最後に残るもの(1)【セフィザ】

セフィザ

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■SERIOUS●SHORT

自分を特別扱いするセフィに、ザクは嫌気がさしていた…。

最後に残るもの:セフィロス×ザックス

 

ビールを流し込む。

ざわめく部屋の中、自分の周囲だけ音が消えたみたいに静かで、その空白の空間の中でただ一点を見つめていた。

―――――ああ、あんたは。

こんなに大勢の人に囲まれて、持ち上げられて微笑まれて、それでも冷静な顔を崩さず誰にも微笑みかけたりしない。

そういうのは強さというのか。

それとも単なる意固地なのか。

この場の雰囲気としてはまず、マズい。だがそれがとても良く似合う。似合うからこうして見てしまうんだろう。

周囲の音さえ、消えた中で。

テーブル3つほど離れた距離でふっと目が合い、彼はそっと口を開いた。

“ザックス”

「……」

周囲に人がいるにも関わらず、その取り巻きには何も口を開いたりしない。その上、テーブル3つほども離れた自分に、届かぬ声を送る。

やめて欲しい。

そんなことをしたら、多分取り巻き連中は訳の分からぬ嫉妬をするのだから。

“退屈だ”

「…分かってるよ」

―――――あんたの思ってることくらい、お見通しさ。

早くこの場所から帰りたい、くだらない、意味がない。いつだってそう思ってる。それを口にしなくてももう分かる。

それくらい、近くにいた。それが分かるくらい、自分は側にいて見てた。

自分を何度も恨みながら。

“お前も退屈そうだ”

「…そうかもな」

そうかもしれない。本当は、退屈なのかもしれない。

自分にとっては得意中の得意であるはずの、こういった喧騒の空間も…本当は。

それを見抜いてる相手が恨めしい。

分かるはずない。

―――――分かるはずない、あんたには。

ガタン、と席を立ったのが合図だった。

席を立てば、相手も席を立つ。帰ろうとして歩を進めれば、相手も歩を進める。

生憎相手のほうには取り巻き連中がいたが、その連中にはやはり言葉一つかけないまま、その場を後にする。

結局、言葉を交わしたのは音の届かぬ相手である自分にだけだった。

 

 

 

「ああいうのは、もうやめて貰いたいものだな」

場を切り抜けてから、疲れたふうにセフィロスはそう零した。ああいうの、というのは勿論、先ほどのような空間のことである。

元はといえば、ソルジャーの為の息抜きといって誰かが企画したものだったが、セフィロスは当初参加組ではなかった。

しかしソルジャーの一人として最終的に声がかかり、生憎その日の予定が無かった ことで渋々参加した次第だった。

セフィロスが来たら来たで、場は全く違う雰囲気になった。

ソルジャー試験まで合格したはずのプライドある連中が、その人を前にすると途端に一般兵だった昔に返ったように子供になってしまう。

あれやこれやと質問や興味の嵐で、そう口にしている彼らには至福の一時でも、セフィロスにとっては単なる疲労が増す空間と成り果てる。

だから結局、口など開きたくなくなるのだ。

そういう意味では、ザックスはセフィロスにそういう態度を取ったことがなかったので、とても“やりやすい相手”だった。

興味がないわけではないが聞かずとも推測できてしまうし、聞いたところで何がどうというわけでもない。

まさか真似ようなどという馬鹿なこともない。

だから、聞かない。

聞かずに単に行動を共にする。

これは別にそうして欲しいと言われたからではないし、自分がそれを望んだわけでもなかったが、いつのまにかそうなっていたのだ。

「珍しくお前は退屈そうだったが。どうした」

ふとそんなことを聞かれて、ザックスは「別に」と答える。

話しかけられたら笑顔で返していたものの、確かにその場は退屈だった。

取り巻きのできるセフィロスを見ながら、憂鬱だった。

何もこんな場に来てまでもそんなふうに見せ付けられなくても良いだろうと、そう思う部分もあって。

「俺はアレだ。来るもの拒まず去るもの追わずだから」

「ということは、興味の範疇ではなかったということか」

それとは違うけどな、そう思いながらもザックスは、まあそういう事だ、などと返す。

先ほどまで何一つ口を開こうとしなかったセフィロスが、帰り道の此処にきて何の問題もなく話しかけてくることが、何だかむず痒い。

それは裏を返せば、自分相手であれば話すことも問題ないということであり、それは大方喜ぶべきところである。

しかし、そう思えない。

嬉しいのかもしれないが、そういうセフィロスを見ていると辛くなる。

勿論、哀れみなどではなく…そう、自分が辛い。

「ザックス、飲みなおさないか?」

「…冗談!俺はパス」

こんなことは滅多にないと知っていたが、ザックスは敢えてその誘いを断った。

セフィロスはそのつれない態度に首を傾げながら、

「やけに早い回答だな。そんなに俺と飲むのは嫌か」

そんなふうに聞いてくる。

別に嫌という訳ではない。そういう訳ではないけれど、今日の気分ではそう思えないのだ。

セフィロスと飲みなおすなんて、あの取り巻き連中にとっては許せないほど羨ましいことだろうが、ザックスにとってはそうではない。

此処で飲み直すということは、先ほどあれほど退屈していたセフィロスにとって、それよりかは“楽しいこと”であるはずだ。

けれどそういうことこそザックスにとっては負担だったのだ。

自分といるほうが楽だと、楽しいと、そう公言していると同じ言動をとるセフィロスが、ザックスは何だか嫌だった。

嬉しくないわけではないのに、何だか辛い。嫌だ。

だからザックスは、そのセフィロスの言葉にもつれない態度を返す。

「ま、そう思ってくれても良いぜ」

「……来るもの拒まずと言っていなかったか?」

「ごめんな、俺って実は我が侭なんだ。って訳で。じゃ!」

そうして強制的に話を終わらせると、ザックスはカラッとした笑顔を見せつけてセフィロスの側から離れていった。セフィロスがそれを引き止めることは特にない。

それすらお見通し。

セフィロスに背を向けて去っていく中、ザックスは真面目な表情で前を見据えていた。

―――――ああ、そうだ。俺はアンタと飲みなおすのなんて嫌だ。

 

 

 

翌日、新しい任務について説明があるからといってセフィロスに呼び出されたザックスは、指定された場所まで赴いた。

指定の場所は何故かセフィロスの仕事部屋で、これは自宅とは別に神羅内に位置している。

その場所にはザックスも仕事の関係上よく行くが、やはりあまり好きではなかった。

なぜかといえば、そこに行くと必ずといって良いほど二人きりになる。二人きりで任務の説明などを受けるハメになる。それは、セフィロスとザックスが任務で組むことが多くなっているからだった。

かつてのセフィロスは単独で任務につくことが多く、そういう場合はソルジャーではなく一般兵を数人引き連れていくだけだった。

そういう場合はほぼセフィロスが作業を行ってしまうので、一般兵はただの同行人と一緒だった。

しかし、ザックスが現れてからのセフィロスは、何故かザックスと共に任務に行くようになったのである。

そういうのも、今のザックスにとっては負担だった。

任務が嫌な訳ではない。

そうではなくて―――――自分が抜擢されることが、嫌なのだ。

「うす。で、内容は?」

簡潔な言葉だけで内容を促したザックスは、大儀そうにデスクに落ち着いているセフィロスを見遣った。

セフィロスは手にした書類に目を落としていて、ザックスの視線には気づいていないらしい。そのままの状態で任務の説明を始める。

「要は簡単な作業だ。スラムの調査と、その報告。まあ一日あれば終了だろう」

最後にそう言って説明を終えたセフィロスは、質問はあるか、などと言ってやっとザックスの方を見遣った。

だからザックスは、ここぞとばかりに“質問”をする。

それは。

「じゃあ質問。“要は簡単な作業”なのに、何で俺が必要なんだよ」

「何?」

不可解そうに顔をしかめたセフィロスに、ザックスは怯むことなくもう一度繰り返す。

「だからさ、そんな簡単な任務だったら、アンタ一人でOKでしょ。俺って必要なくない?」

そう言って笑ってみたものの、ザックスにはわかっていた。

セフィロスは絶対、自分を同行させるということ―――――それを。

「それはつまり、任務拒否と受け取って良いんだな」

少し厳しい表情をしながらそう言ったセフィロスに、それは違うけど、などと返す。

そもそも任務は必ず二人という決まりがあるわけではないし、セフィロスはかつて一般兵だけを引き連れて任務を行っていたのだ。

それがどうして今は、当然のように自分が誘われなければならないのか。

勿論、任務が嫌という訳ではない。

それは仕事だからこなさなければならない事柄だし、やれと言われれば嫌などとは絶対言わない。

けれど、そのセフィロスの意図が嫌なのだ。そういうふうに、必ず自分を絡ませることが。

「あのさ。前から思ってたんだけど…俺、嫌なんだよな。セフィロスは何かって言うと俺を出すだろ。そういうの…止めてくれないかな」

「―――――どういう意味だ」

「そのまんまだよ。俺はさ、別にアンタの親友でも何でもないからさ」

「………」

このくらい言っておかなければ、そうザックスは思う。キッパリ言ってしまわなければ、どうせいつまででも自分は側にいることになるのだ。

セフィロスが嫌いなわけではないけれど…そう、嫌いではないのだけれど。

でも。

辛いのは、もうごめんだ。

「じゃ。それでも俺が行かなきゃならないってんなら、また呼んでくれよ」

そうスッパリと言うと、ザックスはくるりと方向転換をしてその部屋を去ろうとした。

―――――が。

「待て」

今回は、引き止める声があった。

それはザックスの中では在り得ないことだった。だって今迄セフィロスは呼び止めるなんて事をしたことは無かったのだから。

だから一瞬、驚いた。

驚いて振り返ったりしてしまったのがきっと、運のツキだったのだろう。

「聞き捨てならないな。話をつけようじゃないか」

「―――――」

真剣な眼差しでそう言ってくるセフィロスを、ザックスは直視した。恐いことなんて無い。もう慣れきっている。怒る顔も、詰まらなそうな顔も。

だがその時のセフィロスの表情には、見た事が無い要素が含まれているような気がした。

ザックスが立ち止まったことにより、セフィロスは話をし始める。

「お前が俺の親友でも何でもないというのは…認めよう。確かに俺はそういうものに慣れていないし、そういったものの意味も分からない。だが、最近のお前の態度には疑問ばかりが付きまとう。―――――お前は一体、どうしたいというんだ」

純粋な疑問系でそういわれると、何だかおかしくなる。けれどザックスはあくまで真面目にこう答えた。

「どうしたいかって?だから俺は言っただろ。必要性の無いところにまで俺を出すなって」

「それが分からない。必要性がない時とはどういう時だ」

「だからさ、今回の任務だってあんた一人で十分でしょ。それをわざわざ俺が同行する意味ってのが分からないわけ。それだったらさ、俺のこと放っておいて欲しいんだよ」

「……」

セフィロスは思案顔だった。ザックスから視線を外すと、難しい表情をしてデスクの上を見つめている。

そんな調子だったので、もうこれ以上は何も出てこないと踏んで、ザックスは再度その部屋から出て行こうとセフィロスに背を向けた。

しかし、またもや呼び止められる。

「待て、まだ話の途中だ」

「何だよ。まだ何かあんのか?」

少々イラだってきたザックスはぶっきらぼうにそう返した。

きっとこんな態度を取り続ければ、セフィロスだって呆れるだろう。

早く呆れて話を放棄してくれればいいのに、そうザックスは願っていたが、どうらやその日のセフィロスはザックスの想像とは全く違う行動を起こした。

「この前は、何故あんな事を言ったんだ」

「この前?」

「飲みなおそうと言ったら、お前は拒否しただろう。何故だ。そんなに俺と共にいるのは嫌か。何故なんだ。率直に言って俺とは関わりたくないということか?」

「……」

「どうなんだ、ザックス。本当のことを、話してくれ」

「……」

本当のことを―――――話したところで何になる?

セフィロスが嫌いなわけではない。けれど常に自分を抜擢するセフィロスを見ていると辛くなって嫌だ。そういう事実を並べ立てて、セフィロスは何かをわかってくれるというのだろうか。

折角此処までキッパリと拒否をしてきたのに、そんな本音を零して、今までの態度が無駄になったら…遣り切れない。報われない。

「ザックス」

促すようにそう呼ばれ、ザックスは背を向けたまま悩んだ。

話すべきか、否か―――――というより、話して何が解決するというのか。自分でも良く分かっていないのに、セフィロスに何が分かるというのか。

―――――あんたには、分からない。

大体の動作が読めてしまうほど側にいた自分が、セフィロスに対してどう思っているかなんて、きっとセフィロス自身は知りもしないだろう。

ザックスはセフィロスに問われたことへの答えを、徐々に整理し始めた。

 

 

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