祈り:ヴィンセント×クラウド
祈るという行為は実に神聖だ。
祈るというそれそのものに意味がある。
――と、思う。
しかし大方この「祈る」という行為は、神への祈りということになっているらしく、そもそもその発祥もそこにあるらしい。
がしかし、クラウドは違う。
祈りは、それそのものに意味があると思っている。
そしてその祈りの対象は、きっと何でも良いのだと思っている。
仮に、目の前に古ぼけた何がしかがあったとして、それに祈ったって罰は当たらないだろう。縁起も何もないかもしれないが、祈られて悪い気はしないはずなのだ、どんな物体だって。
それで、クラウドは、星に祈りを捧げるようにしている。
月だとか太陽ならばまだ信仰心を感ずることもあるだろうが、星、というのはいささか珍しいだろう。しかしクラウドにとって、星に祈りを捧げることは、実に意味のあることだった。
「なあ、ヴィンセント。人は死んだら星になるんだって。知ってたか?」
「お前は本当にそんなことを信じてるのか?」
「勿論。だってこれは、昔、大切な友だちが言ってたことなんだ。だから俺は信じるよ」
「全く…」
毎晩、眠りにつく直前に、クラウドとヴィンセントは共に月光浴をする。
一緒に住んでいる家には運良く見晴らしの良い広いベランダがついており、そこにリゾート地よろしくチェアーでも置けば、それだけで素敵な空間へと変わるのだ。
二人は共にこの時間を大切にしていたが、ことクラウドに関しては特別な想いを持っているようだった。なにしろ、そう、彼にとってこの時間は、月光浴というよりも星光浴の時間だったから。
クラウドは、無過信も友人と称する人物からの入れ知恵により、人間は死んだら星になると本気で信じている。
それだからクラウドは、この月光浴の時間に、必ず星に祈るのだ。
共に過ごし、そして散っていった仲間へと――。
その事については、ヴィンセントも悪くは思っていない。
亡き仲間を想うことは、素晴らしい事だと思っていたから。
星は、綺麗に光り輝いている。
ピカピカピカと、光り輝いている。
「なあ、ヴィンセント。星にはさ、弱い光と強い光があるだろ?あれってどういうことなんだろうな」
「どういう、か…」
まさか、まともに天文学的な答えを出すのもためらわれて、ヴィンセントは少し考えたあとにこう答えた。
「――それはきっと、見る人間の気持ち次第だな」
「気持ち次第?」
「そう。お前がその人物を強く想えば、きっとその星は強く輝く。もしそうでなければ、きっと星は弱ってしまうだろう」
そう考えれば、少しはロマンチックではないか。
そう思ったから口にしたのに、クラウドが少し違うふうに考えたらしい。
「そっか。じゃああの星の輝きはきっと、俺の本当に気持ちを表してるんだな。道理で、俺の大切な人は強く光ってるわけだ。これがもし弱い光だったら、俺は俺のこと責めてただろうな」
そう口にするクラウドの隣で、ヴィンセントは微笑みながら夜空を見上げた。
どうか、自分が星になった暁には、クラウドの目に強い光を齎す星になりますように――そう、祈りながら。
星に祈るクラウドの隣で、ヴィンセントは、クラウドに祈りを捧げている。
祈るという行為は実に神聖だ。
祈るというそれそのものに意味がある。
その対象が例えどんなものであろうと、神であろうと、星であろうと、人であろうと、そこには絶対に意味があるはずなのだ。
だって、祈るとは、意思を伝えることである。
クラウドが星に向かい亡き人に想いを届けるそのとき、ヴィンセントは、クラウドに向かい想いを伝えている。
それは絶対、無駄ではない。
その行為は実に神聖だ。
その行為はそれそのものに意味がある。
――そう信じて、今日も祈っている。
大切な想いを届け伝えるために。
END