ある初夜のこと【ルドルー】

ルドルー

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■POP~SWEET●SHORT

ズバリ初夜についてのお話。心の準備がなかなかできないルー様と、それを延々と待つルード。


ある初夜のこと:ルード×ルーファウス

 

ある夜のこと。

その部屋にはベットがあり、そのベットの上に二人は座っていた。

二人は今、一切の服を脱ぎ払い、裸のままベットサイドに座っている。ここまでくればこれから何が始まるかはお分かりだろう。

――――が。

どうやら開始のゴングはなかなか鳴らないらしい。

 

「ちょっと待て。その…つまり、心の準備というものが必要だ。そうだろう?」

「はあ、まあ…」

 

ベットの上、裸にまでなって、今更何を言うのだろうか。

ルードはルーファウスの言葉に内心首を傾げた。

今日こそは初夜だとか何だとか言うもんだから、こちとらそれほど急いではなかったのにわざわざこのシチュエーションになったはずなのだが、その当人がいざとなったら萎縮するというのはどういったことなのだろうか。

 

実際、ルードとて恥ずかしいことには変わりなかった。

馬鹿馬鹿しい話ではあるが、やはり好きな人との初めての夜というのは緊張をする。今までの経験の有無に関わらず、上手く出来るかどうかだとか、満足させられるだろうかだとか、そういうどうでも良い事が気になってしまうのだ。

それを抱えながらこうしてベットの上で裸になっているというのに、待てだとかいうのはちょっと悲しい。まあ、待てと言われれば待つまでなのだが。

 

「…それで、どのくらい待てば?」

「どのくらいって…それは勿論私の心の準備が出来るまでに決まってるだろう」

「…なるほど」

 

で、それはいつくらいになりそうですか?

ルードはそう聞いてみたかった。

しかしどうせ同じ回答が返ってくると分かっているので敢えてそこは突っ込まなかった。

 

そうしてルーファウスの心の準備が終わるのを待つこと三十分。

ルードは実に和んでしまったものである。

ついつい茶などを飲み、寒いからといって上着を羽織り、音がないのは寂しいからといってテレビなどをつける。――――この時点で大分目的を見失っていることは間違いない。

それでも真面目なルードは、もしかしたらそろそろルーファウスの心の準備が出来たかもしれないと、チラチラチェックをしていたものである。がしかし、ルーファウスは一向にOKサインを出そうとしない。

ベットの中、毛布に蹲り、いつまでもモジモジやっている。

一体何なのだろうか?

 

「…あの、ルーファウス様」

「な、何だ?」

「…そろそろ、心の準備はできましたか?」

「馬鹿。私が何も言っていないということは、まだということだ。ちょっとくらい待て」

「はあ、まあ…」

 

ちょっとくらいって、ちょっとどころか大分待ってますが。

というか、初夜だと喚いていたのはむしろルーファウス様の方では?

ルードはそう突っ込みたくて仕方なかったが、やはり同じ回答が返るだけだと思い、それ以上を言わなかった。

 

そんなことをしていたらとうとうと時間は過ぎていき、ベットを前にしてから早一時間が経過してしまった。カップラーメンが二十杯は出来る時間である。その内十八杯くらいは食べ終わっているだろう。

すっかり寛ぎモードで日曜のパパ状態に陥っていたルードだが、何とか自分の置かれている状況を思い出してルーファウスにこう尋ねた。

 

「…あの。さすがにもう大丈夫ですか?」

「馬鹿者、そんな小一時間で心の準備が出来たら警察など要らないだろうが」

「…はあ」

 

どちらにしろ警察は関係ないのでは?

そう思ったが敢えてそれは口に出さない。というか、まだダメなのか。一時間も経ったのに。

これはもう、二時間経とうが三時間経とうがルーファウスは心の準備など出来ないだろう。そう踏んだルードは、その日を初夜だなどと思うのは止めることにした。それよりも段々と眠くなってきてしまい、今日は頑張るよりも眠るほうが得策に思えてきたものである。

一方、ルーファウスは相変わらずベットの中でモジモジやっている。

 

「…すみません。少し眠ってて良いですか?」

「は?」

「…心の準備が出来たら起こしてください」

 

ルードはそう言うと、ルーファウスがモジモジやっているベットの中にするりと入り込んだ。そうして、すっかり寝る体勢になって目を閉じる。

しかしそんなルードを、ルーファウスが黙って見ているはずが無い。何故って、ルーファウスは今日こそ初夜にすると決めたのだ。それなのに、相手にこんなにヤル気が無いなんて許されるはずがない。

 

「おい、本当に寝る奴があるか。お前ときたら何でそう初夜に対する気合いが足りないんだ。良いか、意気込みや熱意が大切なんだ。これからの発展と未来への展望がだな…」

「…此処は会社じゃないですよ」

「会社も恋愛も一緒だ。お前の気合が足りないから心の準備が出来ないんだ」

 

そんな理屈などあるはずが無い。

だったらじゃあ、どうやって気合を入れれば良いのだろうか?

そう思いルードは首を傾げる。現時点でもう小一時間は待った後なのだし、今更気分を盛り立てろといってもなかなか難しい話だろう。

しかし、たった一つだけ味方があることにルードは気づいた。

 

「…俺が気合を入れれば、心の準備が出来るんですか」

「ああ、勿論」

「…そうしたら、OKなんですよね?」

「ああ、当然」

 

なるほど。

ルードはうんうんと一人で納得して、現状たった一つ自分の味方となっているものを最大限に活かした。

 

「――――…じゃあ。失礼します」

 

がばっ!

ルードはそう言って、同じベットの中にいるルーファウスを急襲した。

そう…ルードのたった一つの味方はこのベットだったのである。

何しろ同じベットの中にいるのだ。そしてルーファウスは裸のままなのだ。何てことは無い、そのまま襲ってしまえば良いのである。

 

「ば、ばか。急襲だなんて失敬だぞ、ルードっ」

「…でも。こうでもしなきゃ一生できませんよ。それにこれが俺の気合です」

「くそう…!」

 

ルーファウスは随分と悔しがっていたが、結局ルードの気合に負けたらしかった。

ベットを前にして一時間と数十分後、ようやく初夜がスタートする。

こんなに簡単なことなら最初からこうしていれば良かったと、一時間と数十分を後悔するルードであった。

 

END

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