Favor(1)【リブルー】

リブルー

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■SWEET●SHORT

ルー様が昔失くした異国土産を手作りするリーブ。


Favor:リーブ×ルーファウス

 

その昔、父親が買ってきてくれた異国土産。

それは鎧兜を着たような厳つい人形で、ルーファウスはそれを見て少しだけ兵士というものに憧れたことがあった。

しかし運命の糸とは数奇なもの、兵士どころかそれよりも上の立場になったルーファウスは、かつての淡い憧れもなくし、ただその立場の為に奔走する毎日を送っている。

そんな暮らしの中、時々ふっと思いだすのがあの異国土産の人形だった。

あの鎧兜の厳つい人形…何時の間にかどこかに失くしてしまったけれど、一体どこにやってしまったのだろうか。結構気にいっていたから、無くなった時にはきっと悔しい思いをしたことだろうと思う。純粋に悔しいと思ったのだと思う。

けれどどうやら今は、そういう悔しさは飲み込む方が美徳であるらしい。

 

 

「はあ!?」

「あの…ですから、その…都市開発部門とのですね…」

「何で私がそんなことをしなきゃいけないんだ」

「いや、ですからそれは…社長のご命令で…」

先ほどからルーファウスの前でしどろもどろしていた都市開発部門統括のリーブは、いかにしてこの副社長に事の次第を説明するかについて悩んでいた。

昨日のこと、プレジデント神羅はリーブに一つの令を出した。

それは、経費を抑えて地域開拓をしろという指令だったわけだが、何故だかそれについてはルーファウスと共に行動しろというオマケがついていたのである。だからこうしてルーファウスの元にやってきたのだが、リーブはどうにもこうにもこの副社長が苦手で、どうしても話を上手く進められなかった。そもそも、温和な性格のリーブといかにもキツイ性格のルーファウスとはおりが合わなくて、話す機会はあっても大人の節度を弁えて話をしているわけだから生来のものとしてはギクシャクしてしまうのである。

話そうとしてもなかなか切り出せないリーブと、話など聞きたくも無いというルーファウス…どう考えても話など進むはずがない。

「もう良い、お前と話していると埒が明かない。後で書類にして回してくれ」

「ふ、副社長!しかしこの話は是非とも今日中に…!」

慌ててそう言い切ったリーブは、いかにも自室を出て行きそうな勢いのルーファウスを何とか押さえ込むと、自分に逃げ場を与えないようにデスクの直前まで進み出て、深呼吸をした後に概要に取り掛かった。

やっとのことで漕ぎ着けたその会話の中で事の次第と詳細を口にしたリーブは、今回の令に関してはルーファウスの指示を仰ぐことが必要だということを強調する。しかし心中は複雑で、本当だったらルーファウスの指示などとんでもないという気持ちだった。何しろ何を言い出すか分からない副社長だし、自分の部門のことならば自分が責任を持って遂行したいというのが本音である。

それでも社長命令には従わねばならず、リーブは表面上それを願い出る形になった。

「私がお前の部門の指揮をとるっていうのか?」

話を聞き終えたルーファウスは、依然不服そうな顔を崩さないままにそう問う。いかにもそんなことはしたくないというのが分かる。

「そういう事です。社長命令ですから」

本来はこっちだって不服だ、そう心の中で思いながらもリーブは口ではそう言った。リーブが数年神羅で培ってきた社会性は見事なもので、そういう不服という本心は表面には微塵も現れていない。顔などはいかにもそれが必要だといわんばかりである。

だからルーファウスは、リーブの本心など知らないままに文句をつらつらと並べ立てた。その内容としては、お前の部門には意志が足りないとかヤル気がないとか…本心のリーブからすればとんでもない内容である。

が、それでもリーブはあくまでそれを社会性で乗り切った。実に大人である。

「それで…地域開拓というと、未開の土地ということか?」

「いえ、どちらかというと再開発に近いものです。例えばジュノン方面の広範囲都市化など…ゆくゆくは主要都市を幾つか設けてミッドガルと路線を繋ごうというお考えがあるようです」

「なるほど。無駄遣いの最たるものというわけか」

「はあ…」

父親との対立が甚だしいルーファウスはその考えを鼻で笑うと、何故自分がこの開拓作業の指揮者として選ばれたのかということには頭を回さず、他のことへと思案に暮れた。

ジュノン方面、と言う言葉を聞いて、少し思い出したことがある。

それは、いつだったか父親が買ってきてくれた異国土産の人形のこと。

鎧兜を纏って厳つい人形…それである。

その土産は確か、父親が遠い昔にジュノン方面に向かった時に買ってきたものだったように思う。ジュノン支社にはルーファウスも何度か足を運んだが、その地域でそのような人形などは見かけなかった。だからそれはジュノンの土産というわけではなく、ジュノンに出かけたそのまた先のどこかの土産だったのだろう。しかし、何時の間にか対立するようになってしまったルーファウスには、今やそれはもう聞けない事である。

「リーブ、お前はジュノンには行った事があるか?」

「え?ジュノンは…実際に開発を担当しましたし、ゴールドソーサーの開発時にも滞在しておりましたが…」

今更何て当然の事を言っているのだろう、そう思って首を傾げたリーブの前で、ルーファウスは「そういえばそうだった」などと納得していた。どうやらリーブが今迄手がけてきたものはさっぱり頭から消えてしまっているらしい。

それどころか、いきなりズイッと身を乗り出してリーブにこんな事を聞いてくる。

「なあ、ジュノン方面に土産っていうものはあるかな?」

「―――は?」

「土産っていうか…こう、鎧兜を着たような厳つい人形なんだ。置物みたいなものなんだけど、それがなかなか良く出来たヤツでな」

手で色々ジェスチャーしながら説明し出したルーファウスに、リーブは唖然とした。

いきなり何を言い出すかと思えば、仕事ではなく土産の話…一体何なんだか分からない。しかしそれを語るルーファウスの顔が、先ほどまでとは随分と違い生き生きしているのを見て、リーブは少し意外な感じがした。

これほど苦手で反りの合わないルーファウスだが、彼でもこんなふうに話すことがあるのか…と。残念ながらそれは土産の話しだったが、それであっても何だかちょっとした発見をした気持ちである。

「それをな、何となく見てみたいと思うんだ…もう一度。随分前に土産で貰ったけど、どこかに失くしてしまったからな」

「ああ…そうでしたか。しかし…」

残念ながら、リーブはそのようなものをジュノン方面で見たことは無かった。ジュノンやゴールドソーサー、その他地域の魔晄炉用の地域開発など、西方に滞在することが少なく無いリーブだったがそのようなものは聞いたことがない。

それに関してだけはこんなふうに話をするルーファウスに、せめて何か情報でもあれば教えてあげたいと思ったが、肝心の情報が無いのでは仕方無いだろう。

折角、初めてルーファウスがそんな生き生きと話をしてくれたのに―――何となくリーブは、その嬉しそうな表情を継続させるだけのものが無いという事実に、悔しさを感じた。

「お前なら知ってるかと思ったけど…そうか、残念だ」

結局そう言ってその話題を終わらせたルーファウスは、やっと本題である開発のことについて話を進めだした。

しかしリーブは、どうにもこうにも開発の話に本腰を入れられなくなってしまった。

 

 

都市開発部門の統括に与えられた部屋には、何やらごちゃごちゃした物体が沢山置いてあった。それらは機械の破片であったり大型の木材であったりしたが、ともかくそれらの置かれているその部屋はとてもじゃないが統括の部屋には見えない。

しかしそれに慣れきっていたリーブは、その山の中から一つの機械の欠片を出すと、それをデスクに持ち出して弄り始めた。

リーブ専用の開発機が置かれているこの部屋は、何でも出来るようになっている。さすがに大きなことは出来ないが、リーブの趣味の範囲では何でも出来るといって良い。

「これを改造すると…出来るかもしれないな」

手にした機械の破片は、人間と同じように骨組みをされたもので、丁度関節部分にゼンマイのようなものが仕込まれている。それほど綿密な設計ではないが、まあまあ動くだろうというシロモノ。

この機械は、ゴールドソーサーに設置しようと思っている占い人形の試作品第一号である。大きさは50cmほどだろうか。

ゴールドソーサーに設置したいと思っている占い人形は、遠隔操作ができて可愛らしい外見というのがリーブの希望だった。しかし試作品第一号のこの物体はそれをするには機械を配置する部分が小さくて…つまり全体が小さすぎてその希望に添わなかったのである。だから新しい試作品を作ってそちらをゴールドソーサーに仮設置しようと思っているリーブだったが、何と言っても最初の試作品というのは妙に思い入れが深いものだ。だから、どうしてもこの50cm程度の骨の機械が捨てられず、今でもこの部屋に取ってある。

その骨の機械は―――リーブの手によって再び動き始めた。

骨だけの体に、筋肉というべき細かい動体部を付け加えていく。それから蓋を被せて肌を作る。しかしそれはまだ四角い肌だから、人間にするにはもっともっと滑らかにせねばならない。だからそれを削り取っていく。

―――そんな作業を続けて3時間。

地域開発の概要書類を脇に置いたままだったリーブは、その書類の上に木屑が落ちるのも構わずにその作業に没頭した。そもそもこういう作業が好きなリーブは、一度やり出すと止まらないところがあり、それは自分でもしばしば反省する部分である。

けれどリーブがこういう事に熱中する裏には、大きな気持ちが隠されていた。それは、彼が都市開発部門という部署の統括に収まっているその理由でもあるだろう。

都市が出来る。

すると皆はその素晴らしい風景に心を和ませ、その利便に安心をする。

遊園地が出来る。

すると皆は煩わしいことを忘れてその瞬間だけは子供に返ったように楽しむ。

そういうところには人々の喜びや笑顔が絶えず溢れていて、それを開発したリーブはそういうものを見るだけで満足ができる。当然都市開発というものは自然を破壊する部分もあるし、それは時折人々から反対を受けることもある。がしかし、それを受けても尚開発し続けるのは、その反対意見をも賛同に変えてしまうだけの構想がリーブの中にはしっかり詰っているからだった。

こんなことをしたら、きっと皆は喜ぶだろう。

こんなものを作ったら、きっと皆は楽しんでくれるだろう。

そういう、些細ながらも大きな気持ちが、無機質でしかなかった設計図に色身を与えていく。それはプレジデント神羅によれば無駄なものらしく、ミッドガル本社やジュノン支社の設計の際には却下されてしまったが、それでもゴールドソーサーにだけはそれを思い切り詰めこんだつもりである。その甲斐あってか、あの遊園地は今では誰しもが一度は行きたいと願う場所になっていた。

そういう気持ちを込めて開発に臨んでいるリーブは、自身の趣味に関してもそれが色濃く反映されている。仕事の隙をついて何かを作っては部下を楽しませ、それが済んだら今度はもっと驚かせてやろうと探究心に燃えた。それは、彼の中の子供心が常に継続されている証拠といっても良いだろう。

だからリーブは、その時もその気持ちを燃やしていた。

もしかしたらあのルーファウスが喜んでくれるのじゃないかと思うと、絶対にそうしなければと手に力が篭る。

「…よし。これで大方は良いだろう」

骨だった機械が人間の形になった時、リーブは一人きりの部屋で笑んでしまった。

目の前にあるのは、やっと人間の形になった機械である。

一応と思って試しに駆動させてみると、何とかちゃんと動くという具合。口の所にはスピーカーのようなものが埋め込んであり、リーブの手元にあるコントローラーから音声を電波で飛ばすことができる。ミッドガル内ならばまずまずこの電波が飛ぶことはないだろう。その上コントローラー内にエフェクト機能が取り付けてあるから、音声は全く違うもになって届く。だからリーブだと分かることもない。

「まずまずだな。あとは…」

満足したように頷いたリーブは、これから此処に厳つい顔と鎧兜をつけなければならない事を考え暫し黙り込んだ。

厳つい顔はともかくとして鎧兜―――どう考えても異国のシロモノだが、それが詳細にどういうものかが掴めない。

「資料か何かがあればな…しかしジュノンにはそんなものは無かったし、な」

結局ルーファウスと同じように本物の情報を手に入れなければという状況になったリーブは、やはりこの時も、自分がその情報を知らないことを悔しく思った。それが分かっていれば完璧な外装でこれを届けることができるのに、それが叶わない。

元々完璧なものを作ろうというよりは、それに変わるものを作って喜んでもらおうという考えなのだから拘らなくても良いのだろうが、何だかこのままでは納得できない。

「何か資料、資料…。鎧兜…」

リーブは部屋の隅にある本棚に向かうと、その前に思い切り積んであった機械の群れをどけて、長らく開けていなかった本棚を開け放った。

本棚の中には開発と設計の基本、そして資料、過去の会議資料、それから各地域の調査結果報告書などがおかれている。その中からジュノン地域の調査結果報告書を取り出したリーブは、それを一枚一枚と捲っていく。丁度、その土地特有の風習や文化という項目がありそこをくまなく読んでみたが、どうやら知りたい情報は無いらしい。

「一体どこに土産なんだろうか…大体の土地の資料は揃えてあるはずだが…」

そう思いながら他の地域の調査結果報告書も見てみると、その中の一つにやっと近いものが発見できた。それはウータイ地域の過去資料で、鎧兜というものについての説明がされている。…が、肝心の写真が載っていない。

文字で説明されてもその外装が分からないのでは話にならない。

「ウータイの土産ということか?…確か、戦争の戦利品としてウータイのものは幾つか保存してあるはずだが…」

しかし、そんなものは見た覚えがない。

まあ土産というのだから分化というほど大したものではないのかもしれないが…。

―――と、その時。

「うあっ…!」

 

ドサドサドサドサ…!!

 

…なんという事か本棚から本が雪崩出てきた。

その上その本は先ほどどけた機械の群れの中に混じりこみ、もう何が何だか分からない有様である。更にいえばリーブなどはその本の下敷きになって機械の山に埋もれているという具合―――…あまりにも情けない…。

しかしそういう時に限って彼の部下というのはこの部屋を訪ねてくるわけで、その時もやはりそれは例外ではなかった。

トントン、とノックされる音に返す言葉も届かなかったリーブは、やがて部下によって機械の群れの中から発掘されることとなる。…まるで登山の遭難者だ。

「部長~!まったく何やってるんですか、こんな大変な時に」

「す、すまない…いや、ちょっと資料をと思って見ていただけなんだが…」

「資料ですか?今回の地域開発の資料だったら社長から回ってきてますよ。何せそれを届けに来たんですから」

「そうだったのか。…あ、いや、私の探していた資料は仕事とは別のものでな」

その言葉に呆気に取られた部下は、やがてプッと噴出し、最後にはとうとう遠慮もなく笑い出した。彼にとってこの上司は、本当に面白い存在らしい。まあ仕事を差し置いて何かを作り、その為に災難に遭っているのだからそれも当然だろうが。

「部長ってばまた何か作ってるんですか?今度は何ですかね、すごい気になりますよ」

いかにも見たそうな顔をしてくる部下に、リーブは笑って「これはちょっと」などと言った。何せ今回は部下を楽しませる為に作ったものではない。

しかしそうして考えている内に、すっとある事を考え付いた。

そうだ、この部下は何か知らないだろうか?

今リーブの前にいる部下は信頼のおける部下の一人であり、確か西方の開発時には必ず連れていた部下である。彼はリーブの性格を良く知っていて、その趣味にも理解がある方だ。だからなのか時々リーブに面白い話を振ってくるし、そういう意味では何か知識を持っていそうである。

「そうだ。お前はジュノン方面に何か名物の土産があるだとか…聞いたことはないか?」

「え?ジュノンですか?」

「いや、もしかするとウータイかもしれないんだが…」

男は首を傾げ、どうだったかな、などと漏らす。

それだからリーブは、詳細についてを説明した。厳つい顔をした鎧兜の人形なのだが、と。

すると部下は、「あ!」と何かを思い出したような声を上げた。

 

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