CINDERELLA 【07:デート】

*Cinderella

 

俺の今までの人生の中で、これほどにまで早い一週間があっただろうか。そう思うくらい、その一週間は早々と過ぎていってしまった。

 

約束の日、俺は仕事を早引きさせてもらって、待ち合わせの1時間以上前からそわそわしながらアカネを待ってた。

 

待ち合わせは、駅の改札前。

 

アカネの職場は電車で一時間以上するところにあるらしくて、仕事帰りにそのまま行こうってことになってるんだ。アカネにとっては本当に仕事でぐったりした状態、ってことになるんだろうな。といっても、アカネはいつもそんな素振り見せないけど。

 

退勤前、ユリちゃんが「頑張ってくださいね」とエールを送ってくれた。すごく嬉しかった。

 

俺はちょっと考えて、以前ユリちゃんに貰ったバニラの匂いのする香水をつけてる。おいおい、何意識してんだよって自分でも思う。そもそも似合わないし、なんか異常に気合入ってるって感じだ。

 

でも、気合入れないと切り抜けられないくらい、やっぱり緊張はしてるんだ。

そんな俺の元に、さっそくハプニングが襲い掛かった。

 

『な、ジュンちょっと出て来れないか?仲間内で評判良い店あってさ。ここどうかなーって思って。結構美味いらしいからさ』

 

アカネからの電話で、ファミレスのはずが急遽別口の場所に変更になる。聞いたらそんなに遠くないところだったからとりあえずOKしたけど…一体どんなところなんだろう。

 

電車に乗って10分。割と近い。

 

その駅は連絡にも使われるほどデカくて、人の利用も多い。

ちゃんとアカネを見つけられるかどうか、そんな基本的な部分に心配を覚えてしまう俺…。

けど、意外とすぐにアカネとは合流できた。

 

「ごめんな、いきなり呼び出して。メシ食いにいくって言ったら、じゃああそこ行けよってすごい勧められてさ。俺も行ったことないし折角だからなって思って」

「そうだったんだ。じゃあ楽しみだな、そこ」

「なー。でもな、そこ居酒屋なんだってさ」

 

居酒屋!?

俺は思わず心臓が飛び出そうになった。

 

といってもまあ、いつもアカネはビール飲んでるもんな。ある意味では一緒だよな、同じ酒だし。

 

「じゃ、早速向かいますか!」

 

アカネのナビで向かったのは、駅を出て少し歩いたところにあるバカデカいビルだった。よくある、居酒屋ビルみたいなやつだ。

そのビルの中の6Fにあるのが、目的の店らしい。

 

『和のいたわりー享楽囲ー』と書いてある。

 

その『和のいたわりー享楽囲ー』は、そのなの通り和風の店だった。つくりも和風だし、どうやらメニューも魚介系が多いっぽい。それでも値段はそんなに高くない。

 

「2名様ご来店ですー!!!」

「いらっしゃいませ、お客様ー!!!」

 

良く聞く威勢のいい歓迎を受けながら、俺はアカネの後ろをついてく。

が、通された席を見て思わず顎が外れそうになった。

 

な、ななな何だこれは!!!?

 

「なるほどなー。だからアイツラあんなに勧めてきたのか」

「それどういう意味だよ、アカネ…」

「いや、女と行くんだろって冷やかされたから、冗談でそうですよーって言ったりしてたんだよ。で、その内店の話になって。そしたら此処が美味いっていう話でさ。つまりアイツラが女と行って良さげだった店ってことだったんだな」

「それアカネが悪くないか!?」

「あはは、そうかもー」

 

こらこらこらこらーーーーーー!!!!

 

俺は心臓バクバクさせながら心の中で絶叫した。

 

だって…。

 

和風だからかもしれないけど簾みたいのが垂れ下がってる完全個室で、しかもそれがめちゃくちゃ狭い!横同士に座りあうタイプの席になってて、まあ3人までなら座れるかなって程度。因みに向い側には椅子はない。しかも妙な小道具まである。時代劇で見かける、あの枕だ。一体何のために枕があるんだか知りたいような知りたくないような…!

 

俺はアカネに勧められて、奥の方に座った。

そのとなりに、アカネが座る。

 

近くにいるせいか妙に熱気がくるような気がして、俺は品書きを開きながらも何も見えてなかった。あんまり飲めないくせに「ビールで」って言うのがやっとだったんだ。あー情けない俺…。

 

「それではお客様、今宵はごゆるりとお楽しみ下さいませ」

 

店員さんは、席を離れるときに必ずこの台詞を言う。

 

っていうか!

その台詞なんかヤダ!なんかいやらしいって!

 

って、俺の考えすぎかな…というか意識しすぎか…。

 

「いやーなんか久々だな、こういう店とか来るの。最近速攻家だったからな」

「そうなんだ?職場の人と飲みに言ったりしないわけ?」

「いや、結構盛んらしいんだけど俺は帰ってるってだけ。だって家でもビール飲めるだろ?」

 

まあ確かに。

でも…っていうことはつまり、思わぬところで俺は、アカネと一緒にいる時間が多くなってたってことか。そのアカネの考え方に感謝しなくちゃだな。

 

「それで?何かあったのか?」

「は?」

「だって、いきなりメシ食いにいこうなんてさ、やっぱ何かあんだろ?ものすごいカミングアウトがあるとか?」

「なっ、なんでそういう方向に行くんだよ!」

 

…おみそれしました。

そうだよ、そうですよ。そうそう、その通りですよ。

 

だけどいざそう言われると何だか「はい、そうです」と言えなくなってしまう。だってこれって見抜かれてるってことじゃんか。

 

でも、だからってこのまま進展しないっていうのも駄目だよな、きっと。だってユリちゃんがせっかくエール送ってくれたんだ。こんなんじゃ駄目だ。

 

俺はそう思って、決意したようにアカネを見た。アカネは何も考えてないみたいにいつもどおりのカンジで俺を見てる。

 

「あ…あのさっ。つまり、その……」

「ん?」

 

アカネが、俺の好きなあの仕草をしてくる。俺の顔をしたから覗き込んで、どうしたんだ?っていうような、あの仕草だ。

 

あーもうっ!何でこんなタイミングでそれやるんだよっ。

心臓が死ぬだろーが!!

 

「お待たせいたしました」

 

そのとき、上手いタイミングで店員さんが飲み物と食事を運んできた。やってきたビールに歓喜しだしたアカネが、早速乾杯しようと言う。だから俺は一度決意したはずのものをグッと飲み込んで、とりあえずは乾杯した。

でも…。

 

「そういえばさ、俺のバンドのことなんだけどさ。今度から結構忙しくなる予定なんだよ。前にも言ったよな?で、仕事がな…」

 

ちょっとしたスキに、アカネがそんな話題を振ってきて、俺はとにかく聞く側にまわってた。内心いつその話題が切れるのか気が気じゃなかったんだけど、飲みながら聞いてるうちにだんだんと俺の脳みそはとろんとしてきてしまったんだ。

 

やばい…。

酔ってきた…。

 

あんまり飲めない上に、アカネといて緊張なんかしてて、若干ヤケ気味でいつもよりペースが速いから、上手い具合にぐるぐる回ってくる。やばい、あきらかにヤバイ。

 

「だけどさー、それもどうかなってカンジでさー」

「…うん…」

 

俺の目は確実に半目だった。多分、死んでた。

それなのに俺はビールを追加なんかして、それをまたガブガブ飲んでて、何だかもう自分でも止められない状況になってた。

 

終わった…終わったよ、俺…。

 

途中、アカネが「大丈夫か?」って声をかけてきたけど、グデングデンで良く分からなかった。うんとかすんとか言ったかもしれないし、ぼーっとしてたかもしれない。

 

「うー…」

「おい、ジュン!ちょっと大丈夫かよマジで!」

 

一つだけ覚えてるのは、アカネの胸がものすごく至近距離にあったってことだけ。多分、心配したアカネが俺の肩を抱いたか何かしたんだろう。

 

うわー…、って思った。

 

思ったけど、何だかもう頭がグルグルしてて、酔った勢いっていうのか、俺はアカネの胸に倒れこんでた。

 

楽だ。なんか楽。

それに…なんかあったかいよ…。

 

「ジュン!おいこら、寝るなって。おーい」

 

あー…。

 

もー駄目…。

 

 

…おやすみなさい…。

 

 

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