■SERIOUS●SHORT
もしお前がそばにいてくれるなら、俺は可能なかぎりの俺を削ろうと思った。
お前のことが好きだったから、俺は俺の心をやった。
お前のことが好きだったから、俺は俺の体をやった。
お前の望むように、気持ちをやることも、体を重ねることも、俺には造作もないことだった。
「俺たち、いつかは離れちゃうんだね」
ある麗らかな日の午後。
その気候に似付かわしくないふうにお前はそう言った。
「どうしてそんなことを言う?」
「だって、本当のことでしょう?いつかはお互いに死ぬんだ。そうしたら、嫌でも一緒にはいられなくなるんだよ」
お前の言うことはもっともだ。
俺は反論なんてできなかった。言葉もない。
「どんなに一緒にいたっていつかは離ればなれになる。それなのにどうして一緒にいたいなんて思うんだろうね」
「仕方がない。そういうふうに出来ている」
「そっか。それもそうだね。だけど」
やっぱりちょっと、寂しいね。
お前はそう言って笑った。
俺は戦いの中において、だいたいは死を覚悟してきた。しかしこうしてその言葉を、よりにもよってお前の口から聞くと、妙に生々しさを覚えた。
死は恐れるにたらぬものだ。
しかし、お前を想うとき、それは突然のように恐ろしい刃のようにその存在をかえる。
なぜ?
なぜ、恐ろしいか?
それは、そう―――、
常に共にあったと信じてきた道のりが、実はただ単に“幻想である”ことを、突き付けられてしまうからだ。
騙し騙し生きてきたものが、死によって明らかになってしまう。それを、人は無意識に恐れているのだ。
そして、思う。
最後まで幻想を見る方法はないものか、と。
「俺は、お前にすべてをやろう。俺は死んでもお前の傍にいる。悲しむことはない」
「セフィロスがどんなにすごい人でもそれは無理だよ」
「いや、無理じゃない」
俺は、決めたのだ。
お前が最後の最後まで悲しまないように、最後の最後まで幻想をみせてやろう、と。
俺は、お前にすべてをやる。
俺は可能なかぎりの俺を削ろう。
そのかわり――。
お前はそばにいてくれ。
俺の魂を受け入れて、いつまでも、この星で息をしてくれ。
俺は――
お前を包む“大気”になる。
俺は、死んでもお前の傍にいる。
お前が笑う、
お前が泣く、
そのときお前を見守り、お前が吸い込む空気になる。
それが、俺のできる、
可能なかぎりの、
俺の削り方だった。
お前に、この魂を捧げよう。
そしていつかこの星に、最愛のお前の名前をつけよう。
―――クラウド。
END