「おい。悪ぃけどよ、もうゆっくりやってらんねえぜ」
その言葉通り、その後のバレットの動きからは容赦の一切が消えていく。
上体を倒してクラウドを雁字搦めにすると、片足を高く持ち上げてとにかく奥深くまでに何度も突き刺した。クラウドの身体がヒクヒクとするのも構わず、その手がタオル様のものとの摩擦で赤くなるのも構わず、その身体を派手に揺り動かす。
尚一層激しくなる卑猥な音に何度目かの舌なめずりをしながら、バレットはクラウドの上半身も犯していった。
「あっ!あっ!はっ…ああぁっ!」
「ほら、もっと感じろよ。クラウドよ」
ピンと張る胸の突起を嘗め回すと、反らされ伸びた首筋に容赦なく舌を這わせる。唾液で埋めつくした後は所構わず強く吸引し、そこに支配の証を刻んでいった。
どんどんと赤く染まる体は悶え喘ぐ度にビクン、ビクンと痙攣のように反応を返し、それがバレットに溜まらない感覚を呼び起こす。
そうして、淫らなまでに感じているクラウドの身体に嬲りの限りを尽くしたバレットは、そろそろ自分の限界を感じて一気に腰に力を入れた。律動する度に体液にぬめりまみれて引き出されるバレットの性器には、今やそれを惜しむかのようにクラウドの内肉が張り付いてくる。
それを振り切ってはまたずっぽりと埋め込む。
埋め込んで中の方までを突き動かす。
「あ、あっ!も…っつ、も…う…あぁああ!」
変わり果てたクラウドの声を聞きながらとうとうクラウドも限界に来た事を知ったバレットは、クラウドが果てるその瞬間をじっくりと上から眺めると、飛び散った精液をそのままに己の果てるまでを驀進した。
果ててぐったりとした顔が歪むほどにガッチリと顎を掴むと、喘ぐ口をこじ開け、そこに自分のぬめった性器を押し込む。先程までの癖かつい奥底までグイと入れ込んでしまうと、生暖かい口内と舌の感覚に一気に絶頂までを上っていった。
「ぐうぅ…うっ!!!」
もう駄目だ、出る!―――――――――そう思った直後、クラウドの咽喉に勢い良く精液が吐き出される。
「はっ、がっ…っ」
突然のそれに咽喉が詰ったクラウドは息苦しそうに顔を歪めると、次には咳き込むように咽喉を鳴らし胸を上下させた。
あんまりの快感に陶酔していたバレットは暫しそれに浸っており直ぐにはクラウドの状態を飲み込みはしなかったが、やがてクラウドの身体が大きく揺れた時に慌ててその態勢を解いたりする。
直後、クラウドは不自由な身体のままバスタブの中に嘔吐した。
久々の快感を得た後、バレットは何故だかクラウドを介抱した。
本来こんなことになった理由といえば勿論バレットの方にある。何せバレットは、クラウドにガツンと言ってやりたかったし、ギャフンといわせてやりたかったのだから。
バレットのそうした不満や苛々は、バスルームでの強姦に違いないあの行為ですっきりと果たせたはずだったが、しかしどういうわけだかバレットはその後のクラウドを放っておくということができなかった。
どうせならそのまま放っておけば良いのに、それが出来ない。
だからバレットは、行為中には散々言っていたくせにクラウドの身を抱き起こすとそれを綺麗に洗ってやり、更には部屋のベットにまで寝かせてやった。
そうして何とかホッとした後ドスンと椅子に座ると、そこでやっと自分の矛盾に気付く。
――――――何だかおかしくないか?
そんな感情が沸きあがり、思わずクラウドを見遣ったが、どうにもこうにも今度は落ち着かない。
「おかしいぜ…何で俺ぁこんなことしてんだ?」
確か、目的はクラウドをギャフンと言わせること。
そのクールぶった生意気な男の弱点でも作って、肩身を狭くしてやること。
そう…最初はそうだった。
しかしクラウドの生意気な口がとんでもない事を言うものだからつい苛々してその身体を犯して――――…いや、それは分かっている。
分かっているが、じゃあ何故介抱などしたのか?
「…けっ。どうせ明日にゃ塩梅悪くて出てくだろ…」
考えても出ない答えに呆れたバレットは、そんなふうに呟いて安直な考えに全てを委ねた。
そうだ、こんなふうに強姦もどきのことをされたとあれば、きっとクラウドは顔も見たくないと思うはずだ。そうすれば当然アバランチにはいられない。要するにそれは、アバランチから出て行くことを意味する。
そうすれば、長らく抱えていたこの苛々も解決するというわけだ。
「へん、これでやっとスッキリしたぜ」
誰ともなしにそう言って、もう一度クラウドを見遣る。
クラウドは疲れたような表情をしていて、バレットのつけた後を痛々しく残しながらその身を横たえていた。
それを見て、ふっと先程までのことを思い出す。
「……」
あれだけ強気なことを言っていたくせに、最後にはその声音を変えて喘いでいたこと。
シャワーの音の中でピクリと跳ねていた体。
――――――…妙な感じだった。
何でこんな生意気な男に、妙な興奮など覚えてしまったのだろうか。
「……ふん」
バレットは、クラウドからさっと目を反らした。
翌日、バレットが目を覚ますとそこにクラウドの姿はなかった。
それに気付いて外に出たバレットは、部屋の外に集まっていた仲間達の姿を発見するや否や目を丸くさせる。
何故ならそこには、クラウドを囲む仲間たちの姿があったから。
「…おい」
驚いてそう声をかけたバレットに、気付いた仲間たちが振り返る。
ティファなどは明るい顔をして「バレット、寝坊ね」などと言って笑っており、バレットは一瞬その意味が分からなかったが、そういえば今日はあるミッションがあるはずだったのだ。それは早朝からのはずだったから、確かに今の時間からでは人目を忍ぶのは難しいといったところだから寝坊だろう。
「クラウドがね、バレットは疲れてるみたいだからもう少し寝かせようって。クラウドに感謝してよね」
だからミッションは明日に繰越ね、などというティファを見て、バレットは一気に苛々を募らせた。
なんてことは無い、これはつまり昨日の仕打ちが何一つ効いていないということだ。
そういう気持ちを込めて睨んだ先のクラウドは、笑いも怒りもしない無表情でバレットを見ている。
「てめえ…クラウド!!」
突如そう叫んでクラウドに近付いたバレットは、その胸倉を掴むとグイ、と引き上げた。
それを見ていた仲間たちは当然声を上げてバレットを宥めたが、バレットはそんな声になど耳を貸さずにクラウドを睨み遣る。
「おい。お前一体何様のつもりなんだよ、あぁ!?てめえはそうやって…!」
「…落ち着け、バレット」
「そういう態度がイラつくんだよ!!」
至近距離で視線を飛ばす二人。
バレットは唇を噛み、恐ろしい形相でクラウドを睨んでいる。
クラウドはそれを何とも無さそうにただ見ているだけ。
そんな緊迫した雰囲気の中、少し経った後にクラウドはそっとこう言った。
「…今日の予定を決めるのが先だ。話は後で」
そう言ったクラウドの感情は、バレットには読めなかった。
ミッションが先送りになったことで丸一日開いてしまったその日、資金稼ぎと次なる行動の下調べを指示したクラウドは、そう言っておきながらもバレットと道具屋などへ出向いていた。
ティファを残して二人でやってきた道具屋、そこでそこそこの道具を揃えると、その帰り際にバレットを木陰に引き込む。先ほど言った「話は後で」というアレの事だろうと踏んだバレットは、一体クラウドは何を言ってくるんだろうかと思いながらもそれに付いて行く。
引き込まれた木陰でクラウドが言ったのは、
「俺は気にしてない」
その一言だった。
「昨日のことは別に、気にしてない。それより明日のミッションの方が…」
「おい、待てよ」
淡々と話を続けるクラウドにストップをかけたバレットは、それはどういう事かと問い詰める。確かに昨日の出来事に色々悩まれるのも困るが、反対に此処まですっきりされていては更に困る。というよりも、これでは全く意味が無いではないか。
そう思って怒りのままにクラウドの胸倉を掴んだバレットだったが、その腕にすっとクラウドの手が乗せられた時、思わずそれ以上の行動が出来なくなった。
クラウドの手、腕…そこには、昨日の跡がついている。
タオル様のものではそこまで厳しい跡など付きようもないだろうと思ったが、激しく動いたせいで擦れたらしいそこは赤くなっていた。それを見て、ふっと昨日の生々しいセックスを思い出したバレットは、目前のクラウドの顔に昨日のクラウドの顔を重ねる。
クールぶった生意気でいけ好かない男。
昨日は自分の下で艶っぽい声を上げていた男。
「…俺を気に食わない事は分かった。でも俺はどこかに行くつもりもない」
「―――――てめえ…」
「俺は、気にして無い」
クラウドはまたその言葉を口にすると、その後に不思議な言葉を放った。
バレットの手を振り払いながら。
「この先、例え何をされようが…気になんてしない」
「……」
いけ好かない、そう思った。
この期に及んでそんな事を言うクラウドはいかにもいけ好かなくて腹立たしいと思ったが、しかしその言葉は妙にバレットの心に入り込んだ。
“何をされようが”―――――?
ふっと、また昨日の生々しい肌の感触が思い出される。それを払拭できないままにクラウドの首筋あたりを見詰めたバレットは、少しした後その視線を上げて相手の顔を見遣った。
そうして、苦々しい顔をしながら言う。
「あぁ、そうかよ。だったら勝手にしろ」
その言葉に、クラウドは何も返さなかった。ただバレットを見ているだけで、何も。
そういうクラウドの顔から眼を離し、バレットは背を向ける。
ティファの元にまで帰ろうと歩を進めると、後ろからは小さな足音が続いてきていた。どうやらクラウドも歩を進めたらしい。振り返ることはせず、話すこともせず、前後に歩いていくその道のりの中で、バレットはただ一つの事だけを思っていた。
思うのは―――――――――昨日のあのクラウドのことだけ。
今だって苛立って仕方無いはずなのに、それでももうクラウドを貶めようという気持ちは起こらず、ただ昨日のあの姿だけが思い起こされる。
その中で、ふと、最初に閃きが起こった時の事を思い出した。
もしかしてあれは―――――偶然なんかではなかったのかもしれない。
そうでなければ、こんな気持ちは起こるはずが無い。
「…ちィ」
バレットはガッ、と振り返ると、クラウドの手から先ほど購入した荷物を奪い取った。そして、無言でまたクラウドの前に進み出る。やはり会話をしようとは思わない。
そんなバレットの行動に無表情だったクラウドは、やがて、その背中を眼にしながら小さくフッと笑った。
END