冬空のコトバ【レノルー】

レノルー

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■SWEET●SHORT

言葉が無いと意思は伝わらない。でも、真心が無いと本当の言葉は出てこない。大切なのはそういう言葉なのだよね。そんな物語です!


冬空のコトバ:レノ×ルーファウス

 

俺はさ。

スーパーマンでも超能力者でもないから。

目の前で寂しそうな顔をしてたり、泣いてたり、そういうふうな時だって、何が起こったかとかどんなこと考えてるのかなんてさっぱりわかんないし、何もしてやれない。

俺にできるのは、だんまり決め込んで、気まずいムードの中耐えて、時間が流れてくのを待つことだけ。ただそんだけなんだ。

 

――なあ。

こういうときさ、上手い具合に共感して、上手い具合に慰めてくれるやつがいたらさ、やっぱ嬉しいって思うだろ?

俺みたいなさ、なんかちょっとヘラヘラしてるみたいなヤツがさ、テキトーなカンジに「何とかなるんじゃん?」なんて言ってきたらさ、やっぱムカツクだろ?

俺はさ、どんな言葉かけて良いかも分からないから、何か喋れって言われたら、そーいうテキトーなこと言っちゃうよ。本当はめちゃくちゃ悩んでるのに、そんなことちっとも思ってないみたいな表情で、傷つく言葉を吐いちゃうんだよ。

 

俺はさ。

器用と思われてるフシがあるけど、実はナカナカ不器用なんです。

上手い言葉が浮かばないんです。

力になりたいけど、どうしたら良いかわかんないし、慰めかたも良く知らないし。

だから俺はひたすらだんまりを決め込むしかない。ただただ横に座ってじっとしてるしかない。

 

「…何も喋らないんだな。いつもは色々喋りかけてくるのに」

「そりゃまあ」

 

さっきまで隣で貴重な号泣シーンを展開していた副社長が、ふと俺に話しかけてくる。突然呼び出されて合流した一時間前…以来の会話。

俺は、何で泣いているのか、それは聞かないでおこうと思った。副社長もそれは言いたくないだろうし、俺はその理由を聞くために呼び出されたわけじゃないだろうし。まあ、かといって、じゃあ何で俺が呼び出されたのかってことを考えると、その答えはまったく見えてこないワケだけど。

 

「お前が黙り込んでるなんて、なんだか気持ち悪いぞ。何か言ってくれ」

「そんなこと言われても、さ」

 

言葉なんて、見つかるかよ。

今ここにある雰囲気はさ、どんな言葉を使ったってチャチくなっちゃうほどにマジなモンだから。だから俺はいえないよ、どんな言葉だって嘘になりそうで怖いんだ。

 

「…今日は寒いな」

「ま、な」

 

突然そんなことを言うもんだから、俺はちょっと面食らいながらもそう返す。

そう、今日はやけに寒い。

今は冬で、もう夜で、だから外は寒風吹き荒れて、道行く人はコートをしっかりと着込んで歩いてく。かくいう俺も結構着込んでるし、副社長だってしゃんと着込んでる。

頬を流れた涙が乾いて、それが冬の風に晒されて、多分そこは随分と冷たくなってるんだろうなって思う。俺が今ここで触れたら、ちょっとはあったかくなるのかな?そう思ったけど、俺は手を伸ばすことができなかった。

 

こういうとき、俺はちょっと意気地ナシだって思う。

いつもなら軽くできちゃうようなことも、いざというときにはちっとも出来ない。こういう時こそしなきゃいけないことなのに、俺はやっぱり不器用なんだ。

超能力者だったらさ、スーパーマンだったらさ、もっと良い案が浮かんだのかな?

泣いてる副社長の心の中を読んでそっと慰めたり、泣いた理由の先に誰かがいるなら今すぐ空を飛んでってソイツをぶっ飛ばしたり、きっとそういうふうにできるんだろうな。

 

でも俺は、俺でしかない。

そんな俺が、今、副社長の隣で座ってるんだ。

 

「なあ、副社長」

「…ん?」

「ちょっとさ、空見てみて」

「?…空?」

 

―――なあ、あのな。

 

俺はさ。

スーパーマンでも超能力者でもないから。

それどころか上手いことできる人間でもないし、気の利いた言葉が使える人間でもないから、こんなちっぽけなことしか出来ないんだ。

 

「冬の晴れた夜空ってさ、すっごく澄んでて、すっごく星が良く見えんだよな。今日はさ、寒いけどすっごく良く見えるだろ?」

「うん…そうだな」

「折角だからさ、今日は一緒に眺めとこ。あの光が消えちゃうまでさ」

 

俺がそう言うと、副社長はびっくりした顔をした。

それから少しして笑い出すと、おかしそうにこう言う。

 

「馬鹿言うな。あの光が消えるとしたら、それはあの星が消滅したときだぞ?一生消滅なんてするもんか」

「じゃあ、一生一緒に見てれば良いんじゃん?」

 

寒い冬の夜に、俺は勇気を振り絞って副社長の手をギュッと握った。いつもと違って、少し緊張する。

握った手は冷たかった。

それでもすぐにあったかくなる。

それと同じふうに、副社長の頬にある冷え切った涙跡もあったかくなると良いなって思う。

 

なあ、きっと大丈夫だよな?

あの星が光ってれば、大丈夫だよな?

だって――空を見上げてれば涙は流れないだろ?

 

「――綺麗だな」

 

俺の隣で、空を見上げたままの副社長がそう言って、笑った。

 

END

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