PARTY【ザックラ】

ザックラ

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■SWEET●SHORT

二人だけのクリスマスパーティをしよう♪


PARTY:ザックス×クラウド

 

 

折角だから、盛大にパーティをやろうと言い出したのはザックスの方だった。

盛大にとはいっても、それはあくまで二人きりでの話しである。いくらクリスマスとはいえ、神羅がそうそう休ませてくれるはずもなく、だから夜中にこっそりパーティをという事だった。

いつも二人きりといえば、必ずこっそりと会うことになってしまう。それがザックスには何だかもどかしかった。

例えば昼などに神羅内でばったり会うならまだ話もわかるが、それはあくまで普通に会うのと同じことである。もっとそれらしい雰囲気で会うには、やはりどうしてもそっと会うことになる。

クリスマスだって同じことである。やはり夜に会おうということにはなっていたが、それがいつもと同じになってしまうのは何だか勿体無い。

だからこそ、パーティをやろう。そういう事なのだ。

とはいってもまず場所が無かった。

兵舎の中のクラウドの部屋は、誰かと共同部屋になっているから絶対に無理である。それでは本当にクリスマスパーティになってしまう。じゃあザックスの部屋はどうかというと、さすがにこれは一人部屋だったが、やはり無理だったのだ。というかザックス自身が嫌だった。

何故かといえば、こともあろうに隣の男が、クリスマスは大勢でどんちゃん騒ぎをするんだ、などと言い出したからである。

ハッキリいって、今までにもその騒音には何度もお目にかかった。しかもかなり容赦ないことが実証済みだ。これでは雰囲気も形無しというものである。

そんな訳で、ザックスはそれをどこでやるかを悩んでいた。

しかしザックスには友人が多く、その中には色々な奴がいるわけで、クリスマスなどの特別な日にはしっかり対策を練っている人間がかなりいたのだ。

彼らは大概、外に恋人がいる。けれど神羅敷地内は無断で入れないので、恋人を招き入れることは不可能だった。だから、その対策として色々なことをしていたわけである。

彼らのいうことによると、そういうスポットがいくつかあるらしい。

が、いまいち参考にならなかった。何せ目的が少し違うのだ。ザックスとしてはパーティをしたいわけで、彼らが言うような、狭くて暗いような場所ではとてもじゃないが実行できそうもない。確かに雰囲気としては良いのかもしれないが…。

が、その中の男の一人が言った場所は、なかなか良さそうだった。

「古い書庫みたいのがあるんだ。これ、神羅内なんだけど、使われてないから見回りも来ないぜ」

そうなのか、知らなかったな、そんな事を言いつつザックスは考えを巡らせたのだった。

 

 

クリスマスになると、兵舎の中では溜息率が高くなる。何せ此処には女の子というのがいないわけで、大概の兵士諸君は泣く泣くこじんまり語らったりするのであった。

そんな中、クラウドはザックスに誘われていたので、それが少し楽しみだった。しかもザックスはどうやってやるのか、とにかくパーティをしようなどと言うのだ。クラウドとしてみればその日に会う事に意味があったので特に何をしなくても良かったのだが、ザックスがそれを楽しそうに言うので、クラウドも嬉しかった。

約束によれば、夜の8時にいつもの場所…ということになっている。

何でもいつもと場所が違うというのでクラウドは少しワクワクしていた。神羅内なのだろうとは思うが、クラウドが使用する場所は限られていて、大体の場所をクラウドは知らなかったのだ。

時刻がもうすぐ8時という頃になってクラウドはそっと兵舎を出ると、いつもザックスと会っている場所まで静かに歩いていった。こんな日だから、皆も何かしらやっているのだろうとは思っていたが、どうやら廊下はいつもと同じように人通りは少ない。

「クリスマスなのにな…」

変だな、そう思いながらクラウドはザックスの元まで向かう。

少し歩いた先にザックスの姿を見つけると、クラウドは少し笑って側までかけよった。

何の目印もない待ち合わせ場所に、当然のように二人は揃うと、そこから二人の時間は始まる。

いつもこんな感じでその時間は始まるのだ。けれど今日はそこからまだどこかに移動することになるから、少しいつもとは違うけれど。

「ザックス、おまたせ」

そう言ってクラウドが呼びかけると、ザックスは「ああ」と言って笑った。しかしそれよりもクラウドが気になってしまったのは、ザックスの手元だった。ザックスの手元には、どうやら大きな袋がぶら下がっている。

「?」

何だろう、そう思ってクラウドは首を傾げてからザックスの顔を見遣る。言葉のない疑問を投げかけたつもりだったが、ザックスはそれには答えずに、行こう、と言ってクラウドの腕を掴んだ。

「どこ行くんだよ?」

そう聞いたが、

「秘密」

そう言って、結局ザックスは何も言わずにクラウドを案内していくのだった。

その場所まで約10分弱。何といってもそこは神羅内なのだから、そんなに時間もかからないというものである。

そこはザックスもそんなに出入りしたことのない場所で、勿論クラウドなどは全く知らない場所だった。普通の建物群から少し離れたところにあるそれは、本当に一つの家のようだった。

しかしその入り口には

“書庫”

と書かれている。と言うことはそのものずばり書庫なのだろう。とはいってもとても使用されているようには見えないほど、整備がされていなかった。

「此処、入って大丈夫なの?」

何だかそわそわしてクラウドがそう言うと、ザックスは、大丈夫だって、と軽く笑う。

ザックスはあらかじめこの書庫がもう使われていないことを知っていたし、不思議なことに鍵もかけられていないという事実も聞き知っていた。使われていないなら鍵くらいつけるのが普通だろうと思うが、それほど意味もないのかもしれない。何にしても都合は良い訳である。

とにかくその扉を開くと、中は少し古びた匂いがした。当然だが、周囲はどこもかしもかしこも暗くて、何が何だか分からないといった感じである。

「ちょっと待てよな」

そう言って暗がりの中で、ザックスは手にしていた袋の中から何かをごそごそと取り出した。暗くて、クラウドにはそれが何だか分からなかったが、どうやらそれは明かりの元だったらしい。しかし懐中電灯なんかではなく、何故か蝋燭だった。

太くて大きい蝋燭に火を点すと、ぼんやりと周りは明るくなる。

「…うわ…神羅とは思えない」

思わずクラウドはそんなことを口にしてしまった。それもそのはずで、その場所といったら、本当に神羅とは思えなかったのだ。

神羅内は、本社も兵舎も、それなりに機能的である。機械で制御されているのは、最早当然といった感じで、それに誰も疑問などを持ちはしない。

しかし、この書庫とやらは、どう考えてもそういう現代さとはかけ離れていた。暖かい木目の上に、絨毯。それと同じように細長い木造の机。隣にはやはり同じ長さのソファがあったが、どこか違う国の装飾のような気がした。部屋はさほど大きくも無いが、狭くもない。その部屋を囲むように壁ぴったりに棚が並んでいて、そこに収納された本は確かに分厚く古いものが多かった。

「ふうん…何の本だろう?」

クラウドはその一つをまじまじと見つめる。本の背には、“大陸の記録”だとか、何だか仰々しい言葉が並んでいた。

そんなクラウドの背中に、ザックスは声をかける。

「何でも噂だと、ミッドガルに昔からあった図書を、此処に移してきたんだってさ。だから神羅関係とはちょっと違うらしいぜ」

「そうかあ…」

確かに今はミッドガル=神羅だもんな、そう思いながらクラウドは他の本にも目を移していた。その間にザックスは、袋の中からごっそりと色んなものを取り出すと、それぞれ用意などをする。用意といってもそれほど手間がかかるようなものではなくて、並べたりだとかそういう程度である。

クラウドが何だかんだとそれを見ている間に用意は済んだらしく、ふっと振り返ったときにはどこかの食卓のような状態になっていた。

ザックスが持っていた袋の中身はほぼ食料品で、それは大体クリスマスに良く見かけるようなものであった。男ばかりがいる兵士関係の建物では、飲みはしてもこういう雰囲気にはなかなかならないものである。

電気がないので、蝋燭を立て、その周りに、シャンパンとケーキと、その他ちょっとした食べ物があったりする。しかも趣味なのか雰囲気のためなのかどうか分からないが、トナカイの置物があった。

「トナカイ…サンタさんがいないんじゃない?」

取り合えずそんなことを言ってクラウドは笑うと、

「馬鹿、サンタはな、忙しいんだって」

そんなふうに返されて、クラウドは思わず笑う。どうやら今年のサンタクロースはプレゼントを運んでくれないらしい。中途半端なトナカイを見つめつつクラウドはソファに腰を下ろすと、隣にザックスが座るのを待った。

やがてザックスが腰を下ろし、そしてちょっとだけ見詰め合う。

「…クラウド、飲めるんだっけか?」

「…微妙には」

そうか、そんなふうに言って、ザックスは用意したグラスにシャンパンを注ぐ。それを見ながら、クラウドは何となく可笑しくなって笑った。別に変な理由ではなくて、今此処が神羅の中のような感じがしなかったからである。まるでザックスと一緒に住んでいて、それでクリスマスがやってきたからこんなふうに過ごす…そんな感じがする。

本当にそんな事ができたら良いけど―――――そんなふうに思ったけれど、クラウドはその考えを押し込めた。それは難しいことだし、今考えるべきことじゃないから。

すっかり注ぎ終わったザックスがクラウドにグラスの1つを渡す。

そうして、二人は乾杯などをした。

神羅の中だけど、切り離された空間。それはたった二人だけの空間。そこで、二人きりの時間のための乾杯。

それは、ちょっとしたパーティだったけれど。

小さな、小さなパーティだったけれど。

それでも何だか嬉しかった。

 

 

そのパーティで少しお腹も満たされた頃、ザックスとクラウドは色んな話をしていた。余りのシャンパンなどを飲みながら、ソファにもたれながら、いつもとは少し違う話などもする。いつもはどうしても普段の神羅での会話になってしまうけれど、今日は少し違っていた。クリスマスの恩恵だろうか。

「いつかさ、こんなふうにクリスマスできたら良いな」

そんなことを言い出したクラウドに、ザックスは首を傾げる。

「いつかって…どういう意味だ?」

クラウドは先ほどチラッと考えたことを思い出してそう言ったのだが、それを全部伝えるのは少し恥ずかしい気もした。口には出さないつもりだったというのに、少し酔ったせいで、つい口に出してしまったのはやはり不味かっただろうか。

それは、かなりの確立で無いものねだりだと分かっているから。言ってみても大概、叶いやしないのだ。

「大丈夫だって。来年もこうしよう」

気を遣ったのかザックスがそんなことを言ったので、クラウドは慌てて、違うんだ、と首を横に振る。

「いつかさ…本当にこういうふうに…家でできたら良いよなって」

そうボソリと呟いて、クラウドは照れ隠しに少し笑ったりした。それは勿論、無理な話だったけれど、一緒に住みでもすれば、いつでもこうしていられるのだ。

こうしてたった一日だけどこかに出向いてそっとクリスマスをしなくても、ずっと一緒にいられる。

ザックスはクラウドの言葉を聞いて、そうだな、と静かに答えると、そっと笑った。それからクラウドの髪をくしゃり、と撫でる。

「いつかそうなるって、信じることはできるだろ」

そう言ったザックスはとても強くて、言われたようにすればいつかそうなるような気がしてしまう。多分、それだけで安心ができるのだ。

ザックスも勿論それは望み薄いものだとは知っていたが、それでもそんなふうに言い切ってしまうのは嫌だった。折角のクリスマスに、そんなことで悲しい顔などして欲しくなったから。

「そうだね」

そう言ってクラウドは笑うと、そっとザックスの肩に頬を寄せた。

蝋燭の火だけの明かりが、ぼんやりと二人を映し出している。その中で二人は寄り添っていた。

しかしそんな緩やかな空間に、ふっと何か音が響く。

―――――ガシャン…

「え?」

驚いてザックスは音の方向に目を向けた。どうやら音はドアの方から響いたらしい。しかしドアと思った瞬間に嫌な予感が過ぎり、クラウドの身体をゆっくり離しながら立ち上がる。そうして、例のドアの方へと歩いていく。

もしかして――――――そう思ったが、それはどうやら本当だったらしい。

まさかそんなはずは無かったが、どうして、と思うより事実の方が重い。

何故なら…。

「どうしたんだ、ザックス?」

首を傾げてそう言うクラウドを振り返ったザックスは、困ったような顔でこう一言だけ言った。

「出られなくなったみたいだ」

一瞬、訳が分からなくてクラウドはぽかんとした。しかしそれの意味がやっと飲み込めると、

「ええっ!?」

突然声を上げる。

当然といえば当然のリアクションである。何せ出られなくなったということは、明日も帰れないということなのだ。しかも此処は誰かが通るという可能性も少ない、今や使われていない書庫である。

最悪の場合、このままずっと出られないこともありうる―――…。

しかし、それは本当に妙な話だった。何しろ此処は誰かが通る可能性は少ない。それなのに、今さっき鍵がかかったのだ。来たときは鍵は開いていたし、ザックスが鍵を使用して開けたわけでもない。

と言うことは、先ほど誰かが此処の鍵を閉めたということになるのだ。

でも一体誰が?

まさかこんなクリスマスの夜に限って、書庫に鍵がかかっていないのが気になったという訳でもないだろう。

ザックスは少し悩むような顔をしていたが、暫くするとソファに戻り、クラウドに向かってこんなことを言った。

「いつ出られるか分からないけど、要はその時まで二人きりって事だな」

「…う、うん…まあ」

「もしも、このままずっと出られなかったら…一生二人きりだな」

「そ、そうだけど…」

心配そうな顔をしているクラウドにザックスは笑いかけると、その身体をそっと抱きしめた。こんな時なのに、ドキリとする。

暖房器具何一つ無いこの空間はやはり少しは肌寒い。その中で、ちょっとだけ温まる体は、何だか不安をかき消すような気がした。

こんな時間が続けばいいな、そう思ったが、そういえば図らずとも続くのだった、そう思ってクラウドはザックスから少し身体を離す。

それから、ザックスの顔を見ると、

「やっぱり出れなくても良いかも」

そんなことを言って、静かにザックスに口付けた。

それは、蝋燭一本の明かりの元、たった二人のクリスマス。

 

 

翌朝には何故か鍵が開いていて、結局二人はそのまま普通の日に返っていった。

しかしあの鍵のことがどうにも分からず、二人とも首を傾げるばかりである。

が、その謎はある日はっきり解けたのだった。

ザックスの友人の一言によって。

“良いクリスマスになっただろ?”

その言葉にザックスは呆れつつも、でもやはり少し照れたりしたのだった。

 

 

END

 

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