「何か良い事無いかなあ」【レノルー】

レノルー

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■SWEET●SHORT

口癖は「何か良い事ないかなあ」。寄り添うことで導き出される答えもあるのかもしれない。


「何か良い事無いかなあ」:レノ×ルーファウス

 

「何か良い事無いかなあ」

 

馬鹿みたいな口癖。

割と本気で思ってるけど、既に口癖だから、いつでもどこでもどうでも良い感じにスッ、と出てくる。

 

何かいい事。

何かいい事。

いつもこの言葉の繰り返しだ。

そう、自分でそいつを探そうともしないで、俺はいつもそう口から漏らしてる。

 

けど、待てよ。

多分本当の俺はそのいい事ってのを知ってるんだ。

こうなりゃ良いなとか、こうなったら幸せだとか、そういうことは知ってる。

それでも俺が「何か良い事」を探す理由はただ一つ。

 

「今」に満足できてないからだ。

「今」が予想外の「今」だったからだ。

 

なあ、何か良い事無い?

そう聞くと、仏頂面の副社長は厭そうな顔をしながら必ずこう毒づいた。

 

「私に聞くな、自分で考えろ」

「うっわ、ご尤も過ぎてマジビビる。こりゃキッツイぞ」

「なにがキッツイぞ、だ。私だってそうそう良い事に直面なんかしてないんだぞ。そんなのは私が問いたいくらいだ」

「へえ、そう。じゃあ副社長にとっての”良い事”ってナニ?」

「良い事、って…別にどうだって良いだろう?」

 

副社長は少し機嫌を損ねたらしく、そっぽを向いてナニやら書き物を始めた。同じ部屋に俺がいるってのに全くお構いナシ。拗ねたくもなるけどココはちょい我慢。だって今の俺は空気も同然。もしかしたらこれはものすごく凄いことなのかもしれないだろ?

 

「なあ、社長」

「…副社長だ」

「じゃあ副社長。副社長は、社長になることが”良い事”だって思ってるか?いつかソレって絶対叶うだろ。そしたらソレって、副社長にとって”良い事”か?」

「……さあ」

 

副社長はたったそれだけの曖昧な返答を返すと、何やら小さく息をついた。

俺はそのため息にも似た息使いを聞いて、ああ、違うんだ、と了解する。副社長にとっての良い事は、社長になることなんかじゃないんだろう。そんな大げさなものじゃなくて、もっと違うものなんだ。

 

だから俺は、ちょっと考えてとびきり素敵な提案をする。

そりゃあもう自信アリの”良い事”。

 

「じゃあ、俺とデートすることは?」

「……は?」

「俺とデートすることは、副社長にとって”良い事”かな?」

 

俺はデスクでビジネスマンしてる副社長を見遣ると、その目をしっかり見つめてジャッジを求めた。

さあ、俺の提案の判定は?

BESTを叩きだせるか、それとも…NG?

 

―――なあ、副社長。

もしその答えがBESTなら、俺の今日は”なんか良い一日”になるんだ。アンタの回答そのものが”なんか良い事”になるんだ。

俺は「今」に満足できてなくて、予想だにしなかったつまんない「今」にガッカリしてるけど、それでもアンタの一言に大満足することができるんだよ。

 

ああ、なんかもう、馬鹿馬鹿しいほどの口癖。

だけど割と本気で思ってる。

何か良い事ないかな?ってさ。

 

だけど本当に馬鹿馬鹿しいのは、それほど渇望してる”なんか良い事”が、他人のたった一言で手に入ったりするって事実だろう。

なあ、分かる??

俺の”良い事”は、俺の”幸せ”は、他人が決めるんだ。

そう、アンタだ。

アンタだよ、副社長。

 

「――――まあ、そうかも…な」

 

数分後、俺の耳に入ってきたのはそんな捻くれた言葉だった。

かも?

かもってナニ。

そうだ、って断言しろよ、バーカ。

俺はニヤニヤ笑って、へえ、なんて言う。と、副社長は瞬時にして怒り始めた。俺のたった一言がカンに触ったんだろう。ま、そうはいっても本気じゃないってことくらいわかってるケド。

 

「もう良いっ!お前、もう此処から帰れ!」

「は?ヤだよ、そんなの」

「嫌だとか何だとか我侭言うな!大体お前がいたら気が散…っ!」

「ハイ残念!散るわけないから!今まで散々フツーに仕事してたクセに」

「こ、の…っ!」

 

イライラ絶頂の副社長に近づいた俺は、予想通り飛んできたコブシをしっかりキャッチした。デスクワーク特化した腕なんて大したことない。オモチャもドーゼン。

俺は副社長の腕を掴んでニッ、と笑った。

そして一言。

 

「なあ。一緒に”良い事”作ろう?」

 

なあ、副社長。

俺は傷の舐め合いでも良いよ。

この、退屈で予想外の「今」を変えられるなら。

 

END

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