GLOWFLY(8)【ザックラ】

*GLOWFLY

最大の任務:08

 

当初はどこか弱々しくて頼りなさげな雰囲気だったクラウドも、会話を重ねていく内に段々とその雰囲気を変えていった。とはいえそれは慣れに違いなく、ザックス以外の人間の前では未だにおどおどとした様子を見せていたようである。

そのクラウドの態度の違いは、二人の仲の良さを顕著に表していた。
本来ならそこまで打ち解ける必要性もない一般兵とソルジャー。それがここまでの仲になったのは、他でもなくザックスがクラウドに対して何かを求めていたからだった。

それは最初、単なる興味だった。
自分とは異なる存在であるクラウドへの興味、それはどこかセフィロスへの興味とも重なる部分があり、そういう意味でも何だかクラウドとの時間は新鮮だった。

いつもだったら軽いジョブに軽いジョブが返るくらいの会話ばかりなのに、クラウドやセフィロスは全く違う。軽い言葉に対しても時として重い言葉を返してくる。

しかしその重い言葉はザックスを嫌にさせるようなものではなかった。あまりにも真摯で――――そういうものが、何だか心地良くなっていたのである。

話を重ねる中でクラウドに求めていたものは多分、新鮮味だった。
まだソルジャーを目指す段階であるクラウドの口から漏れる言葉は、どれも希望に満ち溢れている。

すでにその地位にあるザックスにとって、それは妙に新鮮だった。そういった初心をすっかり忘れていたザックスは、クラウドの言葉を聞くと自然と嬉しくなったものだ。

クラウドと初めて話した時に感じた、目的という礎。
その時思い出したセフィロスの憂い顔。

それが意味するものとは、クラウドには目的意識があり、セフィロスにはそれがないということだった。そしてセフィロスはザックスに言ったのだ、自分と一緒だと。

そう考えると、ソルジャーでも何でもない今のクラウドにあるものが、ソルジャーである自分やセフィロスにはない、という事になる。

それも多分、原因の一つだった。

どんなに頑張ってみてもデカイ事一つ起こらないこの平和の中、何かを目指そうとしてもそれは容易には見つからない。クラウドのようにだれかとの約束でもあれば良かったが、ザックスはそれすら無いままに飛び出してきた。

…だから、せめて騙したかった。自分自身を。

目的を持って夢を語ることができるクラウドの側で、便乗するようにその夢を見ていたかったのだ。本当は何も目的などないと分かっていても、それでも。

「どうだよ。好きな子、守れそうか?」

チャチャを入れるようにたまにそう聞くと、クラウドは赤面して言い訳した。その様子が可愛らしくてついついまたその話題を振ると、クラウドは必ず膨れた。
ザックス、そればっかりだ、と。

「ザックスはそういう人いないの?」

「俺?」

ザックスは少し考えるようにして唸ると、そうした割にあっけらかんと「いないかな」と答えた。その言葉を受けてクラウドは首を傾げたりする。

「ザックスってモテそうなのに。変なの」

「そうか?そうでもないぜ、多分な」

「ふうん…」

納得できないふうに、それでも納得らしい言葉を吐いたクラウドは、フォローを入れる為なのか、

「俺が女の子だったらザックスみたいな人が好きだったな」

などと言った。
だからザックスはそれに付き合って笑ってこう切り返す。

「そりゃ嬉しいな!俺もお前が女の子だったら全力で守ってやるよ」

「はは…何か嬉しいけど複雑」

困ったようにそう笑ったクラウドは、ザックスを直視しながら、でも、などと続けた。

「何か羨ましいな。そういうふうに言えちゃうのって凄いよね」

「え?」

「うん、だから、守るって言い切れるって凄いなあって。俺は好きな子に同じようなことを言ってきたけど何だか信憑性が無いっていうか…でもザックスが言うと、本当に守ってくれそうなんだもん」

ああ、なるほど。そういう事か。

そう納得しながらザックスはクラウドの肩をポンと叩くと、ニッと笑った。それから、これは本心からの言葉を返す。

「大丈夫!それはきっと俺がソルジャーだからそう思うんだ。クラウドだってソルジャーになったらきっとそう思えるさ」

「そうかな…」

「そうだよ」

自信持てよ、そんなふうに言うザックスに、クラウドは払拭できないものを残しながらも笑顔で一つ頷いた。ザックスはそんなクラウドを見ながら、やはり何か羨望に近いものを感じる。

クラウドはそんなふうに言うけれど、実際そうできる場所も無い。それは多分今のクラウドには分からないことなのだろう。説明してみても多分理解の範疇ではない。

クラウドの当面の目標はソルジャーであり、そのハードルはまだ越えていない。だがザックスはもう既にそのハードルの向こう側に位置していて、実際守りたいものがあるかといえばそういうわけでもなかった。

もしも我武者羅に守れるものでもあればその言葉はもっと信憑性があったに違いない。

―――――――クラウドはそう言うけれど…。

「俺にとっては、俺も信憑性無いな…」

ザックスはそう呟いて、少し笑った。

だって、セフィロスの言う“任務”は、未だに見つかってはいないのだから。

 

 

 

久々にセフィロスの時間があき、たまたま話す時間ができると、ザックスはすぐさまセフィロスの元に飛んだ。

そうそう話せない人だし、そう思うとチャンスは逃したくない。

しかし、そこまでしてセフィロスと時間を共有しようとすることの裏にどういう心情があるのか、ザックス自身もよく理解していなかった。

セフィロスは一人だけで暗い部屋にいることが多かった。
そういう時は大体憂い顔で、任務の時とはどこか違う顔をしている。

「セフィロス、久し振り」

部屋にいることを確認したザックスは、ドアを開けるなりそう声をかけ、中へと歩を進めていく。

その声に気付いたらしいセフィロスは、チラ、と視線だけをザックスに投げ、その姿を確認して少し笑った。それから、ああ、という言葉が返る。

「どうした、ザックス。何か用か?」

「ううん、別に。単にセフィロスと話でもって思ってさ」

「…お前は本当に変わっているな。大胆というべきか。…普通、暇つぶしに俺に話しかけてくる奴はいないぞ」

「だろ?そこが俺の良いところなんだよ」

笑ってそう言ったザックスはセフィロスの隣に腰を降ろすと、毎度セフィロスが視線を投げている窓の外を見遣った。
窓の外、セフィロスの視線の先には、コンクリートで埋め尽くされたグレーの景色がある。

「セフィロスっていつも何見てるんだ?」

「特に何というわけじゃない。ただ、毎日変わらないなといつも思う。この景色を見ているとな」

確かにその景色はコンクリートだらけで、彩度が全く感じられない。いつでも硬質の感覚と、殺伐さを突きつけてくる。

しかしザックスはその景色に関して特別そういったものを感じていたわけではなかったから、セフィロスの言葉に納得はしたものの特別な感慨はもたなかった。
ただ、神羅だな、と思うくらいで。

「お前は何だか楽しそうだな」

ふとそう言われて、ザックスは「え?」と声を上げる。
だからセフィロスはもう一度「お前は楽しそうだ」と言葉を繰り返してきた。

楽しそうなんて、そう見えるのだろうか。

そう疑問に思ったものだが、確かに楽しくないわけではない。クラウドという友人も増えたし、彼と話している時は新鮮味があったから、多分それが表情を生き生きさせていたのだろう。

ふとクラウドのことを思い出したザックスは、そうだ、と何かを思いついたような顔つきになる。
それは、ザックスの閃きだった。

「セフィロス。俺、友達ができたんだ」

「友達?お前の友達なんてゴロゴロいるだろう」

「そうじゃなくって!何ていうかこう…そいつといると楽しいんだ、何だか新鮮で。まだ一般兵なんだけど、今度セフィロスにも紹介するよ」

暗いままの部屋の中で意気揚々とそう言うザックスに、セフィロスは静かに笑って、

「紹介?別にそんなことをしてくれなくても良い」

そんなふうに言った。

しかしザックスはそれを否定すると、絶対に紹介するから!と何故だか意気込む。
セフィロスはそんなザックスに首を傾げながらも、じゃあ期待せずに待っている、と告げた。

セフィロスにしてみればザックスの友達を紹介されるなどというのは妙な話でしかない。ザックスの友人だからといってセフィロスの友人になるとも限らないし、大体そんなことには興味もなかった。しかし逆にいえば、特別嫌だというわけでもない。

だが、ザックスがここまでしてクラウドを紹介しようとしたのには勿論意味があった。
それは、クラウドと話している間に常に自分が感じている新鮮味を、セフィロスにも感じてもらいたいからという理由である。

自分が目的を持っているクラウドを見て羨望に近い念と新鮮味を得られたように、セフィロスもきっとそういう感覚になるのではないかと思う。

それが良いことなのかどうかは確実に判断できないが、それでもセフィロスが見せる憂い顔を少しくらいは緩和できるのではないかと思っていた。

だからそれは、ザックスにとってはセフィロスの為にしたいと思ったことだったのである。クラウドにとっては憧れのセフィロスに会えるのだから、正にこれは一石二鳥だろう。

それを良い閃きだと判断したその時のザックスは、幸せの中にいた。

セフィロスとこうして話をできるのは自分だけ。
クラウドと懇意に話をできるのも自分だけ。

その「特別な位置」という幸せは、今後起きるかもしれない渦には気づかなかった。

 

 

 

とても―――――――幸せだった。

まるでこれから先の全てが、安全で保証されているように感じた。

ただ一点、セフィロスの言った“任務”だけは見つけ出すことはできなかったけれど、それでもそんなことを払拭できるくらいにそこは、幸せだった。

誰かが喜んで、笑う。
自分もそれが嬉しくて、笑う。

 

そこは―――――…そういう笑いに、満ち溢れていたんだろう。
 

  

 

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