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思い出した大切なこと:ヴィンセント×クラウド
「好きだ」
唐突にそう言われ、クラウドは呆気にとられた。
ナニを突然?
ナニを今更?
まさにそんな感じである。
「アホなこと言ってないで早く手伝ってくれよ、ほら」
クラウドに荷物を放られ、それを渋々受け取ったヴィンセントは、その荷物を更に向こうの方へと運んでいく。そうして一仕事終えると、またもやクラウドに向かってこう言った。
「大切なことを思いだしたんだ。だから言ったに過ぎない。それを蔑ろにするのはダメだぞ」
「なんだよいきなり」
ある麗らかな日の午後。
いつも通りの仕事にいつも通りの食事。
そんななんでもない日に、突然思いだしたようにそんな事を言ってくるヴィンセントにクラウドは首を傾げる。
一体どうしたのだろうか。
まあ、好きだと言われることは嫌いではない。が、それは既に分かり切っていることだし、それがあるからこそ一緒にいるんじゃないかと思う。
二人は普段から甘い言葉も甘い時間も持たないような、ある意味淡泊な生活を送っている。しかしそれに文句を言うつもりはお互いに無い。常にベタベタしているのが性に合わないからだ。
それだというのに何だろうかとクラウドは思う。
「なに?なんか買ってほしいものでもあるわけ?」
「…あのな。私は子供ではない」
「だって。じゃあ何?何か企んでるんだろ?」
何か裏があるに違いないと思うクラウドは、ヴィンセントの言う事など一向に信じようとしない。
大切なものというのは、どうやら時として純粋には受け入れてもらえないらしい。そして、目に見えなければ信じてもらえないらしい。
「…わかった。じゃあ、欲しいものがあるから買ってくれ」
「やっぱり。で、何?」
クラウドのその問いに、ヴィンセントは少し考えて、
「おまえの、今夜の数時間が欲しい」
そう言った。
クラウドは目をぱちくりとさせて、首を傾げる。
「何それ。話でもあんのか?」
「いや。大切なことを思い出したからな、大切なことをしなければと思っただけだ」
「大切な、って…」
クラウドはそう反芻しながら考える。
それはもしかしてもしかすると……そういう事か。
「なんでいきなりそんな気持ちになったんだよ」
そういえば、ここの所そういう事はしていなかった。
それに思い至り、クラウドはちょっと躊躇いつつヴィンセントにそう問う。
まさか昼間からこんな話をするとは思わなかった、と思いながら。
これはいわば今夜のメイクラブ予約である。…これから仕事だというのに。
「言ったじゃないか、大切なことを思い出したからだ、と」
「それって、さっき言ってた”好き”ってヤツ?」
「ああ、そうだ」
「…本気で真顔で言うよな、ヴィンセント」
すっかり荷物を持つ手が止まってしまっていたクラウドは、急いで荷物をバイクに積み上げると、ささっとヴィンセントの近くにやってきて言った。
「言っとくけど、俺の今夜の数時間は高いからな」
「なるほど。昔は無料だったが、今は価値が高騰したわけか」
「そんなとこ」
クラウドはそう言って少しだけ笑うと、グローブを手に付けながら少し背伸びをして、ヴィンセントの頬にチュッ、と軽く口付ける。
それがあんまり意外だったから、ヴィンセントは驚いてクラウドを見やった。
どうやらそのヴィンセントの動作が可笑しかったらしい、クラウドは今度は遠慮なく笑ったりする。
そして。
「俺も大切なこと思い出したから、今夜は早く帰ってくるよ」
クラウドはそう言うと、行ってきます、と軽く手をあげた。
END