視線だけで…【セフィクラ】

セフィクラ

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■SWEET●SHORT

神羅内のある噂に不安になったクラウド。セフィは…?

視線だけで…:セフィロス×クラウド

 

“なあ、知ってる?警備兵の男がさ、事務の女に惚れ込んだらしくてさ…”

“ああ、知ってる知ってる!で、明るみに出たとかいう…”

“そうそう。でも立場を弁えろって、処分だってさ!怖えよなあ”

“本当、神羅じゃ恋愛も禁物ってか”

 

 

 

神羅カンパニーでは、そんな噂が流れていた。というかそれは、ある意味事実だった。

警備兵の男が神羅本社ビルの事務の女に惚れ、それをしつこく追い回したせいで、こんな事になってしまったのである。

実際それは男の方に非があったのだが、噂というのは常に尾ヒレをつけて回るもので、いつの間にかそれは悲恋にまで発展していたのだ。

神羅側がその男を処分したのは、事務の女性社員からの訴えがあったからで、それはセクハラという正しい名目の元に行われていた。

しかし、そんな事実より“涙を誘う噂”の方が、人々はよほど好きなのだろう。

その噂話は一気に神羅内に広まり、クラウドの耳にも入った。

そしてその話は、クラウドを落ち込ませたのだった。

 

 

 

「ねえ、神羅では恋愛禁止って本当?」

「――――は?」

上目遣いでそう聞いてきたクラウドに、セフィロスは呆気に取られた表情を見せた。

その対応が気に食わなかったのか、クラウドはまだ幼い顔の眉間に皴を寄せる。

「神羅で恋愛したら、即処分なんでしょ?」

「…何訳の分からん事を言ってんだ、お前は」

「だってそう聞いたよ。恋愛したら即処分で、それは社長の命令なんだって」

「…バカか?」

「違うよ!」

頑ななクラウドの態度に、セフィロスはため息をもらした。

まさか、そんなバカな話などあるはずがない。

それなのに、さも真剣そうに語ってくるクラウドは全くしようがない奴だ、などと思う。

セフィロスは、小さくなっているクラウドの肩に手をやると、「良いか、良く聞け」と言って顔を覗き込んだ。

「それは噂だ、嘘なんだ。分かるか?大体そんな馬鹿な事を社長命令すると思うか?上の連中にとってそんな事はどうだっていい事なんだぞ」

「でも…」

それでもなお落ち込んだふうに拒否するクラウドに、セフィロスは「でもじゃない」と強く言う。

実のところ、セフィロスもこの話については知っていた。例の実話が脚色され、噂話として蔓延しているのだ。

しかしセフィロスは、男の処分は男側に落ち度があってのことだという事実を知っていた。だから、噂など信じるはずがなかったのである。

とはいえ、周囲は自分とおなじようにはいかない。むしろ、今目の前にいるクラウドと同じように、本気にしている人間が多いのである。

一体なぜそんな話を信用してしまうのか?

そう思うものの、その男が処分されたことは事実なのだから仕方ないのかもしれない。

因みに、処分とはいっても単にジュノンへの左遷である。クビになったわけでもないし、ましてや殺されたわけでもない。

それがいつの間にか訳の分からない話に発展しているのだから困ったものである。

「もしそれが本当なら、お前、どうするんだ?」

方向転換してそんなふうに聞くセフィロスに、クラウドは「え!」と不幸を一気に背負ったような顔を向けた。

「どうするって…。どうしよう…」

「だろう?」

それは誰だって困るに決まっている。というか、神羅本社ビルなんかは女性社員が多いのだから、そんな恋愛事情はいくつもあるに決まっているのだ。

もし恋愛禁止なんていう古臭いシキタリなんかあった日には、その女性社員たちがゲッソリするに決まっている。

神羅の女性社員の大概が、未来を約束された神羅社員を狙っているというのは有名な話だ。

因みにクラウドには口が裂けても言えないが、自分もその的になっているらしいということをセフィロスは知っていた。

とはいえ、もちろんそんなものは断固拒否だったが。

「本当にお前、単純だな」

「…ひどい」

真剣に不安になっていたらしいクラウドを見て、セフィロスは思わず笑みを漏らす。

単純というより、純粋なのだろう。

あまりに素直すぎて、思わず悪戯心が働いてしまう。

「俺の方が処分されたら、お前、どうする?」

「ええっ!…そんな、分からないよ」

「冷たい奴だな。社長に掛け合ってくれないのか?」

「しゃ、社長に!?」

本気で驚いているクラウドに、セフィロスは笑いが抑えられなかった。そんなに驚くなんて、本当に見ていて飽きない。

「俺はお前が処分されるんだったら、やるぞ」

「本気で言ってんの!?」

「当然だ」

クラウドは大層驚いていたが、セフィロスにとってそれは他愛もないことだった。

実質的にこの神羅で一番戦闘能力が高いのはセフィロスだったし、ありえない事とはいえ、気に食わない問題があれば神羅を潰すことすら容易いことだろうと思う。

それくらいセフィロスは神羅に執着がなかったし、むしろ今はクラウドの反応を見ることの方がよほど意味があるとさえ思っている。

まだ思考の淵をさ迷っているらしいクラウドの髪に手を伸ばすと、その顔を見つめながら、軽く髪を梳いた。自分と正反対の金髪が、揺れる。

「面白いな、お前は」

片方の腕は近くのテーブルに肘をついていて、手で頬を支えている。固定された顔から送り出される視線は、真っ直ぐにクラウドに向かっていた。

時折、こんなふうにただ見つめるだけの時がある。

それが自分自身でも不思議なくらい、気に入っていたりする。

抱き締め合ったり、キスをしたり、身体を重ねてみたり―――――そんな事よりも何よりも、視線で分かる本音があるようにも思う。

好きなんて言葉はおろか、愛してるなんて言葉も口にしたりしない。

それでも、クラウドは気付いているだろう。

その視線から、きっと“本当のこと”を。

「…あのさ」

セフィロスの視線を受けながら、クラウドは口を開いた。

「何だ?」

「じゃあ俺、やっぱこうする」

「何を?」

セフィロスの質問に、クラウドは力を込めてこう言う。

「社長に、こう掛け合う事にする。”俺も一緒に処分して下さい”、って!」

先ほどの話題がまだ続いていた事に驚いたセフィロスだったが、その内容には思わず笑ってしまった。

なるほど、それはいい考えだ。

 

 

END

 

 

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