ETERNITY(3)【セフィクラ】

セフィクラ

 

 

午後の訓練の後、ザックスと会った。

それは偶然だったけど、俺をとても複雑な気分にさせた。

ザックスからはあの香りがしていたから――――。

他人の話題を出すのはザックスに悪いと思ったけど、俺は無意識にその名前を口にしていた。

「セフィロスと一緒だった?」

「ん?ああ、さっきまでな」

ザックスは普通にそう答える。だから俺の胸は余計に苦しくなった。

「…その匂い、良いよね」

俺はボソリと、そんな事を口にする。ザックス自身がつけてたわけでも無いのに、そんなことを口にしてる俺は―――何だかすごく酷い人間な気がした。

だけどザックスはやっぱり普通にこう答える。

「あ?ああ、セフィロスの、ね。そうだよなー。俺も良いなと思っててさ、くれって頼んだんだけど駄目なんだよ。ケチだよなあ。どこで手に入れたかも教えてくれないしさ」

―――――え?

ザックスにはあげなかったんだ。俺には躊躇い無くくれたのに…。というかザックスは今迄、俺もそれをつけてたって気付いてないのかな?

セフィロスと一緒にいる事が多いから気付かなかったのかもしれないけど…。

ザックスはやっぱり普通にこう続けた。

「でもまあ仕方ねえか。何でも珍しいフレグランスらしいし…特注だっつーしな」

「特注?」

「そうそう。ベースの匂い自体珍しくて、それに任意の香りをプラスできるとか何とか言ってた…まあ詳しくは知らんけど」

任意の香りって何だろう?

それにしてもセフィロスがそんなにこだわりを持って作ったものだったなんて知らなかった…。

「しっかしセフィロスも分かり易い奴だよな」

含み笑いをするザックス。

分かり易いって―――そうかな?俺はそう思えないよ。

あれだけ話をしても俺にはセフィロスの言ってる事は理解できなかったんだから。

「何でそう思うの?」

取り合えず気になってそう聞いてみる。

「だってお前、前まであんなのつけてなかったんだぜ?そりゃもう女に決まってんだろ。匂いっていうのは人間の本能に訴えるからな」

「え…それってもしかして―――…半年くらい…、前から?」

「は?何でお前、知ってんだ?」

そういえばお前がセフィロスと会うようになったのもその頃だったよな、とザックスは何も知らずに呟く。

その隣で俺は、気が気じゃなくなった。

「しっかし今度のはマジだな」

「な…なんで?」

「いやあ、分かるって。あの人、いっつも相手が沢山いてさあ、どれも遊びだったけど、あのフレグランスつけるようになってちょっとしたら、変に出かけなくなったし」

きっと他の女は切ったんだろうな、とザックスは感慨深げにうんうん、と頷く。

まさか―――そうなのか?

本当にそうだったのか?

セフィロスは―――俺を選んでくれてた…のか?

「現に俺、その相手から散々グチられて、も~本当困ったし」

はあ、と思い出して溜息なんかをついてるザックス。

俺は放心状態だった。

まさかそんな筈が無いと心に言い聞かせる。

だってセフィロスは俺に言ったんだ。好きって思ってて欲しい―――そういう気持ちは間違ってるって。だから俺は…。

思案してる俺の横で、ザックスが唐突に言う。

「あの人、本当にケチだよなあ。聞いてくれよ。遊び相手があんだけいたのにさ、誰一人として家の場所すら教えてないんだってよ。まったく…ある意味、尊敬するわな」

ザックスは笑いながら、俺も見習おう、なんて言っていた。

それは―――どういう意味なんだろう。

俺は自分が分からなくなってた。俺にとってあの部屋は、とても思い出深くて、簡素で何も無かったけど、とても大切な空間だった。

それでも、同じベットで誰か別の人を抱いているんだろうと思うと、どうしようもなく辛くなってた―――だけど。

あの部屋は…俺とセフィロスだけしか、いなかったのか…?

 

 

 

俺を選んでくれてたのか…?

俺を―――。

想って、くれてた―――?

 

 

 

そう思って、俺は目の奥が急速に熱くなった。ずっと一方的だと思ってた俺の気持ちは、本当はちゃんと届いていたのかもしれない。それでも俺はずっと、何も言わないままのセフィロスを信じられないでいた。

言葉の無い空間に焦って、どうでも良い事を沢山話してた俺―――。

それを黙って聞きながら時々笑顔になったセフィロス―――。

色んな場面がシンクロした。

目の前のザックスが次の話題を振ってくるのを聞きながら、俺は必死で涙をこらえる。

もし今、この涙が流れたら、思い出全てが消えてしまいそうだったから―――。

 

 

 

――――ごめんなさい。

貴方の想いは静かすぎて、俺は何も気付かずにいたんだ。

貴方の想いの表現の仕方なんて考えて無かった。

本当は基準なんてどこにも無くて、何でも無い“普通”な事が、貴方の本当の想いだったんだね。

もう―――戻れない、けど…。

 

 

 

それでもあの笑顔が焼きついて、離れない――――。

 

 

 

セフィロスと会わなくなってから何ヶ月か過ぎて、俺はザックスからあの匂いについて教えて貰った。

セフィロスが唐突に言ってた、らしい。

任意の香りは“ヒムカイソウ”という花から採った香りだという事。

そしてその香りを持つ“ヒムカイソウ”には、花言葉というのがある、と。

俺は未だにその香りを感じる時がある。

それはザックスからだったけど、セフィロスはまだあのフレグランスをつけているんだろうか……?

 

 

 

ヒムカイソウ――――太陽に向かって咲く、その花。

“あなただけを、見つめる”

 

 

 

END

 

 

RETURN | 

 

 

 

タイトルとURLをコピーしました