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「は」:ザックス×クラウド
「はぁぁぁぁ」
俺は大きなため息を吐く。
そうすると必ず、隣のザックスは怒った。
「ダメダメダメ!俺の前でため息吐くな!」
「ええ?」
そんなこと言ったって、出ちゃうもんは出ちゃうんだから仕方ないだろ?
俺はまたため息を吐きそうになって、慌ててそれを飲み込んだ。
ザックスは、ため息吐くのを異様に嫌がってた。多分あれだ。ため息吐くと幸せが逃げていくってやつを本気で信じてる口なんだろうな。
でも、確かにザックスはため息をつかない。ため息をはく代わりにキッパリと言葉が出てくる。
だからザックスからは幸せは逃げていかない。
出ていくのは単に、ザックスの意見だ。
「ザックスは嘆きたくなることないの?あー厭だとか、あー辛いとかさ」
「そりゃお前、俺だって人間なんだからそういうときもあるよ」
「よくため息吐きたくならないね」
「まあな。そういう習慣ないから、俺」
「なんか良いなぁ、それ」
「だろ?」
ザックスはにまっと笑うと、幸せの秘訣はこれだよこれ、なんて言った。
そしてさらには、
「溜めていいのは友達と金だけ!」
そんなことまで言う。
まったく、思わず笑っちゃったじゃん。
とにかく、俺はザックスの前でため息をついちゃいけないことになってた。だから俺は大概押さえ込んでたんだ。
だけど、たまにやっぱり出ちゃうわけで…。
そういうのに、ザックスはかなり敏感になってた。
それはもうプロ級で、おれがため息つく瞬間を押さえるくらいにはエキスパートになってた。
「は」
「待て待て待て!お前ため息つくつもりだな!」
俺はまだ、はぁ、のうち最初の「は」しか言ってないのに、そんなふうに止められる。
わかるかな?
つまり俺は、ちょっとばかし息を吸い込んで、今まさに吐こうって状態。肺の中には息がたんまりたまってるんだ。いくらなんでも中途半端すぎる。
「へへへ」
ザックスは、中途半端な状態の俺を見ながらうれしそうに笑った。そんなにため息阻止が嬉しいのかよ!
――そう思ったけど。
ザックスは俺の額にデコピンをすると、優しくこういった。
「大丈夫だよ、お前なら頑張れるよ!」
そう言われた瞬間、俺は何だか気が抜けてしまった。文字どおり、肺の中からすっと息が消えちゃったみたいな感じ。
どうやら俺は、ため息をはく理由さえ抜けちゃったみたいだ。
ザックスのせいだよ。
いや、おかげかな?
俺は、ため息を吐きたくなる。
けど、はぁ、の最初の「は」のところで止めるように努力するようになった。だって、そしたらいつも、ザックスの声が聞こえる気がしたから。
「大丈夫だよ」、って。
END