ムービーショウ。(12)【ルドレノ】

ルドレノ

 

 

 

任務七日目、今日がLAST。

これが最後の最後。俺にとって、本当の決別。

俺は高台の上から廃屋を見てた。スラムん中じゃなかなかレアな場所で、俺は良くココに独りで来てたもんだ。

タークスに入ってからはさすがに一回も来たことなかったけど、久しぶりに来てみたら何だか景色も随分変わってた。

不思議だな。

なーんか、いつの間にかいろんなもんが変わっちゃうのな。気付かない内にさ、じわじわどっかでいろんなものが変わってる。で、気付いたときには「ああ、変わってたんだ」って驚く。

いつもこうだ。あの時みたいに、俺は今もそんなことを思ってる。

 

一日目、Xとの再開、悪さをして乱痴気騒ぎ。

二日目、デカイのとノッポとひたすらバカ騒ぎ。

三日目、上に同じ。

四日目、デカい山があると言われてやっぱり悪さ。

五日目、戦利品持ってこっそり帰宅、そんで脳ミソぶっ飛ばす。

六日目、ルードと話した後にこっそりX廃屋に戻って大騒ぎ。

七日目、―――――THE・END。

 

こんな俺のどこが任務をこなしてるんだって?

まあな、そう思うだろうな。

確かに俺は適当に悪いことやって適当にラリって適当にヤラれて…あー本当に自分でも嫌んなるくらいバカだと思う。

でも俺は、任務を忘れてるわけじゃない。

俺は俺なりに、ちゃんとやってる。

そしてそれが、今日終わるんだ。THE・END。

俺はルードと見に行った映画を思い出した。最後に流れたエンドクレジット。

知ってる名前なんてこれっぽっちもなくて、誰だお前?みたいな俳優の名前がぎっしり。見る価値ないよな、名前も知らない奴の映画なんてさ?

「クランクアップ」

でもな、もうすぐ“俺の映画”にもエンドクレジットが流れる予定なんだ。

そりゃもう見たことも聞いたこともない名前がずらりって並んじゃってさ、クソつまんない映画見せんな、金返せ!って罵倒されそうな映画なんだわ。

B級どころか最低も最低。今年最悪の映画だ。

何せ俳優は無給のゴロツキ共で、なーんも面白いトコが無い。終わり方もすっごく最悪で、早く帰って酒でもかっくらおうって思っちゃうホド。

こういう映画、嫌いだろ?

イマドキ流行らない、興行収入なんてありゃしない最低ヒューマンドラマ。ヒューマンドラマ?まあドラマといっちゃドラマかな。18ミリどころの話じゃない。

なあ、だけどさ。

こんな映画だけど、俺にとっちゃ大作なんだ。

賞なんか夢のまた夢、技術も無いし、金なんか盗んだ金だし、本当に最低だけど、俺にとっちゃ大作なんだよ。

どんな有名な映画なんかよりどんな良い役者なんかより、ずっとずっと胸が震えて苦しくて痛くなるような、そんな映画なんだ。

エンドクレジットが出たら、泣いちゃうかもな。

バカらしいし、カッコ悪いけど。

でもそれくらいデカい映画だったんだ。

「…終了。」

俺はチラ、と携帯の時計を見る。時計は丁度午後五時を指してる。

と同時に、俺の視界の中にあった廃屋が…、

 

ドオオオオン!!!!

 

――――――爆発した。

黒い嫌な煙がもくもくと立ち上がって、俺の視界を塞いでいく。

俺がかつて好きだった、自由だとかノンルールだとか信じてた場所が、一瞬の内にこの世から消え去った。

昨日バカ騒ぎしたばっかりのアイツラの顔を思い出す。

アイツラはその一瞬一瞬を本当に楽しんで笑ってた。勿論、褒められたもんじゃなかったんだろうけど、その瞬間だけ、アイツラは本当に自由だったしノンルールだった。

デカイのとノッポにくれてやった戦利品の葉巻には、遅効性の毒を含ませておいたから、あいつらはバカ騒ぎが終わった後、安らかに、だけど呆気なく逝っちまってた。

疲れてるから寝かせといてやってくれ。そう言って残ったメンツで馬鹿騒ぎした。酒にはやっぱり遅効性の毒を入れといた。

それは、本当に簡単なことだった。やろうと思えば初日の馬鹿騒ぎの時点で出来ることだったし、任務なんて本当はすぐに終わらせるべきだったんだろう。

だけど、本当は怖かった。

二度も仲間を裏切らなきゃいけないことが、怖かったんだ。

苦しかったし、辛かった。

かつての相棒みたいな横暴なことさえしなきゃ、やっぱりそこは俺にとって心地よかったし、すこしばっかり戻りたいって思っても仕方ないくらいのトコだった。

だから、この一週間っていう期間は、ただ単に俺の逃避期間だったんだろうって思う。一日でも多く逃げたかったから。自分自身から、一日でも一時間でも一瞬であろうとも。

もくもくと煙が上がる。

それを眺める中で、携帯がわんわんと鳴った。まるで犬みたいにやたら吠えまくってる。

仕方なく取ると、その相手はルードだった。ルードの言葉は簡潔で、ただ一言、任務終了を俺に告げた。

ルードの声を聞いたら、何だかやけに胸がつっかえた。

何でだろうな、お前の声ってこんなに安心したっけ?

 

 

 

ツォンさんに任務終了を告げてから、俺はルードと映画館に行った。

野郎二人で映画なんてシケてる。

イマドキ流行らない、興行収入も大したことない、またしてもB級ヒューマンドラマ。

だけど今度は、家庭愛みたいなのを描いた映画だった。

レイトショーで少し安め。でもって、やっぱり映画館には寝てるオッサンが2~3人。

相変わらず主人公もヒロインも、聞いたことないヤツが演じてて、誰だよお前ってな具合のキャスティング。画面も暗いし話も暗いし展開もあんまり上手くない。

だけど、俺にとっちゃそんなのどーでも良かった。

俺の手には、ルードが買ってきたデカい袋のポテトチップスがあった。ルードはポテトチップスを俺に押し付けて、隣ですっかりイビキなんかかいて眠ってる。

クソハゲ、台詞が聞こえないだろーが。

そう毒づきながらも、俺も負けじとポテトチップスをバリボリバリボリとデカい音を立てて食ってた。

別にどうってことない、だって映画館の中の奴は俺以外みんなスヤスヤお休み中なんだから。それにこれは消音効果も抜群なんだ。

俺の目からはぼろぼろ涙がこぼれてる。

鼻からはずるずる鼻水が垂れてる。

だけど、こんだけバリボリ音を立ててりゃ、鼻をすする音なんか聞こえないし、ひっくって涙を堪える声だって聞こえやしない。ほらな、丁度良い。

俺は、さりげなくポテトチップスなんか買ってよこして、隣で寝たフリしながら嘘のイビキをわざとらしくビービーかいてるルードに、一生分の涙をぼろぼろ流しながら、一生分の感謝をした。

 

 

 

なあ、狸寝入りの相棒。

俺は初めて知ったよ。

こんなに自由な空間があるってことを。

それから、こんなに泣ける映画があるってことも。

 

 

END

 

 

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