クリスマスツリー【セフィクラ】

セフィクラ
■SWEET●SHORT
クリスマスネタです♪

クリスマスツリー:セフィロス×クラウド

「折角クリスマスなんだから飾りつけしよう」

 

そう言って、部屋の奥の奥の方に仕舞いっ放しのクリスマスツリーを引っ張り出してくる。コンセント式で電飾が綺麗なクリスマスツリーだ。

 

「見て!けっこう綺麗じゃない、これ?」

 

早速電源を入れてツリーをライトアップさせたクラウドは、幾分か感激した様子でそう言った。尤も、クラウドのその感激はツリーそのものというよりも、クリスマスの雰囲気がそうさせているだけかもしれなかったが。

まあそれでも、楽しそうにしている顔を見るのは嬉しいと思う。

誰だって、悲しい顔なんかより笑った顔の方がすきだろう。特にそれが好きな人となれば尚更である。

 

――もう何年、こんなふうにしているのだろう。

セフィロスは、目の前でクリスマスツリーをあれこれといじっているクラウドに目をやりながら、心の中でひっそりとそんなことを考えていた。

クリスマスを意識しようと思って意識したことはなかったが、それでも毎年この季節になると誰かが必ず張り切りだしたりする。それだから、自分自身は意識しているつもりじゃなくとも、結果的にそれに巻き込まれているのだ。

 

目の前にあるクリスマスツリー。

それも、そういう過去の産物といっていい。

元々そのような装飾品など微塵も欲しいと思ったことがないセフィロスだったが、かつて誰かが、たまたまそれをセフィロスにくれたのだ。

 

捨てるのはもったいないし、何だか悪いような気がするし、だからそのまま所持していたわけなのだが、面白いことにこの季節になると誰かが必ずそれを探し出して飾り始めるのである。だから毎年引っ張り出しては飾っている状態。飾るのは他人だが、結果的にセフィロスは毎年それを目にしているというわけだ。

 

「このツリー、結構良いデキなんだね。でもなんか、ちょっと意外だったなあ」

「意外?何が?」

 

突然そんなふうに話を振られ、セフィロスは意味が分からないというように首を傾げる。

するとクラウドは、ちょっぴり笑ってこう答えた。

 

「だって。セフィロスってこういうの飾らない主義だと思ってたから。クリスマスみたいな行事はどうでも良いって、そんなふうに思ってるんだろうなって。でもさ、しっかり持ってたんだもん。こんなちゃんとしたツリー」

 

だから意外だったんだ、とクラウドは言う。そんなクラウドの表情は、どこか満足げなふうだった。

だからセフィロスは切り出せなくなってしまったものである。まさか、それはもらい物で、単に捨てられずにとっておいただけのものなのだ、とは。

こういうのは嘘をついているこということになるのだろうか。何かを問われたわけではないし、嘘を口にしたわけではないが、それでも間違いを訂正しないのは犯罪だろうか。

そんなことをとうとうと考えながらもセフィロスが口にしたのは、全く別の言葉だった。

 

「――気に入ったか?」

「え?」

「ツリーだ。お前はそいつを気に入ってくれたのか」

「うーん…まあ、うん、そうだね。気に入ったかな?」

「そうか。なら良かった」

「へへ…」

 

照れたように笑うクラウドを見て、セフィロスは穏やかな顔で一つ頷く。

そのツリーは、クラウドのためのツリーではない。彼のために用意したものではないし、そもそも全く別の誰かがくれたものである。つまり初めてそのツリーがセフィロスの目に入ったとき、それはツリーをくれた誰かさんのためのものだったのだ。

 

最初の年、誰かがそのツリーをくれた。

次の年、違う誰かがそのツリーを出した。

その次の年も、その次の年も、毎年毎年、その度に違う誰かがそのツリーを引っ張り出し、そしてセフィロスの前に飾ってくれた。

 

でも――――。

その”誰か”は常に、二年を跨いでセフィロスのそばにはいてくれなかった。いつも一度きりのクリスマスを過ごし、一度きりのツリーを飾る。セフィロスはそのツリーを見るたびに色々な情景が横切っていくのをじっと我慢するのに、同じ空間にいる人間にはそれが絶対に伝わらないのだ。

 

だって、いつも一度きりだから。

そばにいるその人は、いつも笑ってくれる。

それがセフィロスには嬉しかったけれども、それは二年と続くことはない。その結果がいつもセフィロスを悲しませるのだ。

 

不思議なものだ。

セフィロスはそう思う。

毎年この季節になればクリスマスがやってきて、それは毎年毎年必ずめぐってくる。休むことなく必ずやってくるのだ。

 

それはツリーも同じことで、毎年必ずセフィロスの目の前に現れてはきらきらと光り輝くのである。

毎年毎年、同じ。

こういうふうに、いつもいつも繰り返していくものがある。

 

それなのに、前の前にいる人間だけは同じ季節をめぐることがない。同じように時間を共にすることがないのだ。

 

「――クラウド」

「何?」

「来年も…そのツリーを飾ってくれるか?」

「え?もう来年の話?」

 

きょとんとした顔つきでこちらを見やるクラウドの目には、セフィロスの顔が映し出されている。投影された自分の表情を目にしたセフィロスは、そこにうつる男がいつになく弱気な表情をしていることに気づいた。

なんて情けないのだろう。

瞬時にそう思い、顔を引き締めようとした。

が、その瞬間、筋肉がふっと緩んでしまった。

 

「うん、飾る!このツリーって結構良いデキだけど、まだまだ飾りつけできるよね。だから来年はさ、もっといろいろくっつけようよ。プレゼントとかソックスとか、そうそう、それからさ…」

 

あれこれと計画を口にするクラウドに、思わず笑みがこぼれる。

どうやら今年のツリーは、今までのツリーとはちょっと違うらしい。物質的にはまったく同じ物なのに、こんなにも違うイメージのものに化けてしまうだなんて、まるでマジックのようだ。

 

――ああ、そうか。

だってクリスマスだから。

聖なる夜の、これはプレゼントなのかもしれない。

 

今まで、そのツリーはただの飾りに過ぎなかった。いわばショウウィンドウに飾られたディスプレイのようなものである。

しかし今年、そのツリーは本物になった。

今やそのツリーは、いっぱいの、とてもいっぱいの、幸福という名の装飾をつけたツリーだった。

 

END

 

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