PERFECT GAME(2)【レノルー】

レノルー

 

◆ ◆ ◆

 

ゲームその②。

律儀に電話が鳴ってくる。

さっきからもう二時間くらいは経ってる。で、腹も満たされ後は性欲って訳。

これはまた見ものならぬ聞き物って話で、早速俺は通話をON。

…どれどれ、どういう展開なのかな、っと。

向こうから聞こえるのは、ツォンさんの声。

『…今日は随分静かなんですね』

『…別に』

ツォンさん、教えてあげたいね。それは俺が聞いてるからなんだぞ、っと。

ま、知らぬが仏。

『暫くこうして会えなくて…寂しい思いをさせてしまったでしょうか』

ツォンさん、その通り。だから俺の登場って訳。

でもさ、そこで全て謝られても困るんだな。だってこのゲーム、それじゃ水の泡だし。

『…そんなこと無い』

やれやれ、そんなこと言って。俺を誘ってきたのはどこの誰だっけ、坊ちゃん?

『愛しています、貴方を』

『…んっ…』

ふーん、そう。ツォンさん、そういうふうにいつも言ってる訳だ。愛してます、ね。俺には口に出せない言葉だぞ、っと。

そりゃ確かに坊ちゃんもクラッとくるわけだ。何せ神羅じゃそんな甘い言葉吐く奴なんていそうもないし。

とにもかくにも、とうとう始まったらしい。甘い甘い愛の時間、って奴。

まあ第三者としては退屈凌ぎの三流メロドラマってトコ。とはいえ、これは結構にレア。

だってそうだろ。いつも真面目一徹なツォンさんと、いつも偉そうな坊ちゃんが、これから一発繰り広げちゃうわけだし。

これはこっちも本腰入れて聞くのが礼儀。

『ルーファウス様……』

なるほど名前は大切、ね。甘い雰囲気に囁く声。これはムード派には必須事項。

ツォンさん、坊ちゃん事、結構マジなんだな、っと。って事は、坊ちゃん、かなり極悪人。こんなに愛されちゃってるのに本当は浮気してんだから。

今、どんな気分?

ま、俺の事なんか頭にも無いだろうけど。

電話の向こうから微かな息遣い。まずまず。

『ルーファウス様…。何だか今日は…その。気分が乗らないのですか』

『…違、う…。何でも無い。何でも……無いんだ』

おっと、これは小さなトラブル発生。もしかして原因はコレか?

ま、たまにはアクシデントも必要。安全確実の赤い糸より保険ナシのスカイダイビングを楽しんで欲しいな。

坊ちゃんの頭の中、罪悪感は何%くらいか知りたいね。それが60%以上なら上出来。とはいっても目の前に愛しの人がいればそれも半減。って事はせいぜい30%。

まあまあ、ってトコロ。

『…はっ、あッ…!…ぁあっ』

そろそろ坊ちゃんの感じるトコに突入って感じ。あーあ、そんな素直に声、出しちゃって。

神羅の社内放送で流してやりたいんだぞ、っと。

本当、可愛いね、坊ちゃん。できればその顔も拝みたいけど、そりゃさすがに贅沢。

何せ俺はツォンさんには叶わないわけだし。

ツォンさん、ちょっと俺、羨ましいんだぞ、っと。何せ二人は秘密でも公認。俺と坊ちゃんの場合は秘密の秘密。この差は天と地。

高級ホテルの高級ベット揺らしてヤってんだからさ。それはもう最高級って感じ。

『良い…ですか…』

『ツォ…ン…、あっ!はあっ、ああっ!』

聞こえてくるのはベットの軋む音。結構にこれは激しめ。

ツォンさんにとっては、まあ久々ってトコだろう。けどさ、知ってる?

その下で可愛い声上げてる人、つい昨日まで俺の下で同じように喘いでたんだって事。

けどまあ、さすがにレベルは相違アリ。

勿論、坊ちゃんの感度レベルって奴。さすがに俺の前では堪えてるような細かい声まで、ツォンさんの前では出しちゃう訳か。素直は結構。

できればその技、伝授して欲しいくらい。どこら辺をどのくらい弄ったら坊ちゃんが一番感じるのかってのをさ。って言っても俺も自信が無いわけじゃないんだけど。

『あ…っ!ツォ、ンッ…そこ、ッ…ぁん』

『此処、良いですか…』

『んっ…う、ン…っ』

って、前言撤回。“此処”がドコか教えて欲しいね、坊ちゃん。

俺にはそんなこと言わなかったくせに。

ツォンさんはそんなに大切って訳だ。全部知ってて欲しい、って?

泣けるね、可愛らしすぎて。

でもさ、坊ちゃん。やっぱ良いよ、その声。

俺まで興奮してくるんだぞ、っと。とはいえ、ツォンさんの声で現実に逆戻り。

何せ俺はそこにはいない。

俺はツォンさんじゃない。

ゲーム②は忍耐力が必要。これは最重要項目。

で、結果発表。

―――――――ギブアップは俺の方。

THE END。とはいえまあ、俺はまだまだしっくり来ない。って訳だからゲームは繰越。

また第③ゲームまでサヨナラ。

通話ボタンを切るにして、さてこれはどうしたもんか。

坊ちゃん、それは酷いってな話。

この俺を興奮させた上に、こんなことまで思わせてさ。だから俺、まだまだ許せないな。

ツォンさん、悪いね。

でも答えは坊ちゃん、その心の中にあるんだって事、忘れないで欲しいんだぞ、っと。

誘ってきたのは、俺じゃないってね。

 

 

 

ゲームその③、これは事情聴取。

たまにはこんなのも必要。って訳で俺はいつものようにタークスな部屋でツォンさんを見ながら一服ふかしてる。此処最近の神羅の暇さったら無い。

それでもツォンさん、偉いよ。

いつでも主任としての自覚はバッチリなんだぞ、っと。確かに主任としては100点。でもどうかな、坊ちゃんの恋人としては、さ。

「ツォンさん。昨日って何してた?」

「昨日?…ああ、用事があって。何か問題があったか?」

「いや、別に」

なるほど、やっぱり坊ちゃんとのことは極秘って訳。っていうかさ、知ってるんだけど。

しかも聞いちゃったし。

さてさて此処からが本番。ツォンさん、どこまで紳士でいられるかな?

「副社長にさ。結構、なつかれてるんだけどさ。俺、手出して良いのかな。どう思う、主任?」

「え?」

ほら、顔なんか顰め出した。そりゃそうだ。昨日あれだけ確かめ合ったんだから当然。

でも嘘も時には効果絶大。だって人の心は見えない。

「色々相談されちゃってさ。だから俺、慰めてやろうかなーとか」

「…俗な話だな」

ふーん、そう出るか。確かに俗なんだぞ、っと。でもそんなに余裕な顔してて良いのかな。

「ツォンさん、聞いてくれよ。その相談ってのがこれまだディープ。ま、ゴシップみたいな話だけどさ」

「何だ」

うるさい、って顔。まあまあ聞く価値アリだって。

「何でも副社長、ずるずる続けてる関係があるんだって。それをさ、切りたいけど切れないって話でさ。だから俺、言ってやったわけ。…そういうの、同情って言うんだって…な」

「……」

ツォンさん、手、止まってるよ。どうしたのかな、っと。余裕はどこかに飛んだ?

それとも―――――不安?

そりゃそうだ。ツォンさん、坊ちゃんに浮気する余裕与えたの、ツォンさん自身だって気付いてる?

っていうかまず、そんな事実、知らないだろうけど。

まあ余裕っていうか、寂しくさせたっていうか。まあ人の心は分からないから責めるのも微妙。

「なあツォンさん、そういうのってどう思う?すっぱり切るのが筋…だよな?」

「……さあ…な」

「そうか?だってさ、好きでもなんでも無いって気付いて関係続けてくっての、おかしいんだぞ、っと。…ま、それに気付かない相手も相手だって、思うけど」

「……あ、ああ」

大丈夫大丈夫、だって坊ちゃん、ツォンさんのこと100%愛しちゃってるし。

でもこれはゲーム。しかも極悪非道の罰有りゲーム。猜疑心バリバリの心なんか見せようもんならゲームオーバー。神羅内人生ゲームもその場でストップ。

さてツォンさん、どうする?

坊ちゃんを疑うか、それとも貫き通すか。といっても掘れば掘るほど穴は広がるって具合。何せヤバイ真実そこらにゴロゴロ。例えばそ、目の前の俺。俺もそう。

で、答えをどうぞ。

「悪い…少し、席を外させてもらう」

「あ、そう?」

それってやっぱり確認なのかな、っと。って事は、だ。これはツォンさん、逆行気味って事。疑いだしたら止まりゃしないって。

でもこうなったらゲーム③は俺の勝ち。

だろ、ツォンさん。

 

そんな訳でゲーム④。これは修羅場ゲーム。

俺は何でも良いけど結構に見物。

もしも此処で坊ちゃんが肯定したらゲームは終了。ツォンさんが許そうものならそれこそゲームは意味をなさない。

で、もしもツォンさんが許さなかったらこれは俺の勝ち。坊ちゃんが否定すればゲームは続行。

俺は三番目がお好み。そうなったら俺はツォンさんから伝授してもらうけどな。勿論、それは色々と、ね。

さて。どのレールを進むかな。

ツォンさんは予想通り副社長室に足を向けてる。ツォンさん、意外と情熱家だな。

やっぱり気になるよな。こんなに好きなのにまさか、ってさ。

確かにまさかな展開はあるんだけどさ、でも心は綺麗なもんだ。坊ちゃん、俺と寝たのはツォンさんが好きだからだもんな。

ま、それをどう上手く説明するかが問題。未来の神羅社長殿、お手並拝見。

副社長室に入る前にツォンさんは几帳面にノックなんかしてる。それから「失礼します」とか丁寧な言葉。俺とは大違いなんだぞ、っと。

悲しいかな、これ以上は聞けないな。

…と、それは大間違い。

何て言っても俺、タークスだし。甘く見てもらっちゃ困るってわけ。俺はさっきツォンさんにこっそり盗聴器なんかをつけてたんだな。

だからこれでバッチリ声はキャッチ。

『ツォン?どうしたんだ、一体』

『すみません、少し…お時間を頂けますか』

良いね、慎重に越した事は無いよな。

『ああ…構わないけど。座ったらどうだ?』

『いえ、結構です』

ツォンさん、切り出し方は肝心なんだぞ、っと。坊ちゃんだって急坂転がり落ちたくはないもんな。

『…ルーファウス様。失礼なのは承知の上で…お伺いしても宜しいですか』

『何だ』

『…レノと…』

『…え?』

ツォンさん、最高。俺の名前で止めたところは大絶賛。多分ツォンさん、他のことが言いたいんだろうけど、坊ちゃんの頭の中は別物がグルグル。って事は。

『レノ、が…何か言ってたのか…?』

『ええ、まあ』

『……』

なるほど、声は荒げずだんまりって訳。ちょっと大人のノーコメント。

でもこれって俺には不都合50%ってトコ。だって俺は今、疑われてるわけだし。

とはいってもゲーム主催者としてはこのくらいリスクは必要だな。

『…それで、お前は私を責めに来たというわけか』

『責める?そんなつもりはありません。ただ、貴方がどうされたいのかが知りたい』

『どうしたいか…?私に決めろというのか』

『そうです。貴方の決断にお任せします』

『……責任は私にあるんだぞ。そんなこと…できるものか』

『いいえ、仰って下さい』

『そ…れを言ったら、お前はどうせ私を蔑むんだろう…?都合が良いと、そう思うんだろう…?』

『仰って下さい』

これはなかなか感服な展開なんだぞ、っと。お互い核には触れずに明後日の方向に話が進んでる。しかも幸運なことに明後日は全然別口の明後日って訳か。

大人なノーコメントも考えものって事。

ほらほら、ちゃんと言葉で言わないからそうなるんだ。ま、俺には良い感じだけど。

『…悪かった。本当に、私がどうか…してた』

『―――――関係自体に?』

『…ああ』

『では、関係は間違いだったと?』

『……ああ』

あーあ、言っちゃった。

坊ちゃん、それ、エンドマークつけたって分かる?

俺とじゃなくて、勿論、ツォンさんと。

 

 

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