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■SWEET ●SHORT
やたらとねだるルーにツォンは溜息ばかりだったけど…。
寂しい恋人:ツォンルー
リフレッシュルームまで降りると、大概目に付くのは、何気なくデキてる社員達。
それを通り過ぎる度に、ルーファウスは何気なく盗み見などをしていた。
“わあ、ありがとう!”
“大切に使ってくれよな”
“うん!”
男は、自分の恋人に小さな箱を渡していた。その箱を開けて恋人は嬉しそうにそれを耳に付けた。
ピアスだった。
大切そうにそれを撫でる顔は、本当に幸せそうだった。
それを見て、男もとても幸せそうに笑っていた。
仕事中に何故か呼び出されたツォンは、渋々ながらルーファウスの元まで足を運んだ。一体何の用事だろうと思う。正にこれから仕事で出かけようとした矢先の出来事だったので、ツォンは少し不機嫌だった。
いくらルーファウスの呼び出しでも、TPOくらいは弁えて欲しい。それがツォンの言い分で、はっきり言って全くその通りだった。
ルーファウスの元までやってきたツォンは、それでも丁寧にノックをした後にその部屋に入った。まだ午後の仕事が始まったばかりだから、ルーファウスもそれなりに仕事があるはずである。
しかし、入ったその先でツォンが目にしたのは、すっかり出かける用意をしたルーファウスであった。
目が点になる。
「あ…の、一体何を?」
思わず第一声がそんなものになってしまう。しかしルーファウスはそれに対して、ああツォン、などと言ってにっこり笑うと、
「さ、行こう」
と、ツォンの腕をがっしり掴んだ。全く意味が分からない。一体どこにいくというのか、しかも勤務時間内に。
「ちょ…!どこに行かれるおつもりですかっ!?」
「ん?ショッピングだ」
「はあっ!?」
また何を訳のわからないことを言い出すかと思えば…ツォンは溜息をついた。冗談も大概にして欲しい。何せツォンはこれから仕事の用事で外に出るつもりだったし、ルーファウスだとてそんなことをして許されるわけが無い。
とはいえ、ルーファウスは一度言い出したら聞かない人だった。
結局そのまま引きずられるようにして連れ出されたツォンは、ルーファウスの言うショッピングに付き合うことになってしまった。ショッピングとはいっても大概ルーファウスの場合は身分のせいか馬鹿高いものを買うことが多く、ツォンとしては今日はまた何をかうつもりなのかと首を傾げるしかなかない。
高級織の絨毯とか、目が飛び出るくらい高いティーカップセットとか、そんなものしか思いつかない。
が、意外にもルーファウスが入って行ったのはいかにも庶民なアクセサリーショップだった。…しかも若い女性向けの煌びやかな店である。
「あの…一体、何を買いに来たんです?」
恐る恐る聞にこう言った。
「見れば分かるだろ?」
確かに店内はアクセサリーばかりである。というかアクセサリー屋なのだから当然だが…。
しかしそれにしても神羅の副社長ともあろう人がまさかこんなところに来るなんて信じられない。いつもだったら、超高級店で、マンツーマン接客が即付いて買い物をする人である。
首を傾げるツォンの前で、ルーファウスはもう既に品定めをしていた。しかも何だか相当真剣な面持ちである。
「…変な人」
何となく可笑しくなって、ツォンはそう言いながら少し困ったような笑いを漏らした。さっきまで怒っていたのに、こうしてすぐ許してしまうのはやはり惚れた弱みとかいうものだろうか。そうなら少し悔しい気もする。
とにもかくにも此処で買い物を済ませればもう気が済むんだろう、そう思ってツォンは時間を計っていた。何せこの後も仕事がある。
が。
「ツォン、これ。買ってくれ」
「――――は!?」
ルーファウスはにっこりと笑ってツォンに一つのピアスを差し出した。それはチェーン状で、銀のピアスだった。…というのはどうでも良いとしても、問題はその後の言葉である。
買ってくれ、とは何事か。
「わ、私が買うんですか?」
「良いじゃないか、プレゼントで」
「…って。別に今日は特に何も無い日じゃないですか」
そこまで言うと、ルーファウスは少し怒ったような顔をした。それから、
「何で。何も無い日はプレゼントは買っちゃいけないものなのか?」
そんな事を言う。
確かにそれは一理だった。別に特別な日だからといって何かを渡さなくてはならないという決まりも無ければ、その反対も勿論無い。
しかしそれはそれとしても何故いきなり、と思う。しかもツォンが何かを買おうとしたのではなく、これでは単に強請られただけという感じである。というか、正にそうだった。
しかし、さすがにピアスは普通のお値段で、別に臨時支出とはいってもそう大したものでもない。
ツォンは溜息をつきつつもそれを受け取ると、レジまで持っていって会計を済ませた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ルーファウスは大層、喜んだ。いつもつけているピアスに比べると、どう考えても質は劣る。それなのにルーファウスはそれがさも大事かのように笑った。
その日以降、ルーファウスはそれを気に入って付け続けた。
また別の日の事。リフレッシュルームの前を通りかかったルーファウスはまたチラリと社員達を盗み見ていた。
相も変わらず、何気なくデキてる社員達が何かを話していた。
“ずっと一緒にいてくれる?”
“当然さ。君は僕の全てだからね”
“じゃあ、絶対に他の人は好きにならない?”
“当然じゃないか。僕には君しか見えない”
口から砂が出てくるんじゃないかというほど甘い言葉を吐きながら、恋人達は手を取り合った。
見詰め合う二人は、本当に幸せそうな顔をしていた。
またもや仕事中に何故か呼び出されたツォンは、またもや渋々ながらルーファウスの元まで足を運んだ。今度は一体何の用事だろうと思う。今回もまた正にこれから仕事で出かけようとした矢先の出来事だったので、ツォンはやっぱり少し不機嫌だった。
とにもかくにもルーファウスに呼び出された先まで赴くと、ツォンはなるべく落ち着いた調子でルーファウスに声をかけた。神羅の中庭である。
「ルーファウス様、何でしょう?」
ルーファウスは中庭でちょこんと座っていた。時間はやはり今回も午後勤務が始まった時間で、どう考えてもこんなところにルーファウスがいて良い筈は無かった。
ツォンがやってきた事を知ると、ルーファウスはにっこりと笑って、自分の隣に座るようにジェスチャーする。仕方なくその通りにすると、ツォンは重い溜息を付きながらルーファウスを見遣った。
一体何なんだろうか。
今日もやはりこれから出かけようとしていた矢先の呼び出しだったので、何というか落ち着かない。急がねばならない時なのに、なんという事か会社の中庭でのんびり座ったりなんかしているのだ。落ち着くわけがない。
用事があるなら早く言って欲しいと思い、ツォンはルーファウスに話の催促をした。
「で、何でしょう?」
そう話を急くツォンに、ルーファウスは突然真剣な眼差しを向けた。思わずツォンはドキリとして、身を離す。しかしそう離した体から右手をさっと取られる。
ルーファウスはその手に自分の手を重ね、ツォンに向かってこう言った。
「ずっと一緒にいてくれるか?」
「――――――は!?」
何を突然訳の分からないことを言ってるのだろうか。はっきり言ってツォンは混乱した。
仕事の話ならともかく、いかにもプライベートな話である。しかも内容といったらかなり重い。まだ普通に“好きと言って欲しい”だとかの方がマトモだった。
というかそんなことを比べている事態ではないな、とツォンは思い直し、ルーファウスの手を取り払う。それから、幾分強くこう言った。
「ルーファウス様、そんな事は今は関係ないでしょう。仕事中なんですよ?」
しかし、そのツォンの言葉にルーファウスは怒ったような顔つきになる。
「そんな事って何だよ。お前にとって俺と一緒にいることは“そんな事”なのか?」
「え、そ、そういう意味じゃないですよ!…ですから。状況を考えると、それは今話すべき事じゃないと申し上げてるんです」
「嫌だ」
ツォンは思い切り溜息を付いた。どうしてこうなんだろうか。言い出したら聞かないのは分かっているが、それにしても内容が内容すぎる。ただでさえ言い難いことを、こんな時に言えというのだから困ってしまう。
それでもツォンは仕方なく、その答えを口にした。とはいえ、それははっきり言って保障の無い言葉である。
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