外に出ると、空気がひんやりとしてて何だか気持ち良かった。飲んでるせいもあるかな。きっと体がカッカしちゃってるんだな、コレは。
「ん~気持ちい!腐ったピザの下もやっぱ快適だな」
俺がでっかくノビをすると、ルードは俺の隣で重い溜息をついた。
おいおい、大丈夫かー?
ナニナニ、そんなに重い溜息つくほど嫌なコトでもあった?
俺はそう聞きたくなる。
でもま、分かってる。俺が聞くまでも無くハゲの方から言ってくるだろうなってことくらいはさ。
「…レノ。昼間のあれは一体何だ。酷すぎる」
「は?」
「は、じゃない。いくらお前が悪かったからといっても、あれはさすがにやりすぎだ。犯罪だぞ」
「犯罪?ナニソレ?」
俺はケラケラ笑った。
ケラケラのケラは虫ケラのケラだって知ってる?
ルードは俺の前で怒ったみたいな顔してるけど、俺は一向に構わなかった。
だって、今更言い訳する気なんてまるで無い。
元々悪さしてたってことくらい承知だったはずだし、ソレ知ってんのにわざわざ「酷い」なんてそれこそ酷いだろ。
「説教するつもりか?」
俺はポケットに手を捻じ込みながら笑った。夜風が心地良い。
「そりゃさ、俺だって知ってるよ。空き巣とか放火が犯罪だってことはさ。でも昼間は、これでも良心残したつもり。家燃やさなかっただけマシだろ?」
「…車と倉庫は炎上してた。あの家は自営だろう?車も倉庫の中身も、大切な商売道具じゃないか」
「だから?」
「お前…!」
ルードは急に俺の胸倉を掴むと、そいつをぐいっを持ち上げた。
すげー力。恐れ入るわ。それだけ怒ってるってのがガンガン伝わってくる。
まあそりゃそうだろうな、だってそれは普通なら許されないコトだから。
「お前はタークスだろう!?これは仕事だ!潜入でも囮でも構わないが、やって良いことと悪いことがある。俺達は治安を守るために来たんだぞ。それを助長するどころかお前が手を染めてどうする!」
少し押さえ気味の声の中に怒りが浮かんでる。それが分かる。
そうだよな、俺達はあくまで仕事で此処に来たんだ。あいつらを消すために来た。そんな俺らが一般市民を巻き添えに悪いコトなんかしちゃそりゃマズいよな。
知ってるよ、そんなこと。
だけどさ、ルード。お前はどう思う?
「お前の言うとーりだよ。でもさ、じゃあいつもの俺らは正義か?俺らは仕事って言いながら立派な人殺しじゃん。人殺しは許されるのかよ?」
「あれは相手に非がある。だから仕方が無い」
「へえ?相手に非?そうかな、俺にはそう思えない。ただ相手に非があるんじゃなくて、神羅にとっては相手に非があるってことだろ?それだけの理由じゃん。神羅に目付けられて死んだ奴らにだって家族がいたんだろ。残された人間は泣いただろ。それは良いのかよ、それは正当かよ?」
「それは…仕方がないことだ」
ルードは手荒に俺を突き放した。おかげで俺はひっくり返りそうになったけど、ギリギリセーフで何とか持ち直す。
こんな月夜にこんな話題なんて最低最悪だ。
「…とにかく。これ以上見過ごすわけにはいかない。いくら潜入だとしてもだ。もっと上手いやり方があるだろう。それを考える」
「そ、ですか」
上手いやり方って、上手い殺し方ってことだろ?
あのゴロツキ集団をいかに上手い具合に始末するかって、そういうことだろ?
俺は何だか悲しくなってくるよ、ルード。
アイツラ、あーいうやり方しか知らないんだ。
上手い具合に良い仕事見つけることもできなくて、それ以前に一人じゃ自信がなくて、どーにしかしたいって思ってるけどどーしたら良いか分からないんだ。
ココは絵本の世界じゃない。上手い具合に神の手なんか伸びちゃこないんだよ。
伸びてくんのは周りの軽蔑と侮蔑だけなんだよ。
それを跳ね返すには攻撃するしかないんだ、それが自分を守るための手段なんだ。
そんなの言い訳でしかないって、どうにか出来るのにやりもしないって、誰もがそう言うけど、そう言いながらも軽蔑するだけなんだ。
耳をすませよ、聞こえてくるだろ?
…あいつらは納税もしてない。
…自分勝手でやり放題。
…人様に迷惑ばかりかけて社会のゴミ。
消えろ、どっか行って欲しい、目障り、怖い、近づきたくない、クズ…ちゃんと生きてる人間がバカみたいだ、能天気で羨ましいよ…etc。
ルード、お前だって知ってるだろう?
知ってたけど、忘れちゃったんだろう?
なあ。
「レノ」
「ん…」
「…おかしな事を考えるなよ」
ルードの目は、真面目に俺を見てた。
これは仕事だから、ちゃんとやらなきゃ。
期日は一週間。刻一刻と過ぎていく。
泣いても喚いても最後の日にはアイツラは終わる。アイツラはそれを知らずに毎日を笑って過ごしてる。俺とルードだけが、それを知ってる。
俺は、ルードとはなるべく一緒に行動しないようにした。“新入り”のルードと俺が一緒にいすぎれば、必ず怪しまれるから。
だから、俺はどっちかというとゴツイのとかノッポとかと一緒にいた。
相変わらずやりたい放題のアイツラに合わせて、俺もやりたい放題をこなす。ルードは相変わらず嫌な顔をしてて、俺はそれを知ってたけど無視してた。
“もっと上手いやり方があるだろう。それを考える”
そう言ったわりにルードは何も言ってこなくて、ただ俺を見てて、それが何だか俺を軽蔑してるみたいだった。
こういうのって何ていうの?逆行?スリップ?何ていうか、昔に戻ったみたいだ。
慣れてるよ、そーいう視線。
神羅に入ってからはすっかり見かけなくなってたけど、思えばそーだった。俺ってそういう奴だった。それを思い出した。
ルードが何も言ってこないのには、多分もう一つ、俺がルードと一緒にいないように心がけてたってのもあるんだろうな。
いつも回りにゴツイのとかノッポがいるから、ヘタには近づけない。そういうこった。
「レノ、昔みたいに派手にやろうぜ」
そう言われれば、うん、と頷いた。
「レノ、デカイ金が手に入りそうなんだ。手伝ってくれよ」
そう言われれば、うん、と頷いた。
「レノ、お前もコレ一緒にやるだろ?」
そう言われれば、うん、と頷いた。
何でもかんでも昔の通り、俺はアイツラと一緒んなって行動した。何でもOK、何でもござれ。来るもの拒まず、去るもの追わず。
何でも良いんだ。何でも良いから感じてたい気がしたんだ。自由だなってことを。
そんなふうに悪いコトしてバカ笑いして酒飲んで、毎日が過ぎていく。
相変わらず月はキレイ。俺達の悪行を監視するみたいにそこにある。でもいーんだ。それでも。
俺はその空間にハマってた。
ただひたすら、ハマってた。
たまに、ふいにタークスのことを思い出すときがあったけど、面倒だし嘘臭いし、考えないようにしようって思った。
だけど変なんだ。タークスのこと思い出すだけならまだイイけど、おかしなコトにあの映画のコトなんか思い出したりするんだ。
ルードと見た、あのB級映画。
あんなの、何でもない映画だったのに。