リングを贈ったことからかなり話が飛躍してしまったその日、偶然にもルーファウスに誘われたツォンは、仕事あけに少し食事をすることになった。
精神的にかなりキていたツォンとしては軽いものしか食べる気分ではなかったが、悲しいかなルーファウスはさも高級そうなステーキ屋にツォンを運んだ。そんな訳だからその日はしっかり夕食をとるハメになる。
さすがに今日のことで少しルーファウスに対して怒っていたツォンは、そのステーキを口に運びながらも小言のようなことを言い始めた。
「ルーファウス様…今日は散々そのリングの事を言われましたよ。駄目じゃないですか。あれほど言うなと言ったでしょう」
「え、何で?良いじゃないか、喜びは分かち合わねば」
「…いや、だから。そういう喜びは一人でかみ締めて下されば結構です」
「えー…でも」
「でもも明後日もありませんっ!」
「じゃあ明々後日は話しても良い?」
「……」
思わずツォンは肩をがっくりと落とす。ついでに溜息なんかも吐いてみる。
しかしルーファウスにはてんで効果がないようで、何も無かったかのようにニコニコしてステーキを食べている。
それを見つつツォンは、どうしたら良いものかと悩んだ。
ルーファウスはきっと悪気があるわけではないのだ。ただ嬉しいと思ったことを誰かに話したいというだけのことで、それがその後にどれだけツォンを疲れさせているかなど知らないのである。というか何故疲れるのかも分かっていないのだろうが。
少しくらい脅してみた方が良いのだろうか…そんな事まで思う始末である。
「ツォン、ちゃんと食べろよ」
あまりにも考え込んでいたせいか、ルーファウスは突然そんなふうに言う。
「あ、ああ…そうですね」
いけないいけない、一応これでも好きな人の側にいれる貴重な時間なのだから。
そうツォンが思いなおしてステーキの一部を切り始めると、その隣でルーファウスはニコニコ笑いながらこう言葉を続けた。
「体力が消耗するとわかっているからには食べないとな」
「……は?」
「何が“は?”だ。分かってるくせに、嫌らしい」
「いっ…嫌らしいって!」
誰がいつどこでそんな予定を組んだんだ?
ツォンはすかさずそう思ったが、しかし答えは簡単だった。そんなの一人しかないではないか…ルーファウスしか。
食事に行こうというから素直にそれだけかと思いきや、どうやらルーファウスの中では更なる予定が組まれていたらしい。…そう、だからステーキ……重過ぎる。
はっきり言って心身ともにお疲れ気味だったツォンは、今日はさすがに、と断りでも入れてみたかったが、どうもそれは出来なかった。
―――何故って。
やっぱりそれでもルーファウスは、ツォンの大切な人だったからである。
そんな訳で食事を順調に終え、更にはそれなりの事も順調に終えてしまったりする。
ルーファウスがあらかじめ取っておいたらしいホテルのスイートなぞで、二人は“食後”の一服などをしていた。
ぷかりと煙を吐きながらルーファウスは満足げである。
それを見て、ツォンも何となく満足な気分になる。
本当は今日のこともあったし、実際にお怒り気味だったし、怒鳴り声一つ上げても良いはずだったが、こういう時はどうしてもそういう気持ちがすっと消えていってしまう。本当ならツンケンなどしたくないのだから、これはこれで良いのかもしれない。とはいっても、後のことを考えると気が重いような感はある。
「今日は泊まっていこう」
満足そのものの顔でルーファウスがそう提案したのに対しツォンは、何となく雰囲気に流されてそれも良いかななどと思っていた。
しかしふっと明日の仕事内容のことなどを考えていたら我に返り、それはいかん、という事に気付く。
―――――そうだ、そんな事をしたらそれこそ大事ではないか。
もしこのままお泊りコースでいけば、予想では明日はこんな具合になる。
【①朝、ルーファウスが満足げにレノとセフィロスに話をする】
ルーファウス:『昨日はホテルのスイートで朝まで一緒だったんだ(自慢気)』
レノ:『ってことは朝帰り?っていうか一緒に出社なんだぞ、っと(驚き)』
セフィロス:『俺には真似できんほど恥ずかしいことをするな(いつものパターン)』
ルーファウス:『それで昨日は精力付けに食事はステーキだったんだ(やはり自慢気)』
レノ:『うっわ~じゃあ夜はフィーバー(死後)だったんだぞっと!(更に驚き)』
セフィロス:『そのカロリーを消費するとなるとかなりの…さすがはツォン(一人納得)』
【②レノと会い、話をする】
レノ:『ツォンさん~(いつもの口調)』
ツォン:『…何だ(冷静を装う)』
レノ:『昨日はステーキのカロリー消費するまでフィーバーだったんだって?(ニヤ)』
ツォン:『…あのな(既に疲労度50%)』
レノ:『ホテルのスイートをこっそり予約なんて嫌らしい~』
ツォン:『待て、予約したのは私ではない!(否定その1)』
レノ:『え?じゃあ副社長が予約してたホテルに押しかけたんだ?(勘違いその1)』
ツォン:『だからそれは違うと言ってるだろう!?(否定その2)』
レノ:『うっわ…ツォンさん極悪。それで朝まで帰さなかったんだ…(勘違いその2)』
ツォン:『……(諦め)』
レノ:『朝までか…さすがの俺でも体力持たないんだぞっと(勘違いの確定)』
ツォン:『……(疲労度100%)』
【③セフィロスと何故か会ってしまい、また同じ会話をする】
セフィロス:『ツォン…昨日は朝まで酒池肉林だったらしいな。さすがはお前だ、俺には恥ずかしくてできんからな』
ツォン:『おい待て、その酒池肉林というのはどこから…(無駄な抵抗)』
セフィロス:『ルーファウスが仕事で予約しておいたホテルに押しかけるまでは良い。しかしそこで更に、酒に酔わせて襲うとは…いや、これ以上は言うまい。愛というのは時に過酷なものだ。過酷といえばお前の体力消耗度も過酷なものがあるな。しかし、ツォン。いくらルーファウスが朝までねだってきても、どこかで休憩が必要だぞ。大体ルーファウスも底を知らんようだからな(マシンガントーク)』
ツォン:『いや、だから。酒だとかそういう事実もないし、それに私は…(無駄な抵抗)』
セフィロス:『しかしお前には感心するな。いつも事を済ます時はホテルのスイートなのだろう?まあ相手が相手だからな、そのくらいでないと満足せんだろうがな。しかもアレか。やはりそれなりの満足をさせるという点では、そのほかにも色々用意してるんだろう?ああ…何ていう世界だ。俺には関係ないが、お前達の夜は…いや、良いんだ。否定などせんで良い(勝手な解釈、そして納得)』
ツォン:『あのな、だから全部話が違……(更に抵抗)』
セフィロス:『そんなお前にこれをやろう。これで今日の夜も乗り切ってくれ。しかし毎夜となるとお前も苦労するな(余計な気遣い)』
ツォン:『……(手の平にタフ○ン)』