キスと心臓、そしてキス【ツォンルー】

ツォンルー

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■SWEET●SHORT
違う人間だからこそ惹かれあうのに、違う人間だからこそ最後まで一つになれないもどかしさ。

キスと心臓、そしてキス:ツォン×ルーファウス

 

愛している。

愛している。

愛している。

何度この言葉を吐けば満足できるのだろう。

 

ありがとう、と。

嬉しい、と。

そう言って笑ってキスをして身体を重ね合わせて、それでも満足できない。

 

「じゃあ、どうすれば満足できるんですか?」

 

キスでもセックスでも満足できないと告げられると、困ったようにツォンはそう尋ねた。

別にそれらが不満だとかそういうわけではなくて、まだ物足りないと、そういうわけである。

しかし、一体これ以上の愛情表現とはどんなものだろうか?

 

「…極上のワイン、かな」

「ワイン?じゃあ、それを用意すればよろしいですか」

「ああ。だけど極上のだぞ?適当なものでは満足できない」

「分かっていますよ」

 

どうせヴィンテージものが欲しいと仰るんでしょう。

察しはついていますよ。

ツォンは困ったように笑いながらもそう了承する。

 

恐らくツォンはこのヴィンテージものの極上ワインを問題なく用意してくるだろう。

しかもそれは中途半端ではなく、本当に相当高価なものを寄こしてくるに違いない。

ルーファウスは既にそれを確信していた。

 

しかしそれを確信してしまうと、今度は新たな疑問が浮かび上がってくる。

滞りなく用意されるであろう極上ワイン。

それを目の前にしたら、じゃあ自分はそれで満足できるのだろうか?

 

「…やはりだめだ。それでも足りない」

「足りない?じゃあ、一体どうすれば満足できるのです?」

 

またまた困ったツォンがそう聞くと、ルーファウスは今度はこんなことを言った。

 

「…旅行、かな。暫く二人きりで旅行にでも行ったら、満足できるかもしれない」

「旅行ですか。日取りが難しそうですが、そう仰るなら調整してみましょう」

「言っておくが、1日2日の話じゃないぞ。そんなことでは満足できない」

「分かっていますよ」

 

どうせ一週間はと仰るおつもりでしょう。

ツォンはそう言って、早速頭の中でスケジュールを調整し始める。

自分が1週間会社をあけるなどというのは今迄では考えられないことだったし、そもそもルーファウスとて本来許されることではない。しかしそれも、ルーファウスの命令で、ということにすれば何とか切り抜けられるかもしれない。

とはいえ、いざとなればいつでも仕事に駆り出されるのは覚悟の上、ということにはなるが。

 

「少し先になるでしょうが、とりあえず考えておきます」

「ああ」

 

そうして取り敢えず一旦は納得したルーファウスだったが、やはり少しすると、どうにもこうにも疑問が浮かんできたものである。

旅行にでもいけば、確かに仲も深まり、一時的に日常からも離れられるし、良いかもしれない。

しかしそこから戻れば、また今と同じような気持ちになるのではないか。

 

何かが足りない。

どうしても満足できない。

キスをしても、セックスをしても、それでも何かが物足りなくて。

 

一体、何が足りないのか。

考えてみても分からない。

 

第一級の高級ホテルの上層階。

その一室から見下ろす景色は、恐ろしいほど綺麗な夜景だった。

普通の人間だったらば、この夜景を見て綺麗だと称賛し、恋人と甘く肩を並べたりするのかもしれない。しかしルーファウスはそういう気持ちにはなれなくて、その夜景を見ながら顔を歪めていた。

 

このホテルはとてつもなく高級である。

上層階はスウィートルームであるから、一泊するだけでも相当な額なのだ。

つまり、この夜景を拝めるということは、ルーファウスやツォンの地位あってのもの、ということになる。

それはきっと喜ぶべきことなのに、どうしてだろうか、この景色を拝めなかったほうが、こんな渇きを覚えなかったのかもしれない、という気持ちになった。

 

「夜景ですか」

 

ツォンがルーファウスの背後に近づき、その体を後ろからすっと抱き締める。

と、ルーファウスの背中に生ぬるい感触がやってき、やがてそこに規則的な鼓動を感じた。

 

「…いいな、それ」

「え?」

 

ルーファウスはくるり、と振り返ると、ツォンの胸に耳を押し当てる。

耳にぴったりとくっついた皮膚から伝わる鼓動は暖かく、何だかとても人間らしい気がした。何だろうか、キスとも違う、セックスとも違う、不思議な安心感。

 

「――――お前の心臓が欲しいな」

 

ルーファウスはぽつり、とそう呟いた。

それを聞いてツォンは一瞬驚いたような顔をしたが、少しして優しい表情を見せると、ルーファウスの髪を撫でながらこう返した。

 

「全く物騒なことを仰る。…でも、良いですよ。私の心臓など差し上げますよ。いつか私が殉死でもしたら、その時は心臓だけでなく、この身体を余すところなく差し上げます。貴方の好きなようにすれば良い」

「それは嫌だ。動いてる心臓が欲しいんだ」

「じゃあ無理やりにでも取り出しますか?」

 

ツォンは笑ってそう返したが、ルーファウスは少しも笑わなかった。

真面目な顔をしてツォンを見つめている。

それだからツォンは、また元のように困ったような表情になってルーファウスを見やった。

 

「……ワインも旅行も要らない。心臓も諦める」

「え?」

「そんなものより―――――お前のキスが欲しい」

 

キスをして、そして抱き合って。

それでも何かが物足りない。

どうしても満足できない。

それは分かっている。

分かっているから、常にそれを求め続ける。

 

その唇を絡めて、その口から囁かれる甘い言葉を全て飲み込みたい。

その体を絡めて、その性器から溢れる愛を全て受けとめたい。

 

それだけのことを、ただただ、求め続ける。

ひたすら求め続ける。

今日も、明日も、明後日も。

ずっと。ずっと。

 

飽きるまでキスして、そして抱き合って。

繰り返しそうすることだけが、永遠に満足できぬ心を、埋める方法。

 

END

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