50/50(1)【ツォンルー】

ツォンルー

インフォメーション

 
■SWEET●SHORT
 
ツォンの視線は少し苦手だ。結構ラブラブ??(笑)
 

50/50:ツォン×ルーファウス

目は口ほどにモノを言うというが、それは強ち嘘じゃないなと思う。

例えば今。

今、俺の目の前にはツォンがいるけど、ツォンはさっきからじっとコッチを見てる。しかも口は一切開かずにだ。その視線と事前にあった背景のおかげで俺はこの視線の意味が痛いほど分かる。でも実際にはあんあまり分かりたくはなかったけど、な。

「…これ」

そう言って俺は観念したようにある物体をツォンに手渡した。

それは何かと言うと、あるCDだった。この中身に何が入っているかといえば、実はちょっとしたゲーム。PCの中にインストールして遊ぶ、いわゆるPCゲームってやつだ。

最近それほど忙しくも無かったし、少しだけと思ってこっそり遊んでいたのがいけなかった。何でかは不明だがとにかくツォンにそれがバレた訳で、俺はびっしりと怒られたという具合で。

でも大体変な話だと思う。何が悲しくて俺がツォンに怒られなくてはいけないんだ。

たまたま用事で来たツォンが、緩みきった俺の顔を見て鬼になった…というのが始まりだったが、まさかアンインストールを監視した上にCDまでよこせとは…全く恙無い。

ツォンはCDを受け取ると、

「ではこれはお預かりします。以後こんなことはなさらないで下さいよ」

「はいはい」

俺は適当に返事をすると、手をひらひらさせてツォンを追い払った。

こうして俺の暇つぶしはすっかりなくなってしまった。

ツォンの視線というのに、俺はどうも弱い。

というかツォンの視線があんまりにも強いのかもしれない。

もうこれは俺の中の常識にもなっていることだが、ツォンはあまりにも感情がヒートすると大概黙り込む。以前ついうっかり“むっつりスケベ”なんて言ってしまったら相当怒ってたみたいだけど。

とにかくじっと見られると、それがあまりにも強い感情を含んでいるせいか、その空間に俺の方が大概ギブアップしてしまう。最早、武器レベルだ。

本当なら俺が折れる必要なんてどこにも無いのに、これはあまりにも不公平なことだった。だから俺はなるべくツォンを視線のぶつけ合いはしないようにしてたけど、たまにこうして避けられない事態になる。

というわけで、俺はあまりツォンの視線というのが得意ではないし、むしろ言ってしまえば苦手の部類だった。

でもそんな俺でも、一つだけ嬉しいなあと思える視線がある。

二人きりでいるときに、穏やかな雰囲気の中で見せる視線が、ソレ。

俺の中の常識として、感情がヒートすると視線で言葉を投げるツォンだから、その嬉しいなと思える視線を投げるときは、自分で言うのもなんだけど相当俺は想われていると考えて良いんだろう。…ちょっと自意識過剰か??

とにかく俺が歓迎できるのは、そういう視線。

 

 

CDを取り上げられたその日、丁度俺とツォンは約束などをしていた。

でも今日の今日で、何だか気分的にはそういう感じにはなれなくて、俺は何となく今日はもう帰りたいななんて思いながらツォンと会っていた。いくら好きでも、バイオリズムってものがある。

でもツォンの方は今日のCD取り上げ事件のことなど何とも思っていないように普通にしている。全く憎らしいったらない、人の娯楽を取り上げておいて!

「ルーファウス様、ほかに何か頼みますか?」

カウンター席に肩を並べて座っていた俺に、ツォンはそんなことを聞いてくる。

「いや、別にいらない」

「そうですか」

俺はそう答えながらも心の中ではしめしめと思っていた。

そう、このカウンター席というのは実に良い。何故って向かいに座らないから視線があまり合わない。話す時に意識的に相手の方を向かなければ顔を合わせなくて済むというわけで、これなら俺も今の気分を壊さずに済むというわけだ。

今は二人っきりの状態だから、大体ツォンがどんな視線を投げてくるかは分かってる。

怒ってるときとは180度違う、優しさ全開の視線だ。

でもそんなもの見てしまった日には、俺はきっとその視線につられてしまうに決まってる。情けない話だけど、元来好きなんだからそうされると今怒ってるこの気分も一気に吹き飛んでしまうんだ。でもそれはあまりにも悔しいし、それでは俺は俺を貫けないみたいで嫌だ。だから視線は合わせないに限る。

「何だか今日は冷たいんですね」

ツォンはふと俺に向かってそう言うと、苦笑なんかした。苦笑というのは、俺の推定だ。何しろ俺はツォンから目を反らしているから詳しいことは分からない。

それにしても、冷たい、とはまた何ていう言い方なんだろう。そんなの、原因くらい分かってるくせに。

「昼のCDの事をまだ怒っているんですか?」

それはそうに決まってるだろうが。

「仕方ないですね…」

何が“仕方ない”だよ。

「ではこれを、お返しします」

何が“お返しします”だよ……って、え?

お返しします??

すっと俺の視界に入ってきた例のCDを見て、俺は驚いてツォンを見た。

見た瞬間に、しまった、と思う。

俺としたことが、ついうっかりツォンなんかを見てしまった。あれほど視線は合わせないようにと思っていたのに。

その俺の焦りは相当顔に出ていたのか、ツォンは少し可笑しそうな表情をした。

「やっとこっちを見てくれましたね」

――――――――――戦略かよ!

何ていう奴だろう、本当に。俺は“ついうっかり”が離れない自分と、姑息なツォンの手段に更に機嫌が悪くなった。

でも、ツォンときたらそれどころじゃないくらいの視線を投げてくるわけで、これはかなり俺にとって強敵だった。

「折角二人でいるのに、貴方の顔が見れないのは悲しいじゃないですか」

「いや、だから。別に見なくても良いだろ。今日は食事って事で」

俺は適当なことを言いながらさっと視線を外した。そうだ、食事が目的なら食事さえ終われば後は帰宅で良い。それが良い、というかそれにしたい。

だがツォンは、更に姑息な手段を使ってきた。

もうこれは反則の域だと俺は思うけど、こんな公衆の場にも限らず髪なんか触ってきた。ボディタッチは反則だろうが!

「もう帰りたいんですか?」

カウンター席にも限らずすっかり俺の方に体を向けたツォンは、俺の髪を触るなんていう反則技を使いながらもそんな事を言う。

帰りたいかとズバリ聞かれると、それはそれでまた回答に困る。確かに腹立たしいし、食事さえ終われば即帰った方が良いと思っていたのに、ツォンが反則技なんか使うものだから俺の感情は何だか混乱してきていた。

帰りたい…けど、帰りたくないような…?

でもそれでは俺はツォンにまた敗戦という具合でそれも嫌だ。でもこのまま此処で「帰りたい」なんて言った日には、次はいつこんな機会がやってくるんだろうと思う。

触られた髪が何だか心地よくて、これは非常に葛藤を呼ぶ選択だった。

「今日はもう一緒にいたくない?」

またもやそう聞かれて、俺は相当焦ってきた。何て答えたら良いんだろう。帰りたいし、でも帰りたくないような気もしなくはないし、一緒にいたいようないたくないような…まるで意味不明だ。

しかし俺は何とかその葛藤を乗り切ると、ツォンに向かって宣言してやった。

「帰りたい、いたくない」

そう言い切ってから、そう言ってしまったことでもう一つの選択権を失ったのが何だか重いような気がしてきた。不思議なことに、そう宣言してしまうと返って一緒にいたかったかなあなんて事も心に浮かんでくる。

でもそんな俺の反省に似た気持ちも、ツォンには叶わなかったらしい。ツォンは俺に顔を近づけると、何ていう事か耳の当たりにキスなんかして、更にこんな事を言い始めた。

「信じられないので、私の顔を見て言って下さい。もう一度」

おいおい、信じられないってのは何だ!

そう思い腹立たしくなりながらも、その提案はあまりにも酷で俺にはできそうもないと思った。顔なんか見た日には、そんな言葉を口に出すなんてできない。大体キスなんて反則も反則だ、そんな甘ったるいことされて流されないわけないだろうが、このアホ!

でもそれこそツォンの罠だ。

そういうのが実に上手い。俺をその気にさせる術を、こうして視線以外にもツォンは知っているわけで、それは相当俺には分が悪い。

しかし此処で怯んだらまた俺の負けが増えるというわけで、俺は今日こそ戦勝の記録を作ろうと決死の覚悟でツォンの顔を見た。それから流されないうちに一気に言った。

「帰りたいっ!」

もう此処までくると意地だ。そう言ってしまえば、ツォンも諦めるだろう。

俺がそう言った後、ツォンは少し驚いたような顔をしていた。しめしめ、俺がそうくるとは思いもしなかったんだろう。でも今日は俺の勝ちだ。

少しした後ツォンは、そうですか、なんて言いながら俺から視線を外した。それから俺の髪からも手を離すと、飲みかけだったグラスに手を伸ばす。

それを見て俺は、今日こそ勝ったな、と思ったけど、それと同時に何だか少し寂しい気分になった。それはツォンが視線を外した時か、髪から手を離した時か分からないけど、何だか……変な感じがして。

ツォンはグラスの中身を飲み干すと、

「では、帰りましょうか」

そんなふうに言った。俺のグラスはもう既に空いていて、確かにもう帰っても良いという状態だった。

ツォンはもう帰る為に鞄に手をやりはじめている。

それを見ながら、俺は何となく不安になった。本当に帰って良いんだろうか。いや、帰りたいって言ったんだから帰って良いに決まってるけど、何ていうかツォンはどうだったんだろう。あんなふうに髪なんか触ってキスなんかした挙句に帰るとなったら、それは誰だって少しは寂しくなるよな。でもかといって俺が此処で折れるのも何だか悔しい。何しろやっと手にいれた戦勝なんだから。

俺はそんな事を考えていてなかなか鞄に手をやるなんてできなかった。

 

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