■ルドレノ:SERIOUS■
何故かルドレノだと挑戦的な物語になってしまいますっ。
とりあえずそんな感じです!(おい!)
トレンディドラマの中だったら、この世界の行く末を憂える。
だけどひとたびテレビを消したら、脳裏を巡るのは、大嫌いなアノヤロウのことや明日の遊びの計画のこと。
関係ないよ、世界のことなんて。
だってほら。
自分一人がどうこうしたって、どうにかなるわけでもないし?
正義感ふりかざしてどうこうするのって、なんていうか偽善者?
そーゆーのになりたくないし。
ソレただのウザいヤツだし。
とか。
ね?
「星がどうのとかって良く分かんないし。いーんじゃね?会社が儲かれば俺らの給料も安泰なんだしさ」
「お前ってやつは…少しは考えろ」
「はあ?同期のクセに上から目線とか止めてくれる?」
「また…」
俺の隣で相棒は溜息をついた。
これはもう本日10度目の溜息。まあ、そんくらい俺が許せないんだろ。
分かってる。
分かってんだよ。
ルードは意外と真面目なやつ。
俺は真面目気取りの適当人間。
同じように酒をタシナムのが趣味でも、その他は大分違ってる。
「ウチの会社がやっていることは実際グレーすぎる。いずれ多くの人間がこの事実を知るだろう。その時にはきっと…手遅れになる」
「ナニソレ。お前、反神羅組織か何かに感化されたワケ?ウチの会社はさあ、もう何も考えず愛社精神に充ち溢れたサイボーグが欲しいわけじゃん。むしろロボットか。どーでも良いだろ、そういう考え」
このエリート会社で生きていくには、とにかく利益が必要ナンデス。
利益を得るためなら、市民なんて騙して騙して騙しまくればいーわけ。
もしかしたら、何か間違ってんじゃないか?
なんてさ、考えるだけ無駄だから。
だって、間違ってたってそれでいーんだから。
お金大好きなこの会社で生きてくには、間違いに気づいても指摘しちゃダメなんだって。そんなの考えなくていいんだって。
ただ単に、上から与えられた数字を守ってロボットみたいに決められたように動けばいいわけ。だってそうだろ?言うこときいてくれるイエスマンが欲しいだけなんだからさ、カイシャってヤツは。
自主性?
そんなの要るわけないじゃん。
そんな危険分子は難癖つけてクビにするのが常套手段。仮にそいつが頭の良いキレ者だったとしても、上に忠実なサイボーグロボット共がクソ汚い手を使って破滅に追い込むからさ。アハハハハ。
そ、俺はさ。
サイボーグロボットになるって決めたんだ。
それはさ、このカイシャに入るずっとずっと前から決めたんだ。
俺はそうやって生きてきたんだ。
今更、くそまじめに愛を語るようなオキレイな人間様にはなれないんだよ。
神羅が、貴重な有限資源を使って金儲けしてることは分かってる。
それは本来、星を破滅に追い込むことだって、それも知ってる。
だけどそれのおかげで人間の皆様が快適な暮らしを満喫してるって事実も承知。今更それがなくなったら、あいつら確実に文句言うだろ。そういう汚い感じも、結構意外と理解してるんだ俺は。
だけど俺は、見て見ぬふりするって決めた。
サイボーグロボットになるって決めた。
あれがかわいそうとか、こういうのは許されないとか、もうそういうのはどうでも良くなったんだ。目の前にある、俺の為の利益のためだけに生きるって決めたんだ。
「お前は、いつかこの星が滅びても良いのか?」
「さあね。どうせこの星が滅びる頃には俺なんか死んでるだろ」
その前に、ミッションで命落とすかも。
だったらどっちだって一緒じゃね?
ルードは俺の顔を見ようともせずに小さなグラスを口に運んだ。
からん、って揺れた氷の音。それがやけに寂しい。
「…お前は、本当はそんな奴じゃないんだろ?」
「は?」
「俺には、お前が、そういうやつには見えない」
「…は。ナニソレ。そういうやつってどういうやつのこと?」
ルードは俺の言葉に答えなかった。
ただからん、って音を鳴らしてひたすら酒を飲むだけで。
―――おいおい、やめてくれよ。
仕方ないから俺もだんまり決め込んでからん、ってグラス揺らして酒をかっこんだ。ホントやめてほしい。
何を根拠にそういうこと言うんだろ。
俺はサイボーグになったのに。
他人の利益なんてどーでもいいし、他人が不利になろうと俺は俺の利益が保証されてればそれでいい。そういうふうに決めたんだよ俺は。
なのに。
こういう沈黙がやってくると、俺はちょっと考えるんだ。
いや、思いだす、の間違いかな?
俺はいつからサイボーグになるって決めたんだっけ?
あれは、神羅に入るずっとずっと前のことだったから。
人間の前にあっては完全なる弱者となってしまう小動物が、残酷な好奇心と下らない高等動物という幻想のプライドの為に引きちぎられて殺された時。
どうしてそういうことをするんだ、と怒鳴った。
それが例え昆虫でも爬虫類でも、それでも彼らは生きていた。
自然界の食物連鎖の法則外である死に方は、想定されるはずもなかった。
それでも彼らは、退屈凌ぎの人間のオモチャとしてその尊い命を落とした。
小さな身体は引きちぎられて、踏みつぶされていた。
体液がぶしゅ、っと地面に散らばっていた。
それを明らかに映し出す太陽は、雲ひとつない空の中に沈静と浮かんでいた。
なんでだよ。ひどいよ。
かわいそうだろ。どうしてこんなことすんだ。
そう叫んだら、人間は言った。笑って言った。
”ナニ、お前、虫の肩持つわけ?オマエ、虫けら並ジャン”
誰かが誰かを苛めたり、誰かが不正に何かをしたり、そういうのを発見するたびに憤って「やめろよ!」と叫んだ。それが正しいことだと思ってた。だからそう叫んだのに、返ってきた言葉は随分と胸に突き刺さった。
人間は言った。笑って言った。
”ナニ、お前、すげえ真面目ぇ~”
嘲りの表情と真面目と言う言葉は随分とミスマッチだったはずだけど、しかし世間的にはそれが正しい使い方だったらしい。
真面目って言葉は、人間の世界では見下しの言葉でしかなかった。
「真面目だね」ってのは、ただの見下し。
俺はショックだった。
だって、部屋の隅で埃被ってる辞書をめくってみろよ。真面目って欄を見てみろ。そりゃお前らの使ってる真面目と同等か?言葉はいつのまにかその意味を変えてしまう。誰が勝手にねつ造しちまうんだ。
ちょっとマトモなこと言や、真面目だと罵られる。
だから俺は考えた。
そっか、真面目だとダメなんだ。
この世界でかしこく生きてくためには、不真面目にならなきゃ。辞書が、法律が、世界が、星が、それを「不正」だとカテゴライズしても、世間っていう人間の塊がそれを「正しい」って判断したら、それは正しいことになるんだ。
だから俺は、周りの人間達の「正しい」に従った。
例えそれが間違ってるっていう内容でも、それでも俺は何も言わなくなった。
昆虫を殺しても、小動物を殺しても、そんなの関係ない。
誰かを騙したり、何かを盗んだり、他人が困ってても自分さえ安全だったら、それでよくなった。だってそれが世間の人間が「正しい」とする「不真面目」だったから。
真面目に行動すると俺が攻撃されるから。
な、間違ってないだろ?
「……俺は。耐えきれなくなったら、神羅を辞めようと思ってる」
「は…?」
「…俺は。お前みたいに器用には生きていけない。許せないものは許せない。偽善者と…言われるならそれでも良い。それでも許せないものは許せないんだ」
「……そ。」
おい、お前知ってる?
今や神羅っつったら、普通に入れるような会社じゃないんだぜ?特に俺らみたいなポジションは絶対に無理。
だけどお前は、それ振ってでも、自分貫くってわけ?
「…レノ。お前、素になったらどうだ?」
「は???」
「どうせ、本心は隠したままなんだろ?…何となくそう思ってた。ずっと。お前はいつも、お前を演じてる。そんな気がする」
いつか本当のお前と語り合いたい。
ルードはそんなことを言ってまたからん、とグラスを揺らした。
俺は何をどう言っていいか分からないままに、ただだんまりを決め込んでた。
――――馬鹿みたいな話だ。
俺はもう、サイボーグになるって決めたんだ。それは変わらない。
でも、こう言う時、ふっと、何だか考えたりするんだよ。
もしも過去のあの日、あの時点でお前に出会ってたら、俺はもしかしたら辞書に載ってる通りの真面目さと正義感で生きていたのかもしれない。
それを恥ずかしいなんて思う事もなく、馬鹿らしく自分の保身なんか考えず、本当に純粋に、自分の信じることを貫けたのかもしれない。
俺の目の前には今、それを許してくれる存在がいる。
それは、俺にとって有難いことだった。
「…ま。いつか本当のコト話すわ。本当の俺のコト」
「そうか。じゃあ、楽しみにしてる」
なあ、ルード。
俺はいつか、俺っていう人間に、戻れる日が来るのかな?
心から、この星の未来を憂える日が来るのかな?
今の俺には分からないけど。
でも、一つだけ分かったことがある。
「アリガト」
それはきっと、俺の解放の言葉。
END