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別に何ということもないワンシーン。途中小説救済企画です。
こころ:ツォン×ルーファウス
「なあ、心ってどこにあるんだろう?」
そんな事をふと言われて、ツォンは驚いたように声の主を眺めた。
ツォンの視線の先にはルーファウスの姿がある。だからその言葉を放ったのは他でもなく、ルーファウスである。
ルーファウスは窓の外を眺めながらそんなふうに呟いたので、そのツォンの視線には気づいていないようだった。ツォンがそうして視線を向けても尚、窓の外をすうっと眺めている。丁度ツォンの視界の中のルーファウスは横を向いていて、それは綺麗に伸びる鼻筋を明らかにしていた。
「突然、どうしたのです?」
やっとのことでそう言葉を返したツォンに、ルーファウスは特に何もリアクションを起こさずにこう言う。
「別に、ただそう思ったんだ。ほら、良く言うだろう。心は心臓にあるとか何とか」
「ああ、まあ…」
「でも実際、物を考えるのも何かを感じるのも、頭じゃないか?」
「そうですね」
変な理屈だ、そんなふうに言うルーファウスは、窓の外からやっと視線を外してツォンを見やった。そうしてようやく、眼が合う。
そんなことを言い出すものだから何か感傷的になっているものかと危惧していたツォンは、眼に入ったルーファウスの何ともない表情に何だか気が抜けてしまった。その表情は本当に何でもなくていつも通りで、今にも仕事の話でもしそうな勢いである。
それであるのにそんな話題を振ること、それも何だかツォンにはワケが分からなかった。例えルーファウスが「別に」と言おうと、そうそう納得できるはずもない。
だからツォンは、その理由をもう一度問おうと口を開こうとした。
…が。
それは、ルーファウスの言葉を前に崩れ去る。
「世の中っていうのは何でこうファンタジーが好きなんだろうな」
「ファンタジー…というか。ロマンチックな方が夢があって良いという事でしょうね。多分」
「ロマンチック?…なるほど。で、お前もそう思うのか?」
そう問われてツォンは、一瞬躊躇った。
しかし、次の瞬間にはこう答える。
「いえ、別に」
そのツォンの答えは、多分、嘘だった。
いや、嘘とは言い切れないまでも、正直とは言い難いというところである。
ルーファウスが先ほど言ったように、確かにモノを考えるのは脳であり、心臓というのは直接何かを感じたりする器官ではない。
但しその心臓は命の源であるから、そこが停止してしまうと何がしかを感じたり考えたりする脳も機能が停止してしまうわけで、そういう観点からすれば心臓=心というのは合っているような気がする。
それに、心と聞かれて心臓を思うのは今やほぼ普通のことだろう。
そんなふうに「心」で葛藤をしていたツォンを見抜いたのだか、ルーファウスは少し笑った。
「嘘つき」
悪戯っぽく笑った顔の、その司令塔が、どうかロマンチックな観点で言うところの”心”でありますように。
ファンタジーだとしても、ツォンはふと、そう願った。
END