インフォメーション
離れたくないな。ある日の別れ際の風景。
瞬間接着剤:ザックス×クラウド
時間は待ってくれない。
どういう時だって、誰にも平等に、だけれど同情の余地もなく、ただただ流れていく。
「また今度な」
「うん」
オフの日、思い切り一緒に過ごしても別れ際に寂しく思うのは何故だろう。一体どれくらい一緒にいたら満足するのだか分からない。が、とにかく離れるのは寂しい。
もうここでサヨナラしなくちゃいけない。
そういう場所まで来て、そこで立ち止まり、ザックスとクラウドはお互い見詰め合っていた。
「今度はいつ会えるかな?」
「うーん、暫く任務続くって言ってたし、もうちょい経ってからかな」
「そっか。…うん、仕方ないよね」
本当だったら、また明日、という言葉が聞きたい。
そうひっそりと思っていたクラウドだったが、なかなかそういうわけにもいかない現実は分かっていたから、そんなふうには言えなかった。
「じゃあ…またね、ザックス」
「ああ」
クラウドは笑顔を作ると、ザックスに向けてそっと挨拶の手をあげる。それに対しザックスも同じように挨拶の手をあげたが、その手は何を思ったか、にゅっと伸びてクラウドの掌を掴んだ。祈るときのように指が絡む。
そのハプニングにクラウドが驚いていると、ザックスはにかっと笑って、
「あれ、くっついちまった」
そう言った。
それがあまりにも嬉しくて、だけれどあまりにも恥ずかしくて、クラウドは思わず照れ隠しをする。何恥ずかしいこと言ってるんだよ!、と詰るように言うと、ザックスは笑いながらだって本当だろ、と言った。
瞬間接着剤でもあるまいに、本当にくっつくはずなどない。
「もしさ、この掌が一生離れなくなったら、俺ら一生一緒にいられるんだろうな。そうなったら良いのにな」
「そうだね。だけどそれじゃ生活しにくいよ」
「まあそうだな。ずっと向き合ってるんだから浮気もできないよな」
「うわきぃ~!?」
「ははは。嘘、嘘!そんなことしないって」
ザックスは可笑しそうに笑うと、ギュッ、っと握っていたクラウドの手をそっと離した。その瞬間にすっと消え去った肌の感触に、クラウドは何だか切なくなる。
ザックスの言うとおり、もしこの手がくっついて離れなかったら、この場所で離れることもないのだろう。
だけれど時間は待ってくれない。
どういう時だって、誰にも平等に、だけれど同情の余地もなく、ただただ流れていく。
だからもう、お別れの時間。
「じゃあ今度こそ本当に。またな」
「うん、またね」
二人はさっきまで握り合っていた手をお互いに振ると、少し経ってからくるりとそれぞれの方向へと足を向けた。
寂しいけれど、今日のところはこれでお別れである。次はいつ会えるか、それはまだ分からない。少なくとも明日ではないことは確かである。
やっぱり別れ際は寂しいな。
クラウドはさっきまで繋いでいた手をまじまじと見つめながらそう思った。一人帰る道は、なお一層そんな気持ちを強くさせる。
そう思っていた時である。
背後からこんな叫び声が聞こえて、クラウドは思わず振り返った。
「おーい、クラウドー!!また今夜なー!!」
「へ…?」
その言葉に驚いたクラウドの視界には、もう既に米粒程度になったザックスが映っている。その米粒ザックスが、手を大きくぶんぶんと振りながら、楽しそうにこう続けた。
「この続きは夢ん中でな!!!」
どうやら明日になる前に、もう再会できるらしい。
それを知ったクラウドは思わず笑ってしまうと、
「うん!また後で!!」
そう叫んで手を振る。
どうやら瞬間接着剤はもう既に二人の心にぺとっ、とくっついているらしかった。
END