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本物は一つで良い。ツォンVSリーブ。部長恐め!ツォンルー前提です。
レプリカ:リーブ×ルーファウス
「大切なものを失っても良いのか?」
それは多分、脅迫だった。
誰とて大切なものを失いたくはない。
その為に身を削る。身を呈して大切なものを守る。
重症。
そう診断された。
折角与えられた任務をこなしきれず、更には動けなくなるだなんてとんだ笑い話だ。
ツォンはひたすらそう思う。
動けない、というのはいささか語弊があるかもしれないが、ベットの上に縛り付けられている身である以上それは、動けないのと相違ない。
このベット脇には良く訪問者がやってくる。
仲間であるタークスと、あと―――ルーファウス。
これはツォンにとってはこの上なく嬉しいことである。普段それほど馴れ合いもしない仲間達だからこういう時しっかりと支えになってくれる。それはこうしてみて初めて分かる有り難味であり、この身動きの取れないツォンを酷く励ます糧となった。
そしてルーファウス…この人の場合は多分、そうしてやって来てくれる事が目に見えていた。公の場ではさも当然そうに強い言葉を放つくせに、一歩内に入れば一転して心配の言葉をかけてくる。それはもう嵐のように。
大丈夫か、気をつけろよ、心配なんだ、無事でいてくれ、無理はしなくて良い―――そんな言葉達を今迄どれくらい聞いてきただろうか。多分、呆れるくらい聞いてきた。
困った顔、心配した顔、悲しそうな顔……それも沢山見てきた。
そういうものを見てきて、その矛盾に驚きながらも、矛盾せざるを得ないその人がとても悲しいと思った。
その時からその人は―――ルーファウスはとても大切な人になった。
その人の為なら、嘘のような言葉すら口をついたものだ。例えば、愛してる、という言葉さえも。
だからその人の訪問も、ツォンにとってはかけがえの無いものだった。
しかし―――もう一人、歓迎できぬ人物の訪問が此処にはあるのだ。
それは、脅迫めいた言葉を放つ、人。
その人の名はリーブ。
リーブは身動きの取れぬツォンの側に現れ、ある日とうとうこう告げた。
“大切なものを失っても良いのか”
最初その意味は分からなかった。しかし、ルーファウスは随分ツォンにご執心らしい、との言葉を聞いた時、その意味がハッキリ分かった。
きっとこれは脅迫なのだ、と。
かつてルーファウスがリーブの事を父か兄のように慕っていたという話を聞いたことがある。そのリーブがそういう事を言うのは多分、裏があってのことだ。
そうツォンは思っていた。
対抗心があるわけでは無いけれど―――その人の口から放たれる言葉は以前に比べ、随分と棘棘しくなったものだ。多分、普段はそう変わらない。もしかするとツォンに放たれるものとて、そうキツイものではないのかもしれないが、しかしツォンの心からすればそれはこのように聞こえる。
“お前ごときが”…と。
それは妙な対抗心のようにも思えるが、ツォンはそうだとは思えない。だからこれは対抗心ではない。
しかし何故この状況になってまで、リーブがやってきてそして自分に言葉を吐くのか―――それはツォンにとっても疑問だった。
「大切なものを失っても良いのか」
そう言って、リーブはツォンを見おろした。
今や日の目を見ない場所で療養という目的で留まっているツォンを、リーブは労わるつもりは無かった。
この神羅では敏腕と言われるタークス主任―――…しかしそんなものは単なる肩書きでしかない。その肩書きがあろうと無かろうと、リーブのツォンに対する一種冷めた感情は変わること無い。
ツォンは、ベットの上で半身を起こし―――…リーブをじっと見ている。
「“大切なもの”?どういう意味でしょう」
サラリとそう言ってのけたツォンに、リーブは優しく苦笑などをしてみせる。
「シラを切るつもりか?…ルーファウス様は随分とツォンにご執心らしいじゃないか」
「……」
それは、応えにならぬ答えだった。それでもリーブの言わんとしていることはツォンに伝わったらしく、ツォンは少し眉などを顰めている。
―――良いぞ、その調子だ。
そう、眉をしかめるが良い。存分に困惑すれば良い。
ツォンとルーファウスがいつの間にか通じ合っていたことを、リーブは影ながらキャッチしていた。まあそれもリーブにとっては分かりやすいものだった。何せルーファウスとは昔からの仲だし、ツォンさえいなければ多分今もリーブが、ルーファウスの側にいただろう。とはいっても、ルーファウスの執心の種類は、リーブへのものとツォンへのものとでは随分と違っていた。
ツォンは外、リーブは内、そんな感じ。
つまりリーブは家族的な愛情の対象であり、ツォンはそれと異なる恋愛的な感情の対象という、そういう違いである。
ツォンはそういったルーファウスの心を知りながら側にいる。だからこれは公に心が通じ合っている関係である。
しかしリーブは違っていた。
リーブはルーファウスから流れてくるものに、別のものを返したがった。
ツォンとルーファウスの間にはお互い同じ種類のものがあるのに対し、リーブとルーファウスの間には違う種類のものがあった。―――それが、ツォンとリーブの違い…ひいてはルーファウスとの関係の違いとなる。
「まあそれは良いのだ、ツォン。君達の幸福を祈っているのだから。しかしその代わり、君には義務があるだろう?」
「義務、とは?」
幸福を祈って、だと?―――そう心の中で猜疑心を膨らませながら、ツォンはそう聞き返す。
と、リーブはさも当然そうにこう言った。
「あの方を守る義務が、ある。そうは思わないか?」
なるほど…それはツォンとて、そうしたい。しかしそれは義務だのという事務的なものではなく、もっと自発的な感情に基づくものだったけれど。
ベットにいるツォンに、リーブは口端を上げてこう言った。
それは低い低い声で。
「今のお前は義務違反だな―――ツォン?」
「なに……」
その身体は今や神羅に必要ないものだろう、そうとまで言ってリーブは、笑いを漏らす。その笑みは、今迄ツォンが見たことのない程の酷く優しげで、更に恐ろしい笑みだった。一体どこにそんなものを隠していたのだろうかと思うほどの…。
「その身体、あの人を守れるのか?―――それすら出来ないようでは役に立たんな。お前とて大切なものを失いたくは無いだろう」
「何が言いたいのですか…?」
とても張り詰めたその空間で、ツォンは冷静にそう返すと、強い目でリーブを見遣った。リーブは笑うように口を歪め―――そして。
「そう睨むな。私はお前に期待しているのだ、ツォン。お前にならあの人を守れると。だからその身体を盾に義務違反などして欲しくないということだ」
義務違反―――その言葉がやけに耳にこびりついていたが、リーブの言わんとしていることは何となく理解できた。要は“その身体で守れるとでもいうのか”という事が言いたいのであり、それはある意味ではツォンへの挑戦のようなものだった。
確かにこの身体は無理の利かないものである。その無理の利かない身体を持ってしてルーファウスを守りきるというのは非常に難しい。ルーファウスのようにあらゆる方面に敵の存在があるような人を守るには、最終的に身体を張ることになる。
それをこの完全ではない体でできるのかどうか―――確かにそれは100%の保証はできないであろう。
しかし気持ちの上では?意志の上では?
…それならばこの身体を壊れようとも常に持ち続けている。何かあれば飛んでいくくらいの覚悟は出来ている。
但し、そうするのには躊躇われる現実があった。それは、心配そうに言葉を紡ぐあの人、である。
無理はするな、大丈夫か、心配なんだ、そう言葉を並べるあの人の、それは意志に反した行為に他ならない。
あの人を想い、この身体を盾とし守ること。
あの人を想い、あの人の望むものを貫くこと。
一体、そのどちらが正しいというのか。
ツォンはそれを考え、言葉を紡ぐ口を閉ざした。
例えリーブが挑発するような言葉をかけてきたとしても、ルーファウスの心は自分の方に向かっている。そう、自負している。
「あの方を守れぬというならお前の必要性はない。それでもツォン、自分があの方を守れるというなら―――義務を遂行し、証明してみせてくれ」
「証明?」
それはつまり、リーブのいう所の義務、つまりルーファウスを守るということである。
しかし何をもってして守るのか。何かアクシデントが起こるものならともかく、平行線の現状でどうそれを証明せよと言うのか。
ツォンはそう思い、しかし、などと言葉を口にしたが、リーブはその続きを言うことなど許さなかった。
「出来ないか?」
その一言、それがツォンを強く挑発する。
もう一度強くそう言われた時、ツォンは知らずその挑発に乗ってしまっていた。
許せない―――そう言うのならば、守り通してみせる。
例えこの身体が壊れようとも、何が起ころうとも。
「―――出来るに決まっているでしょう?」
そう強い口調で放ったツォンに、リーブは「そうか」と返答し、口を歪めた。
――――――やれるものならやってみるが良い。
大切なものを、失うだろう男へ、
これは最高の親切だ。
ツォンがそのような状態になってからというものルーファウスは良くその病室に通い、そして心を痛めていた。しかし表面上それを出すわけには行かず、結果「何でもない」というふうな態度を装っていた。
そんなルーファウスの元へ、このところ良くやってくる男がいる。それはルーファウスも良く知る人物、リーブだった。
リーブはルーファウスのところにやってきては異様に優しい言葉をかけており、それはルーファウスにとって少なからず救いとなっていた。勿論、心揺れるというほどのものではなかったが、傷心のルーファウスにとって暖かではある。
そういうこともあってルーファウスは、いつもなら長居を許さないその部屋にさえリーブに関しては制裁をしなかった。
―――その日も、だからリーブは相当な時間そこにいたはずである。
最近気分が沈んでいるように見えるがどうしたのか、と、大丈夫か、と、正にルーファウスがツォンにかけているのと同様の言葉を口にする。
そうして寄り添い慰める姿は正に“ツォンの立場のレプリカ”だった。
しかしそういったリーブの意図など知る由も無いルーファウスは、ごく素直にその行為を善意として受け入れていた。
「お疲れならば早くお帰りになって休むと良い」
「ああ…しかしそうも出来ないから…」
つい先程仕事が終わったところだから、後はちょっとした雑務さえ終えれば、本当は帰路につくこともできるのだが、ルーファウスがそれをしないだろう事はリーブにも分かっていた。
きっと―――いや、絶対にツォンのところに向かうだろう…それを、分かっている。
だからリーブは更に優しくし、そして強く、こんなことをルーファウスに告げた。
「顔色が悪いですよ。“心配事”が絶えないなど…お可哀想に」
「え…」
良いのです、分かっているのです、そう言わんばかりの笑顔を見せると、リーブはさも心配しているかのようにルーファウスの手に己の手を添えた。
「私では代わりは務まりませんが…貴方が心配です」
「リーブ…」
「それでもまだお帰りにならないというなら、私に時間を頂けませんでしょうか?」
時間?、そう首を傾げたルーファウスに、リーブは当てていた手に力を込め、完全にルーファウスの手を握り締めた。そして顔をじっと見詰めると、少し真面目な表情になる。
それからリーブが語り始めた事は、表面上心配しているとはいえ、今までの話とは面持ちの違う内容だった。
「この時期に来て反乱分子も増えてきているようだ。そして俗な輩も。―――しかし貴方がそのような心痛を覚えていらっしゃる状況では、私は心配でなりません」
口には出さなかったものの、どう心配であるのか、どういう事が具体的に心配なのかということを、ルーファウスはおおよその部分を察していた。
リーブが言うのは、このように他のことに気をとられている状況では、気の緩みが生じ、判断が鈍るという、そういうことである。
そういう事を理解していたルーファウスは、確かにそれには一理あるなと苦笑して一つ頷く。否定しきれないのはそれが大方嘘ではないという自覚があったからだろう。
まあ…その通りだ、と。
「お前にまで心配をかけてしまってすまないな…」
「いいえ。これは私として当然の感情ですから」
“お前にまで”の“まで”の部分に内心苦笑いを漏らしながらもリーブはそう言い、それから肝心のことを告げた。それはリーブが「時間を頂けませんでしょうか」と言った最大の理由でもある。
それは。
「しかし心痛を早く治せというのも殺生な話です。…まあそれに越したことはないとはいえ。ですから、貴方がこのような状況であっても尚、完全な防御ができるよう、私はある事を考えているのですが」
「考え?」
「ええ―――」
まず第一に、そう口を開いて、リーブは己の「計画」について話し始める。
「この部屋、そして社長室及びヘリポートにはより頑丈な防御が必要かと考えています。現状神羅の防御システムは兵舎を抜かして本社は全て一律―――つまり我々の部屋も、この部屋も、ひいてはレストルームまでが同じシステムの上に防御されている。つまりセキュリティレベルが同じなのです」
そうとうとうと語り出したリーブは、そういった現状を見直す必要があるとのことを強調した。
確かにセキュリティの事については今迄一度も疑問視されてこなかった。しかしそれは今迄そのセキュリティを破られた事が無いからということである。だからこそルーファウスもそれに関しては何も思わなかった。
「現実賊が増えていますし、核となるデータ諸々の中枢…つまりこの部屋、社長室、ヘリポートなどはいざという時の為の強化が必要です」
「なるほど…」
そう言われればそうか、そんなふうに思ったルーファウスはその計画に関しコレといった拒否理由もなく肯定を返す。
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