兵士よ肉を食うなかれ!(2)【セフィクラ】

セフィクラ

  

「あの忌々しい宝条が、そんな幹部を手玉にとって商売をしている。それこそが……肉、だ」

「肉……っ!」

じゃじゃじゃじゃ~ん じゃじゃじゃじゃ~ん。

クラウドの中に「運命」が流れた!

クラウドの中に衝撃が走った!

クラウドはレベルが1上がった!

精神安定度が5下がった!

「そんな…じゃああの肉は…皆が食べてた肉は!」

事の重大さに気付いたらしいクラウドは、ただでさえ大きい目をやたらめったらに見開いた。

そう…科学部門統括の宝条といえばもう、いかがわしい実験をするマッドサイエンティストと専らの噂で、ことセフィロスは個人的に彼を嫌悪していたので、傍にいるクラウドにとっては更に悪名高い印象があったのだ。

とにかくそんな彼が商売としている肉というのは、余程危険極まりないものなのだろう。

して、その危険度とは?

「奴は自分の立場を逆手にとって、博士である自分の発明した肉ならば安全だなどと説いたのだ」

あんたが関わってるから余計に安全じゃないんだよ、とは誰も言えなかったのだろう。

しかし肉の発明とはまた何だかうそくさい。

そもそも存在しているものなのだから発明とは違うだろう。

「しかもその発明は神羅の高級器具を駆使してできたものだ。いかにも職権乱用だろう」

職権乱用の器具使用より食中毒の危惧しよう…なんて、アホな駄洒落を考えている場合ではない。

「そして奴は研究の末に超安全健康第一自然派肉を作り出し、それを食べれば体の内部から健康になると言い、百グラム五千ギルで売るという阿漕な商売を…」

「五千ギル!?」

「そうだ」

セフィロスは、はあ、とため息を吐くと困ったもんだと言わんばかりに顔を伏せた。

セフィロスが言うには、その超安全健康第一自然派肉…その名称からしていかがわしいが、とにかくその肉は正規の肉とは違うらしい。

元来の動物肉は人体に有害だと訴えた宝条は、人工的に肉を誂える必要があると説いた。

その人工的な肉というのが宝条がいうところの超安全健健康第一自然派肉ということになるらしいのだが、自然といいながら人工的だなんていかにも矛盾している。

叩かれる事うけあいだろうと思うのに、何故かその肉は売れたという。

「奴に言わせれば、人間が自然界の一部という事がそもそもおかしいんだそうだ。つまり自然な肉というのは人間を基準とし、それに合わせたものでなくてはならない。豚や牛やチョ…いや、鶏であってはならないのだ」

「はあ…」

どういう訳かセフィロスの話し具合にも熱がこもる。

「人間の体に合わせ、人間の体に入るのに何の障害もなく、人間にぴったりの肉でなくてはならない…そんな肉だといって奴は例の肉を売り捌いたわけだ。健康マニアは勿論それを買った。今まで動物を食していたことの方がオカしかったと信じ大量購入したのだ。―――――しかし」

「しかし?」

クラウドがそう話を促すと、セフィロスは大きなため息をついた後に演説の如くこう言った。

「奴らはとうとう目を覚ましたのだ!!宝条の企み通り踊らされ人工肉を食した奴らは、その肉のすざまじい秘密を垣間見てしまったのだっ!」

「そっ、その心はっ!?」

セフィロスの悪鬼のごとき表情に感化されて興奮したクラウドは、唾をゴクリと飲み込んでそう聞いた。

そして、セフィロスの答えとは…。

「―――――それは…人肉だったのだ!!」

ヒョオオオオ…

「な、何ィ!!!」

クラウドの脳天を嵐が襲った。有り難迷惑なことに雷と雪も便乗だ。

嗚呼…こんな衝撃的なことがあって良いのだろうか!

そんな人道に反す事など許されるはずがない…といいたいところだが、悲しいかな宝条の実験なんていうのは大概そういった類なのだ、どうせ。

という訳だから、それはマッドサイエンティスト宝条にとってはごくごく普通なことだったが、一般の人間にとっては許されざる、しかも自分がそれを食したとなれば尚更許しがたい出来事だったのだ。

しかしそれはそれとして、クラウドはふと疑問を浮上させる。

クラウドは健康マニアでもないし、宝条から肉も買ってないし、肉を食うなといったって宝条の怪しい肉は口にするはずがない。

もしセフィロスの考えが宝条と一緒なら、一般肉を食うなというのも頷けるが、まさかそんなはずはないだろう。

「でもさ、俺がその人工肉を食べることなんて無いと思うんだけど」

おずおずとそう言ってみると、クラウドは同意を求めるようにセフィロスを見やった。

ここで、ああそうか、と納得でもしてくれれば、だよねー、と返して終われたものの、悲しいことにそういう訳にはいかなかった。

というのもセフィロス曰く…、

「いや、甘い。つまり健康マニアはその肉をまた売却したのだ」

「へ!?そんな!……で、それ…誰か買っちゃったの?」

「ああ…悲しいかな―――――食堂のおばちゃんだ」

「えええええ―――――!!!」

嗚呼、悲劇。

この言葉でクラウドは全て把握してしまったのである。

そうつまり……

 

1.北条が売る。

2.健康マニア、真実に気付きソレを売る。(勿論安価)

3.特売品におばちゃん飛び付く。

4.おばちゃん料理する。

5.ほくほくと皆の口の中へ。

 

「何て事だ!じゃあ皆ソレを知らずに…!」

「そうだ。皆は知らずにハンバーグやら肉じゃがやらカレーやらをモグモグやっているという訳だ」

―――――何たる悲劇…!

それを聞いて、ようやくクラウドは理解した。

何をって、自分が肉禁止令を出された理由をである。

だからだったのか、そう理解してクラウドはセフィロスに感謝した。何せセフィロスはそんなゲテモノをクラウドに食べさせまいとしてそんな事を強制したのだから。

嗚呼、有り難や有り難や……

しかし。

「でも俺だけ平和なんて許されないよな!」

―――――そう、クラウド的にはこうなる。

つまり…

「皆にも肉禁止令を出そう!」

……と、なるわけで。

「馬鹿、お前そんな事を大々的に言ったら…!」

そんな事を大々的に言ったら大混乱になるに決まってるのだ。

それこそコンフュ最上級といった感じだが、悲しいかなコンフュには語尾に「ガ」がつくバージョンが無い。だからといってコンガなんていいたくない。そもそも…(以下略)

クラウドは、

「決めた!」

と言って決意表明すると、今まで疑っていたにも関わらずセフィロスに有難うだのと礼を言って猛ダッシュでその場を後にした。

とり残されたセフィロスの「おいコラ!」という叫びが空しく響き渡ったのはいうまでもなく…。

そんな訳で、セフィロスの折角の好意、むしろ大切だからこその忠告は、当初の意図通りにいかなくなってしまったのだった。

「おかしい…おかしすぎる」

本当だったら、

 

1.クラウド、痺れを切らせて理由を聞きに来る

2.セフィロス、衝撃の事実を告白

3.「ええ、そんなことが!?」クラウド当然のように驚く

4.「ああ、お前が心配だったからだ…」セフィロス意味ありげに呟く

5.「俺のことを思って…ありがとう!!」クラウド感激のあまり落涙

6.感動の抱擁(※BGMは“EYES ON ME”)

7.クラウドの愛情度200%

 

―――――と、いくはずだったのに…………おかしい。

「はあ…」

どうやら思った以上に正義漢だったクラウドに、セフィロスは完全ノックアウトしてしまったのだった。

 

 

 

そんな訳で、クラウドは皆に「肉禁止令」を触れ回った。

しかしまさか衝撃の事実は言えないものだから、とにかく肉は食うな!という訳の分からない文句になる。

しかし理由が分からないのに肉を食うななどと言われても皆はちんぷんかんぷん、訳わからんちんなので、結果的に誰もそれを遂行してくれなかった。

それどころか、食堂のおばちゃんからクレームが出て神羅側から呼び出されるなどという快挙まで成し遂げたクラウドである。

ザックスなどはもっと酷かった。

肉は食うな!と言ったら、途端にニヤニヤしてこう言ったものだ。

「そりゃ無理でしょ。またまた~クラウドだって毎晩食われちゃってんでしょ?」

……

………

 

違あああああああああううううう!!!!!!!(クラウド心の叫び)

 

―――――という訳であるからして。

今日も神羅では、怪しい肉料理を頬張る兵士が溢れていましたとさ。

(注:ある一部+セフィロス+クラウドを除いて)

 

 

END

  

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