変テコ掲示板:セフィロス×クラウド
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神羅電光掲示板、記念すべき利用者第一号が出たその日、非常に誠にこの上なく残念なことに、その記念すべき第一号は雷を食らっていた。
予想100人のオーディエンスを集めた彼も、この人だけには弱い。というか、怒られるしかない。
勿論それはヒーローことセフィロスであり、セフィロスはあれほど「使うな!」と言ったにも関わらずクラウドが電光掲示板を利用したことに激怒していた。…その怒り、雷の如く。
臨時で呼び出されたクラウドは、まさかあの掲示板のヒーローがサクッと英雄に変換されたとは思ってもみず、だからその呼び出しはきっと愛のゲージMAXの証なのだと相当浮かれていた。
しかし、それは大きな間違いである。
ワクワクしながら向かったその先に待ち受けていたのは、他でもない雷…因みにコレ、サンダーではない。あくまでサンダガだということを強調しておきたい。
という訳で、その時の第一声の背景にはゴロロロロ…ピカーッというのが漏れなく付いていた。
「クラウド…お前、やってくれたなっ!!!」
「へ?」
「あれほど言ったろう!?使うなと!!!」
背後がピカッと光り逆光を浴びたセフィロスの顔は相当恐ろしい…眉間に皺なんか寄っているものだからその恐ろしさ三割増である。
それに気付いたクラウドは、何とかしてその怒りを和らげるよう、焦りに焦ってついこんな事を口にしたが、ハッキリ言ってそれは逆効果だった。
「ごっ…!語尾に♪まで付けられるんだよっ。すごいよねっ」
「つけんでよろしいっ!!」
―――――――確かに。…余計、悪い。
しかし更に。
「一定時間リピートなんだよ!すごいよねっ!」
「リピートせんでよろしいっ」
―――――――至極、悪い。
そんな具合で妙な会話は暫く続いたが、やがてクラウドのネタが尽きてソレは終了してしまった。だから結局クラウドはその後、延々とセフィロスに怒られるハメになる。…無念。
そうしてとことん怒られた上、もうしませんと血判付き契約書まで書かせられると、やっとのことでそのお怒りから脱する事が出来た。
しかし―――――…クラウドにとってこれほど悲しいことなど無かったのは言うまでもなく。
何せクラウドはあの神羅電光掲示板が好きだったし、それを使えたことにとっても満足していた。ここぞとばかりにセフィロスネタを流せたことにも大満足であった。だから、折角満足できたそれらの事にお怒りを受けるのは、やっぱり悲しかったのである。
しかし何と言ってもセフィロスの言葉である、逆らうなんてもっての他――――――もし逆らったら天変地異で星の危機到来である。
だからクラウドは素直に頷いた。
分かりました、と。
それを見て「うむ、よかろう」と深々と頷いたセフィロスは、とてもじゃないが逆らえなさそうな感じがした。
しかしある日。
その誓いはやむを得ず破られる事となる。
勿論クラウドには悪気は無いのだが―――――――
しかしてそれは、多分………最悪なことだった。
何事もなく、閑古鳥が戯れるくらいに平和になった頃、神羅電光掲示板はほぼモニュメントのようになっていた。そりゃそうだろう、何せ誰も使わないのだから。
原案者である副社長殿は大層心を痛めて病床に伏せったとの噂があったが、それが真実かどうかは分からない。
そんな日々の中、クラウドは今迄と同じくセフィロスと幸せな時間を重ねていた。ミルフィーユ若しくはサンドイッチ並に重ねていた。そのミルフィーユだかサンドイッチだかどっちでも良いが幸せな日々の中のある日、クラウドはセフィロスに小用があってその人の姿を探していたところ、神羅の英雄はどうやら中庭で日光浴を楽しんでいた……ワケでは無いだろうが、とにかくソコにいた。その姿を見たクラウドは俄かに顔をパッと明るくし、その人に駆け寄るべく神羅の中を奔走する。
しかし、その人までは遠い。神羅はただでさえだだっ広いのだ、そこまでの距離は結構ある。
「セフィロス…」
呟き、中庭をチェックしながら廊下を走っていたクラウドだったが、そのクラウドの眼にはやがて数名の影が映し出された。
その影はセフィロスに近付いていく。…どうやら神羅の上層部の人間のようだ。
きっとセフィロスは元々、あの数名と会うことにしていたのだろう。―――――という事はクラウドと話しているヒマなど無いという事である。
「ちぇっ…」
――――――――なんだ、折角のチャンスだったのに。
近付いていく影数名に恨みを込めつつ、クラウドは立ち止まり、その光景を見つめる。
何だかお堅い話でも始まるんだか、セフィロスの表情はいかにも無表情だ。
折角走ったものの、セフィロスと話せないなら仕方ない。用事といってもあの影数名よりは相当軽いだろうしな、そう思いながらその光景を見遣り続けていると、ふっと……クラウドの目に何かが映った。
「―――――!!!」
――――――――それは……正に衝撃的映像。
こういう時、裸眼2.0の視力の素晴らしさに感嘆せざるを得ない。
「ヤバイ…っ!!」
クラウドは、見えてしまった衝撃的映像におののき、一瞬にして蒼褪めた。そして次の瞬間にはこう思う。
――――――――セフィロスに言わなきゃ…!!
何としてでもこの衝撃的事実をセフィロスに伝えねばならない…クラウドはとにかくそう思い、セフィロスを見遣る。
しかしどうだ。
セフィロスには話す隙も無い…というか遠いから当然であるが、それにしたってもう既に数名の影と共に歩き出しているのだ。
いかん……これでは、ヤバイ。
今からセフィロスの元に走っても、中庭につく頃にはもうその人はいないだろう。
しかしとにかく伝えねば――――――!
でも今この場から叫んだら色々と問題がある。クラウドのような一般兵と熱愛発覚なんていったらもう、神羅報道部はウハウハ、クラウドなんかは日々石を頭に投げつけられて悲し涙に枕を濡らすこと請け合いである。記者会見必須である。
――――――――何とかして話す方法…いや、伝えるだけで良い!
と、その時。
「そうだ……!!」
クラウドはとっても素敵なことを思いついた。
そう……あるではないか、あるではないか、伝える方法が!
伝言といえば…そう神羅中庭の電光掲示板である。電話なんていう高価なものを持っていないクラウドにしてみればやはりコレしかない。これでこそ伝えられる。
それは、神羅電光掲示板がしっかり掲示板として使用される初めての出来事であったことは言うまでも無く、病床に伏せる副社長への元気回復剤でもあったかもしれない。
クラウドは疾風の如く書き込み機に向かうと、鬼のようなスピードでもって文字を打ち込み始めた。最早、♪とか付けている場合ではない。
本当はコレを使ったらセフィロスに怒られると分かっていたけれど、セフィロスの為なんだと思うとそれも仕方無いと、腹どころか脳までくくれた。
――――――――セフィロスの為に…!!!
数分後――――――――――……
ビカッ…!!!
神羅電光掲示板の周囲が突然デカデカと光り出した。
その光にセフィロスは一瞬にして気付く。しかし残念なことにその光に気付き、電光掲示板の方を見遣ったのはセフィロスだけではなかった。セフィロスと共にいた数名も同じリアクションを取り、電光掲示板を見遣っていたのである。
「…まさか…――――――」
嫌な予感。
セフィロスは何となくそれを感じていたが、実際にそれが予感でなくなるのはそう遠い未来の話ではなかった。
やがて流れ出す90センチ×90センチの文字…そこには。
「―――――!!!」
「―――――!!!」
「―――――!!!」
――――――――――衝撃的事実!
『セフィロス大変!社会のマド、開いてるよ!!!!』
………後日、こっぴどく怒られたクラウドがいた…。
END