セフィロスの言うパフォーマンスを終えたクラウドは、そのままぐったりと横に倒れた。
本来はセフィロスと会う為に此処に来たはずなのに、その本来すべきことがさっぱり出来そうもないくらいに疲れてしまって仕方無い。
そんなクラウドの隣で、セフィロスは今しがた見たパフォーマンスに満足げな顔を浮かべながらニヤニヤしている。…どうやら悪魔は健在であるらしい。
しかしそんな悪魔もお仕置きの原因は知りたいらしく、こんな事を言ってくる。
「で、クラウド。お前は何をしていたんだ」
「え…」
そう言われた事でクラウドは眠たげな眼をこじ開けると、ええと、などと言葉を考え始めた。
がしかし。
――――――良く考えると、黙秘とパフォーマンスは交換条件ではなかったか?
ザックスの事をひた隠しにした結果、じゃあパフォーマンスをしろと言われたわけだから、それを此処で言ってしまったら今さっきの行為はいかにも無駄足である。無駄恥じらいである。無駄快感である。…まあ快感は良いけど。
ともかくそんなことを思ったクラウドは、それは言えないよ、などと口にすると、なるべくそれ以上突っ込まれないように顔を逸らした。
が、悪魔はそうそう引き下がらない。
それどころか、こんな核心めいた事を言う。
「ほう、まだ言えないか。まあ大体察しはついてるがな。どうせアレだ、ザックスあたりに何か言われたんだろう」
「えっ」
思わず反応してしまったクラウドは、そうしてからハッとした。
そんな反応を返してしまったら、いかにも本当ですと言わんばかりではないか。というかいかにもそれは本当だったが。
「図星か。全くザックスも困った奴だな。どうせこの前の事が原因だろう」
「この前の事?」
一体それは何だろうか、そう思ってクラウドが聞いてみると、セフィロスはその内容を話し始めた。それは、ザックスがクラウドにそんな頼み事をした原因であった。
―――――思い起こせば一週間前。
少し大きめの任務に就いたセフィロスとザックスは、およそどうでも良さそうなことで言い争いになった。その内容はといえば―――――女の子の好み。
その話題について熱く語っていたザックスは、隣のセフィロスがいかにもどうでも良さそうにああだこうだ言うのでトサカにきたらしく、そこから俄か白熱激論が始まった。
で、それは戦闘中も熱く続いたわけで、足が命に決まってるとか、胸が命に決まってるとか、かなり恥ずかしい言葉を散々吐きながらズシャッと敵を倒していた次第。
まあそんなことがありながらも任務自体は終了したのだが、二人の言い争いは俄然続行していた。周囲の兵士たちはそんな二人を呆れるように見ていたものだが、この際そんなものはどうでも宜しい。問題は足か胸かである。
そんな熱い激論をしていた二人は、なかなか決着のつかないその激論に、とうとう最終的にこんな事を言い始めた。
“お前などは所詮ソルジャーだから英雄には叶うまい。ふっ”
“英雄なんて所詮近寄りがたい存在なんだから実際にはモテねえんじゃないの~?”
“何だと!?…ふん、悪いがお前など俺の足元にも及ぶまい。俺の方が強い”
“あ~そう!だから何?戦闘の強さなんて此処じゃ関係ないってーの”
“それはどうだろうな?神羅のデータでは、『より強い人が好き・97%』と出ている”
“な、何い!?…ま、負けた…”
“ふふん、どうだ?何せ俺には強さの秘密があるからな”
“は!?強さの秘密?何だそりゃ”
“ふ、知りたいなら自分で探せ。まあ無理だろうがな”
“このやろ~憎たらしいっ”
“まあそうだな、お前がもしそれを見つけられたら、メシぐらい奢ってやる”
――――――とまあ、こんな会話があったわけで。
そんな会話からザックスがセフィロスの秘密を探ろうとし始めたのは大体察しがつくつころである。
まあその理由が、その時の会話の結論を出す為なのか、はたまたメシを奢ってもらう為なのかは不明だが。
「まあそんなわけで、ザックスはお前に頼んだんだろう。自分で探りに来たらいかにもだしな」
「…っていうか。―――それだけ?」
「ああ、そうだ」
「……」
ちょっと待て、たったそれだけの為に自分はあんなことをしなきゃならなくなったのか。
そう思うとクラウドは、涙が溢れんばかりの勢いだった。
だって、元を正せば単なる論議ではないか。その上その内容ときたら女の子の好みである。そんなのクラウドには全然関係ない。
それなのにこの処遇とは――――嗚呼、どう考えても酷すぎる。
思わずクラウドは溜息などを吐くと、折角こじ開けていた目をぱったりと閉じた。もうどうでも良いやという具合である。
しかし、そういえば結局セフィロスの強さの秘密とは一体なんだったのだろうか。そういえばそこは語られていない。
そこを思い出したクラウドは、面倒ながらも再度目をこじ開けると、ともかくそれだけは聞いておこうと思ってズバリセフィロスに突撃した。
「で…強さの秘密って結局は何なの?」
クラウドのその言葉にセフィロスは、ああ、そうだったな、などと言うと、とうとうその強さの秘密を口にした。
ザックスがクラウドに頼むまでして知ろうとしたその秘密、そしてクラウドにあんな事をさせるに至ったその秘密。
強さの秘密―――――そう、それは……。
「そんなもの、ある訳無いだろう」
「――――は?」
それは、衝撃の一瞬だった。
今セフィロスは何と言ったろうか、耳がおかしくなったのでなければ、そんなのは無いだとか何だとかそんなことを言ったように思ったが…もしや空耳か?
しかしそれはやはり空耳ではなかったらしく、セフィロスは別に何とも無いといった具合に飄々とこう続けた。
「そんなものがあったら俺も聞いてみたいもんだ」
「聞いてみたいもんだ、って…セフィロスが言ったんでしょ!?」
何だよ、それは!、憤慨してそう言ったクラウドにセフィロスは一言。
「まあそうだが、そんなのは言葉のアヤだ。あの場合、いかにしてザックスを貶めるかがポイントであり言葉なんてどうでも良いんだ。まあザックスは絶対に強さの秘密を知ることはないわけだから、俺がメシを奢る必要も無いわけだな」
勝ったと言わんばかりにフフンと笑ったセフィロスは、いかにも得意そうだった。それはもうご満悦といった調子で鼻歌でも歌い出しそうな勢いだったが、どうやら目前にいたクラウドはそれを許さなかったらしい。
何せ、そんな話は許せるはずもない。
だってこれじゃあ―――――被害者は自分だけではないか!
「…ああ、そう…そうなんだ、ふーん…」
横になっていたクラウドはむっくりと起き上がると、いかにも怒っていますというオーラを発しながらもそう呟く。
そうして、最後にこう言い放った。
「―――――もう…セフィロスともザックスとも絶交だ!!」
その翌日から、セフィロスとザックスは頭を悩ませた。
何せクラウドときたらあまりにもお怒りで全くもって喋ってくれない。
いや、それどころか顔を合わせてもくれないといった始末で、うっかりどこかですれ違おうものなら、いかにもといった感じで、フン、だとかやってくるのだ。
…あまりに悲しい。
ザックスは、自分がセフィロスの秘密を探ってくれと言ったものだから、きっとそれに関して何か嫌なことでもあったのだろうと思い落ち込んでいた。
報告もないから、きっと秘密は探れないままに終わってしまい、それが後ろめたいのだろうとも思っていた。…ある意味幸せな悩みである。
しかしそんなザックスはまだ、クラウドが本当はどうして怒っているかを知らないから幸せだった。
が、セフィロスの場合は違う。その理由を良く良く知っているわけである。
その上関係もそれなりのものだったわけだから、セフィロスの悩みようといったらかなり深かった。
それが証拠に、任務では間違って神羅兵に正宗をチャキッとかやってしまったほどである。その神羅兵のHPが3辺りで留まったことは幸いだったろう。…多分おそらくきっと。
そんなふうだったから、相当悩み果てていたセフィロスは悟ったのだった。
“強さの秘密”は存在しないけれど、“弱さの秘密”だったらこうも簡単に存在するのだという事を。
END
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