならないのは、ツォンとルーファウスは一応、恋人同士だという事である。と言うことはそれなりに夜の生活があるわけだが、ツォンが先日思い返した事によると、それは相当”ご無沙汰”だった。

そんな訳だから、同じベットにサクッと入ってみたものの、二人は何だか妙な感じがして仕方なかった。

いわゆる”ヤる気”が無いわけではないが、いまいち何だか…。

「…何だか…照れますね」

「ああ、何だかな」

二人はお互い天井を見つめてそう言い合った。ペアのハート柄パジャマを着ながら。

「何かこうムードがな…何か無いのか?」

「さっぱり思いつきません」

「だよな…」

「ああ、あれです。数えれば良くないですか?」

「何を?」

「羊です」

「それ、違うし」

「あ、バレました?」

こんな意味不明な会話が、そのままの体勢で繰り広げられている。これではさっぱり進展も望めない。これは実に困った事態である。

神聖な土曜の夜の恋人達ともあろうものが、こんな具合なのだから困ってしまう。しかも二人の場合、これを逃すとまた伸び伸びという事態にもなり兼ねない。

「しかしな…浮気の誤解は痛かったな…」

はあ、と溜息をつきつつ、ルーファウスはそんな事を言い出す。

「そうですね。あれはなかなか厳しい誤解でした」

「ああ…」

浮気の誤解といえば、ツォンにはまだ引っかかっている部分があった。それは、ルーファウスの浮気が事実なのかどうか、という部分である。

「……ルーファウス様。あの…やっぱり、あの男と…しちゃったんでしょうかね…」

それは昨日も聞いたことであって答えは分かっていたが、やはり気になるツォンだった。

しかしこの時、ルーファウスの口からは昨日と違う答えが返ってきたのである。何せルーファウスは、今日の電話でその事実を知ったのだから。

「あ、それな。何でもセーフだったらしいんだ」

「えっ!セーフ!?」

「そうなんだ。何か今日、わざわざその事で電話してきてな」

それは大きな勘違いだと教えてあげたい。

しかしその言葉で救われる者があるのも事実だったりするわけで、ツォンはホッとすると、やっと体勢を変えてルーファウスの方を見遣った。

「良かった」

「だよなあ。セーフで本っ当に良かったと思う」

そう言って、ルーファウスもホッとした顔をしてツォンの方を見遣る。

暗闇の中で暫く見詰め合う感じになると、何となくドキッとしないでもない。そんなこんなで見詰め合うこと1分半……ツォンがふと、声を上げた。

「……あ…」

「どうした?」

「え…あ、いや……」

言葉を濁しながら、ツォンはそっとルーファウスの身体に手を伸ばすと、それをそのまま抱き寄せる。私服よりか薄いハート柄パジャマのこと、身体をピッタリとくっ付けると、相手の熱が直に伝わるような気がした。

―――――これは良いムード…かもしれない。

そんな事をツォンの肩辺りで考えたルーファウスは、ボソリとこう問う。

「……したく、なったのか?」

「ええと、その…」

言葉を濁したツォンは、それでも最終的にこう続けたのだった。

「し…たく…なっちゃいました」

 

 

 

長い前置きの末、二人はやっとキスをした。
ルーファウスにとっては火曜日以来のキスだが、ツォンにとっては木曜以来のキスである。

ツォンは暗闇の中でも目立つような金髪にすっと指を絡ませると、柔らかい唇を割って舌を滑り込ませた。程よく舌を絡めながら、手はルーファウスの身体をさまよい始める。

「ハート…折角着たのにな…」

「うっ…そう言われましても…」

確かにルーファウスのいうとおり、このハート柄はお値段がバカ高い割に着用約30分といったところだろう。というか、どうせ脱ぐなら始めから着なければ良いじゃないかという気がしないでもない。

それでもやはり脱がさないことには始まらないわけで、ツォンはハート柄パジャマのボタンを一つずつ外していった。どういうわけかボタンが多いこのパジャマは、ルーファウスがいつも着ているダブルスーツを思い出させる。

「ルーファウス様、そういえばいつも首元まで着込んでますよね…」

「そうだな」

ルーファウスがそう返事をした瞬間、体にちょっとした痛みが走る。なんだ、と思ってルーファウスが視線をやると、ハートの上半身を脱がせたツォンが、露わになった肌に吸い付くように唇を重ねていた。

「ちょっと、何するんだ、ツォン!」

「何って…たまには自己主張をしてみようかと」

「って。キスマークがか!」

「変な虫がつくのは、どうかと思いますので…」

変な虫って何だ、そう思ったルーファウスだったが、ふと例の男の顔を思い出して「あ」と思った。なるほど、ある意味ツォンにとっては変な虫である。…事実はルーファウスから誘ったとはいえ。

「あれは…って、あ、馬鹿、そんなトコを…っ」

言い訳しようとするルーファウスをよそに、ツォンはしっかりと動いていた。

ツォンの思考的には、まず何としてもこの人を満足させなくては、というある種、義務感のようなものがあった。正に男の意地である。

しかし何度もいうがこの二人は恋人なのであって、そこそこ夜を共にし、あまつさえ朝を一緒に迎えたりなどした事もある仲なのだ。

ここ最近ご無沙汰とはいえ、ツォンの頭の中にはすっかりルーファウス攻略がインプットされているわけで、更にそこに揺ぎ無い想いなどあった日には、これはもう失敗はありえなかった。というか、ありえなくして欲しいというのがツォンの本音だった。

下半身の方でいつの間にか始まっていた愛撫に、ルーファウスは息を漏らし始める。何だかんだ言ってこう攻められては、どうにもこうにもシリアスにならざるを得ない。

「此処も感じるでしょう?」

「あっ…っ」

「此処も好きですよね?」

「あ、あっ」

タークス主任は夜も完璧だった。狙いは良く定め、決して外してはならない。

そんな訳で、仕事ではツォンが強く、それでもプライベートでは何だかルーファウスに押され、しかし夜はまたツォンが逆転勝ちをするという不思議な関係が此処に一つあった。

ルーファウスはどうやらそんなところもご満悦らしい。

「んっ…ツォン…良いー…」

ちなみにこの人、仕事では滅多に人を褒めやしない。

「どのくらい…良いでしょう…?」

「んー…は、はっ…80点くらい…っ」

「……」

ツォンは思った――――20点足りない…

「じゃあ…」

ツォンはルーファウスの身体をゴロンと回転させると、先ほどと同じように愛撫を繰り返した。そうしながら―――慣らすべく、奥に指を滑り込ませたる。

その瞬間、ビクン、と身体が跳ねる。

丁寧に動かしていくもものの、そこはどうにも狭く、受け入れてくれそうにない。

「い、一気にいけよ…」

「…大丈夫ですか」

「ん…」

ルーファウスのリクエストを受けたツォンは、少し考えた後、言われたとおりにザックリと指を押し入れた。……が、やはり問題は起こってしまった。

「痛あああいっ!!!」

その言葉に慌ててツォンは指を引き抜いたが、自分からそう言ったくせにルーファウスの口からは非難の言葉が相次ぐ。

「馬鹿、アホ!もっと優しくしろ、優しくっ!」

「って!ルーファウス様が言ったんじゃないですか!」

「そうだけどっ、そのままやる奴があるかーっ」

「ありますよっ」

何故だか最中にそんな言い争いをすることになり、仕方無いなとツォンは舌先でかの場所を濡らした。

しかし、どうせまた痛がるのは目に見えている。だから今度は、用意周到にもう一方の手を伸ばしてルーファウスの口を塞ぐ。

「んぐ~!」

「喉元過ぎれば何とやら、です」

 ――――――そして。

「○▼%□★&*~!!!!!!」

絶叫したいにもできないままルーファウスは、意味不明な呻き(のようなもの)を漏らした。その人にあるまじき姿だが、かなり涙目になっている。

少々荒業だが、これはもう仕方がないのだとツォンは割り切っていた。正直毎回ここでこういった荒業を使うことになるのだが、おおよそはツォンの言葉通り、その内ルーファウスも静かになる。

今日もそれは変わりなく、いつのまにか呻きは甘い吐息に変わっていた。それを確認し、自分の評価は90点には跳ね上がっただろうと思うツォンである。

「はっ…あっ!」

「…大丈夫ですか?」

「う…うんっ…あっ」

目前で喘ぎ声を漏らすルーファウスは、時々ツォンの名前を呼ぶ。

これは一種の興奮剤。

まるで「仕事頑張ってね」と送り出す新妻の為に今日も一日頑張ろうと力む夫の如く、こういう時もう少しくらい頑張ろうと思うのは何故だろうか。

「ルーファウス様…」

すっきりした背中に、肌を重ねる。背後から首筋に口付けをして、それから耳の後ろの方で静かに呟く。

「好きです…」

「ツォ…」

……が、そんな雰囲気も次の瞬間にはある声でかき消されたのだった。

それは耳にキーン、と響く声で。

「痛あああああああああーっ!!!!」

 

 

 

ルーファウスがぐったりしながら目を閉じた時には、もう時計は午前2:00を過ぎていた。少しして隣に横たわったツォンに、

「ごくろうさま…」

とワケの分からない言葉を呟く。

それを聞いて、ツォンは笑った。

「仕事じゃないんですから」

「じゃあ、ありがとう」

「…それも何だか違うような…」

ルーファウスは隣のツォンをみつめながら、小さく首をかしげる。

実はルーファウスには、常々不思議に思うことがあった。それは、毎回自分はこんなにぐったりするというのに、ツォンはいつも全然疲れたふうじゃない、ということである。

それはルーファウスにとってかなり大きな疑問だった。

「ツォンは夜だけ体力あるな…」

「よ…夜だけって何です、夜だけって!」

「だって…昼は溜息ばっかついてるくせに、今なんかピンピンしちゃって、ズルいぞ」

何がどうズルいんだ、と聞きたいツォンだったが、敢えてそこは突っ込まない。その代わりツォンは、こんな事を口にした。

「……あれはあれで幸せですよ」

「あれって?」

その意味が分からなくてルーファウスが首を傾げると、ツォンは「この前聞かれたでしょう」などという。

それはどうやら、ルーファウスが知りたがった「どうすればツォンは幸せな気分でいられるのか」という質問への答えだったらしい。

いまは夜で、夜は少しばかりツォンのほうが優勢である。だから、こんなことも話しやすい。

「この前ははっきりした結論を出さずに有耶無耶になりましたけど…たしか1度言いましたよね。問題なく過ごせることじゃないか、と。今改めて考えてみても、それが私の幸せなんじゃないかと思うんです」

「じゃあ…。いつも通りが”幸せでいられる”ことなのか?」

「そうですよ」

「俺が何を言おうと?」

「まあ、そうです」

「そうか。じゃあ今度から5分置きに電話を…」

「やめてください、本当に」

何だ、つまらない、そう言いながらもルーファウスは笑った。

それを見ながら、ツォンも思わず笑った。

 

 

 

そんな様子でぼちぼち会話などをして笑いながら、時間は少しづつ過ぎていく。同じベットの中で、同じ暖かさを感じながら、ちょっとだけ寄り添って。

久々のその雰囲気は、二人を満足させた。心を優しくさせた。

―――だから。

ルーファウスが突然抱きついて耳元でこう囁いても、ツォンは文句一つ言わずにちゃんとそれに応えてくれるのだった。

「ツォン―――もう一回、しよ…」

それは、長く甘い土曜の夜のお話―――――……。

 

  

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