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■POP●SHORT
事に及びたい人と及びたくない人。エロ無しのエロネタ?(笑)
奇襲注意!:ツォン×ルーファウス
それはある日のこと。
優しいタークスの面々はルーファウスを飲みの席に誘い、仕事のことなどすっかり忘れて楽しげな夜を送っていた。
メンバーはルーファウス、ツォン、レノ、ルードの四人で、むさくも男ばかり…いや、ナイスガイの集まりだと言っても過言ではない。
しかし、楽しい夜というのはすぐに過ぎ去るというのが世のお決まりパターンである。それはその日も例外ではなく、楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去り、「さて、そろそろ帰ろうか」となった。
しかし……そこで問題が一つ浮上する。
それは―――。
「…なあ。コレどうするのかな、っと」
「…ああ、そうだな」
「……」
タークスの面々が口を揃えて言った「コレ」とは―――ルーファウスの事だった。
ルーファウスは特別酒に弱いわけでもないはずなのに、なぜかその日はベロンベロンに酔っていた。その酔い具合といったらすさまじい。
というか、元を正せばそうなるほど飲ませた輩が悪いのだが、当の加害者たる男は飄々とこう言ったりする。
「じゃ、後はよろしく!ツォンさん!」
「は!?」
散々酒を飲ませたくせにサクッと帰ろうとしているレノを見て、ツォンは思わず声を上げた。よろしくとは何だよろしくとは、と突っ込みたい。
しかしそう突っ込む暇も無くレノはツォンに擦り寄ると、胸の内ポケットからすっとある物体を取り出し、それをツォンの手の中に包む。
それから意味深に笑うと、ツォンの耳元でこう囁いた。
「まあまあ…コレ使ってよ、ツォンさん」
そう言われてツォンが手の中を見ると、そこには明らかに例のブツが収まっていた。世間一般に言う避妊具というやつである。
一般人ならここで「何でだよ!」とスペシャルなツッコミが入るところだが、ツォンの場合はツッコミの種類が少し違っていた。
「ばっ…!何言ってるんだ、レノ…っ!!」
小声で怒鳴るという大偉業を成し遂げつつもそう抗議したツォンは、目前でニヤニヤ笑っているレノの胸倉をグッと掴む。
しかし、そうされても一向にへっちゃらそうなレノは、意味深な笑いを浮かべヒラヒラと手を振った。
「じゃ俺らは帰るんだぞ、っと。ツォンさん頑張れよ~」
「…って!おい…っ!!」
――――何を頑張るんだ、何をっ!!?
そう突っ込みたいツォンだったが、悲しいかな、もう既にツッコむ相手はその場から姿を消していた…。
そんなわけで、結局その場に取り残されたツォンがルーファウスを送ることになったわけだが、これは実に至難の業であった。
べろんべろんに酔ったルーファウスは既に歩くことさえ放棄していて、「立って下さい」なんて言おうものなら「足が無いから」などとワケの分からんことを言い出す始末。
タクシーに乗せようと思えば「酔うから嫌だ」と言い、ツォンは思わず「もう既に酔ってるじゃないですか!」とツッコミを入れたものだが、正常じゃなかったルーファウスには効果が無かったようである。…ちょっと悲しい。
それでも何とかしてルーファウスをタクシーの乗せたツォンは、その人を自宅まで送った。
―――――しかし。
到着した自宅で、ルーファウスはこともあろうにこんな事を言い出した。
「此処じゃない」
なんだって!?――――ツォンがそう思ったのは言うまでも無い。
勿論、そこは紛れも無くルーファウスの自宅であり、表札だってその通りだった。
しかし当のルーファウスが「此処じゃない」と言うわけで、彼の性格上、それ以上どんなに説明しても納得してもらうのは難しそうだった。
それでも何度か「此処で合ってます」と説明してみたツォンだったが、結果は惨敗…。頑なに「違う」と言い張るルーファウスに、最後には折れたものである。
しかし…じゃあどうすれば良いのか?
それはツォンにとって一番の問題だった。
何しろ本当の自宅に来たのに「此処じゃない」と言うのだ。じゃあ何処に連れていけばいいというのだろうか。
しかし、とにかく何処かには連れていかねばならない。まさか、このままの状態で明日出勤というのはいかにも困る。
「まったく…」
ツォンは溜息をつくと、最終的には自分の自宅へと向かった。
数十分後、ツォンとルーファウスを乗せたタクシーはツォン宅に到着する。ルーファウスを引きずりつつ自宅ドア前まで向かうと、ここでまた奇妙な出来事が起こった。
「そうそう、此処」
「―――は?」
「此処で合ってる」
「……」
――――何故そうなる!?
ここは私の自宅ですけど!
ツォンは心中で激しくそうツッコミを入れたが、表面上は「そうですよね」なんて心にも無い言葉を口にした。
折角ルーファウスが「此処だ」と納得をしたのだから、どれほど事実が違うとはいえ、それを崩すようなことはしたくない。なにしろそんな事をしたらコッチが疲れてしまう。
どうせならこのまま納得してもらい、サクッと眠ってくれれば一番良い。
そう思うが故に、ツォンはそれ以上のことを言うのは止めた。……はずだった。
が。
「ツォン」
「はい?」
「ソファがあったはずだが、どうも姿が見えないな」
「……」
そりゃそうだろう、なにしろここはルーファウス宅ではない。
ツォン宅にもソファはあったが、数日前ちょうど片付けてしまったのだ。
「それはいいじゃないですか。もうお休みになった方が宜しいですよ」
何としてでも寝かせてしまおうと思ったツォンは、それとなく話題を変えた。
それからルーファウスの上着を受け取ると、それを寝室に持っていき、これみよがしにベットを整える。いかにも「あとは寝るだけだ」といわんばかりに。
それに気づいたのか、ルーファウスは口をとがらせてこんなことをいう。
「まだ寝支度が済んでない。だから寝ないぞ」
「寝ないって…」
ツォンは困った顔でルーファウスを見遣った。
視界の中のルーファウスは、いかにもべろんべろんである。この泥酔っぷりで寝支度全般がしっかりこなせるのかどうか、正直かなり疑問だった。
もしそれが出来るならそうして貰って全く構わないが、どう考えたって無理だろう。シャワーを浴びでもしたら、そこで倒れてしまうのではないかといった感じである。
「今日は諦めた方が懸命かと」
「そうか?」
「そうです」
キッパリ言い切ったツォンに、ルーファウスは首を傾げながら「そうかなあ」などとつぶやいている。しかし、どうも意味は理解していないらしい。
ツォンはそんなルーファウスを眠るよう仕向け、何とかベットの上に横たわらせた。
これでようやく片付いたと思ったものだが、ルーファウスはといえば……此処で大人しく寝てくれるような人ではなかったわけで。
寝転がったわりに、一向に目を瞑ろうとしない。しかし、泥酔しているのでその目はいかにも据わっている。
その目はじっとツォンを見つめており、ツォンは背筋に悪寒が走るのを感じた。
「…な…何ですか」
ツォンが冷や汗を浮かべながらそう聞いた瞬間、ルーファウスの腕がツォンの腕をガッツリと掴む。
「のわっ…!!」
あっという間にベットのなかに引きずり込まれたツォンは、拒否する暇もなく、ルーファウスにぴったりとくっつく体制になった。しかもどうだ、ルーファウスはそんなツォンの体をぎゅっと抱きしめてくるではないか。
これは本来なら非常にムード満点なシーンであることは間違いない。
…が、しかし。
「うっ…っ、は、はなしてぐだざい…っ」
「…ヤダ」
「や、ヤダって…し、死にまふ…っ!!」
泥酔のせいで加減を知らなかったらしいルーファウスは、いつもの10倍くらいはある力でもってツォンを抱きしめており、ツォンは呼吸困難に陥りそうになっていた。
こういう時、ドラマなぞでおなじみの「貴方の手にかかって死ねるなら本望だ」的なセリフが頭をかすめるが、ツォンとしてはこの状況で死ぬのだけはゴメンだ!という気分だった。
そんな気持ちが届いたのか、はたまたただの気紛れか、スッとルーファウスの腕の力が弱まる。
「…なあ、ツォン」
泥酔しながらも静かな声音でその名を呼んだルーファウスは、続けてこんな言葉を耳打ちした。
「今日は楽しかった、ありがとう」
「…ルーファウス様…」
――――まさかこんな殊勝な言葉が出てくるとは。
意外な言葉を耳にし、ツォンは思わず動作を止める。
今日は元々レノが用意した飲みの席だったから、ツォンが礼を言われるのはどこか違う気もしたが、それでもその言葉はツォンの心を温かくした。
いつものルーファウスであれば、こんなことはいわないだろう。
きっと今日は泥酔しているからそんな事を言うのだ。これがもしホロ酔い程度だったらまた違ったはずである。
そう思い、ツォンは自然と微笑む。
「また皆で飲みましょうね」
思わずそんな言葉をポロリと零したツォンは、迷った挙句にルーファウスの身体をそっと抱きしめた。
さっきは鬼のような力を発揮していた体だが、今はもうすっかり力が抜けていて柔らかい。成すがままに引き寄せられたその体は、すっぽりとツォンの胸に収まってしまう。
二人は、しばらくそんな甘い時間を堪能した。
しかし……残念ながらそんな綺麗に終わるはずが無かったのである。というか、終わらせてくれるはずが無かった。何せ相手はあのルーファウスなのだから。
「ツォン」
良い雰囲気の中でそう呼ばれたツォンは、すっかりその雰囲気のまま「はい」と答えた。
しかし―――。
「泥酔、抱擁、ベット…この三つが上手い具合に揃ってるっていうのに、お前は何でそんなに鈍感なんだ」
「…はい!?」
静かで暖かなムードなどどこへやら、抱きしめあっているその中で「あ~あ」なんて声を漏らしたルーファウスは、
「普通こういう時はアレだろ。ここぞとばかりに押し倒すのが常識だ」
とまで言い切ると、どうしてそうならないかな、とさも不服そうな顔をした。
そんなルーファウスを見てツォンは思わず呆然とする。
――――泥酔した上でそれを言うか普通!?
勿論、ツォンにとってもこれは美味しいシチュエーションであることには違いない。ルーファウスの言うとおり、良い雰囲気ならばそれこそ押し倒すのも一理である。
しかし、そういう雰囲気なのに敢えてそうしないのがこれまた良かったりするわけで、そこを「どうしてそうならないかな」などと溜息つきで言われてしまうと、これは相当切ない。
敢えてそうしているのに、と反論したかったが、ルーファウス的に言えばそれは「駄目」なのである。反論100倍返しも目に見えている。
落ち着け―――相手は泥酔状態だ。
そう心に唱えたツォンは、頑張って微笑みを浮かべると、
「今日はもうお休みになった方が」
と、あくまでマトモな返答をした。
しかしルーファウスが引き下がるはずがない。例え酔っていたとしても。
「どうしてお前はいっつもそうなんだ!お前には無いのか、こう…今がチャンスだとか、此処で一発、とかそういう…」
「そ、そんなのどうでも良いでしょう!?私は俗に言う狼とはワケが違うんですっ」
「たまには狼でも良いじゃないか!」
「私が嫌なんですっ!」
「そんなのコッチがヤダっ!!」
「何でですかっ!!」
とうとうワケの分からない言い合いを始めた二人は、ベットの上というシチュエーションにも関わらず全くムードの無い展開を見せ始めた。
しかもその会話の内容はかなり疑問である。
「大体お前は何かが足りないんだっ」
ベットの上で上体を起こしたルーファウスは、何故か正座になると、そのままの体勢でツォンに向かって叫ぶ。
そんな体勢をされたものだから何故だかツォンも正座になると、至近距離なのに最大ボリュームでこう切り返す。
「一体何が足りないって言うんですかっ」
「何がってそれは情熱だ、情熱!」
「じょっ…っ。何ワケの分からないことをっ!」
「ワケがわからないことは無いだろう?大体お前って奴はいつも無関心でクソ真面目でイマイチ勢いに欠けるんだっ。大体お前は……あ、そうだ」
ビクッ。
――――何となく嫌な予感…。
ルーファウスが「あ、そうだ」なんて言う時は大体嫌なことが起こる。
勿論それはツォンにとっての、という事で、このときもその「嫌な予感」を察知したツォンは、すかさずザザザッと後ろにのけぞった。
「じゃあお前に聞こう。お前はどういうシチュエーションなら良いんだ?」
「えっ!?」
――――シ、シチュエーション…!?
それはもしや、そういう事をする上でのシチュエーションということだろうか。いや、それ以外あるまい。何せ今はどうやらそういう事を話しているのだから。
しかしそうだと分かっていても、ツォンにとってそれは答え難いものだった。というか、答えたくない。いや、むしろ何故そんな事を答えなくてはならないのか疑問である。
「そんなもの、ありません!」
思わずツォンがそう言うと、ルーファウスはいかにも不満そうな顔をした。
「嘘だ、そんなはずはない。私の記憶が確かならお前も男だったはずだ」
っていうか男です、とはツッこまない。
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