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■SWEET●SHORT
セフィと酒を飲みかわすザク。やっぱりほわっと♪ ザク視点です!
真冬の春:セフィロス×ザックス
真冬だってのにでかい氷が高濃度アルコールの中でカランってゆれてた。
ああいうの、なんて言うんだっけ?クラッシュドアイス、だっけ?なんかそういう洒落た奴。
コルクのコースターは真冬のグラスの汗さえ吸い込んで、うまい具合に役割を全うしてる。
ま、あいつもなかなかの洒落者だ。
「どうした?落ち着きがないな」
目の前にいるオッサ…おっと!間違い間違い。兄さんは、洒落たグラスを持って話し掛けてくる。
そりゃな。
落ち着きなんてないっての。
「こういう雰囲気ってなーんか堅苦しくてさ。ぶっちゃけ苦手」
「成程。予想どおりの回答だ」
「おーい。予想できてんなら連れてくんなっての!もっとラフなところなら俺もいつも通りやれるのに」
「そんなことをしたらおまえの独壇場じゃないか」
兄さん――基、セフィロスは、そんなことを言ってちょっと笑った。
この兄さんは、俺みたいのが得意なビアガーデンとかでも、こういう洒落た店でも、どっちでもよく似合うっていう羨ましいタイプの人間だ。
なんでかっていうと、この人は場の空気に流されない。
どっかにいくと、そのどっかがセフィロスの空気になっちまうんだ。
だからどんなとこにいても、この人はこの人の雰囲気。
そういうとこがスゴい。
「そんで?なんか話でもあんだろ?まさかセフィロスが無条件でおごってくれるとは思えないし」
「言ってくれるな」
「ひひ、だって図星だろ?」
「まったく。失礼な奴だな。俺だって普通におごることくらいあるんだぞ」
ってことは、俺は今無条件におごってもらってるってことになるんだろうか?
もしや……
これってば超ラッキー??
「まあ、おごるのはともかくとして、話があるのは本当だ」
「ん。で?」
「まあ大した話じゃないんだが…」
セフィロスはそこまで言って、あの洒落た氷を揺らした。
冬だってのに、あのでかい氷。寒々しいよなって思う。
だけどその氷は、ちょっとすると小さくなって、そんで最後には溶けてなくなった。
いち早く春が来たのかな。
俺はそんなことを思った。
だって、春が来たら氷は溶けるだろ?
セフィロスは新しい氷を継ぎ足し継ぎ足し、春から冬に逆回転を推奨しまくる。
でもって、話もなかなかし始めない。
「なに。どうしたんだよ?」
俺がそう催促すると、セフィロスはちょっとした後に小さく息をついた。そして一言。
「やはりダメだな。どんなところにいてもお前はお前のテリトリーを作る。かなわない」
「へ?」
「お前が苦手そうな店に来れば、少しは優位に話せると思っていたんだがな」
「なにそれ。そりゃセフィロスの方だろ?」
俺は驚いてそう返す。
だって、俺はセフィロスにはかなわない。
だけどセフィロスは、でかい氷を揺らしながらゆっくり首を横にふった。
「俺にとっては、お前ほどすごい奴はいない」
俺の目はセフィロスに釘づけだった。俺はずっとセフィロスにはかなわないって思ってたのに、どうやらセフィロスはそうじゃないらしい。
しかもそれってさ…。
俺にとっちゃちょっと嬉しい事実なんじゃない??
「じゃ、お互い様だ!」
チャリン、と音をならして乾杯する。それと同時に洒落たでかい氷がちらっと揺れた。
こんな洒落た場所、俺にはやっぱ似合わないんだって、そう思う。洒落たグラスに洒落た氷だって、やっぱり俺には不似合いだ。
けど俺、気付いたことがあんだ。
それはさ、一瞬にしてセフィロスの空気になるような場所だって、一瞬にして俺の空気になるような場所だって、最後には同じになるんだってこと。
でかい氷が溶けて春が来るみたいに、俺たちの空気は溶けてく。それでそこは、セフィロスのでもない、俺のでもない、俺たちの空気になるんだ。
真冬だってのに、二人でいるとあったかい気がした。
もしかしたらここには…
いち早く、春が来たのかもな?
END