01:相談の夜
好きだなんて、とても言えない。
いつも優しく側にいてくれる…仲間の一人。
あの人に、伝えたい。
本当の気持ちを。
でも――――。
きっと、嫌われる。
好きだなんて、言えない。
その話を持ち出したのはティファだった。
ある日の夜、彼女は心配そうな顔をして、あることをヴィンセントに告げる。その内容は至って簡単なものだったが、彼女からすれば、だからこそ不安だったのだろう。
きっと男の人のほうが探りやすいでしょう?
そう言ったティファは、仲間内の男性のなかでヴィンセントを選んだ。
「ごめんなさい。変な事に引きずり込んじゃうみたいで…」
「いや、かまわない」
ティファは申し訳無さそうな顔つきをしながら、いつもと変わらずに冷静を保っているヴィンセントをチラリと見遣る。
それから、少しした後にこう言った。
「クラウドの事なんだけど…」
「ああ」
その辺については大体察しがついている。もしクラウド以外の人間についての問題ならば、ティファはきっとクラウド自体に話を持っていくだろう。
つまり、相談相手として自分が選ばれたこと自体が、すでに“クラウドには言えない事”であるのを示していた。
「何か最近…変なの」
「変?」
「うん、何か…いつも暗い顔しちゃって、しかも夜はふらっと何処か消えちゃうし…」
――――ああ、そのことか。
実のところ、それについてはヴィンセントも薄々感じており、確かに気になっていた。
出会いから数週間、やっとクラウドという人間とマトモにコミュニュケーションが取れるようになってきたヴィンセントは、その直後に急に態度がおかしくなったクラウドに気づいていたものである。
最初はクールそうに見えたクラウドも、徐々に笑顔が見られるようになり、ああ、彼の本当の姿はこれなのか、などと思っていた。
ところが、ここ数日はにこりともしない。
なんとなく違和感は覚えたものの、だれしも踏み込んではいけない領域というものがある。だからヴィンセントは深く考えないようにしていた。
そもそもクラウドにとってのこの戦いの目的を考えれば、笑んでばかりもいられないというのが本音だろう。そういう観点からすれば、クラウドの表情から笑顔が消えるのはさほど不思議ではない。
…しかし。
「しかも、その…何ていうか…」
続きを言いよどむティファに、ヴィンセントはごく真面目な顔で催促をする。
「何だ?話してくれなければ私も動けない」
「そ、そうよね…」
ティファは頷いてそう言ったものの、まだ少し躊躇っているらしい。どうも言いにくそうに口をもごもごさせている。
一体なにがそんなに言い難いのだろうか?―――そう思いヴィンセントは首を傾げる。
そんなヴィンセントの前で、ようやく決心がついたらしいティファが、ぼそりとこう口にした。
「クラウド…最近、夜に出かけるの。しかも誰かと一緒にいるみたいで…それは仲間の誰かとかじゃなくて…知らない人で。女の人の時もあれば、男の人の時もあって…それで、何かこう…」
「何かこう…?」
「……その、そういう所に入っていったりするんだけど…」
「そういう所?」
その先はさすがのティファも口を噤んでしまった。だが、そこまでで十分話の内容は分かる。
今しがた聞き知った内容を頭の中で整理したヴィンセントは、これはどう説明すべきかと迷いつつ床の一点を見つめた。
目前にいるのは、成人しているとはいえ女性である。つまり今問題なのは、仲間としてというより男としてどう答えるべきか、ということだった。
真夜中にでかけ、見知らぬ男女と”そういう場所”に行く―――それが示すのは一つだろう。
要するにクラウドは、性欲を満たそうとしているのではないか?
そうハッキリ言ってしまえばそれで良さそうなものだが、ヴィンセントにはどうもそれが躊躇われた。果たしてクラウドに想いを寄せているであろう彼女にそれを告げていいものだろうか…それが気がかりで。
ヴィンセントが返答に窮しているのを見たティファは、慌ててこんなことを言う。
「あのっ、分かってるわよ。その、男の人の…何ていうか、そういう所は。だけどそうじゃなくて…その、本当にそれだけなのかな、って。それだけであんなに暗くなる必要って無いでしょう?…だから他にも何かあるんだと思うの。だけど私…その、それ以上は入っていけないから…」
「…ああ…」
確かにそれはそうだ。夜中に女性一人でそういった場所に出向くなど、例えクラウドの尾行をするにしても無理があるだろう。
「それで、私に調べて欲しいと…そういう訳か?」
「うん…ごめんなさい」
頭を下げてそう言うティファを見ながら、ヴィンセントは「分かった」と告げた。
ここまできてようやく、なぜティファが相談相手にほかの男ではなく自分を選んだのかが明確になった気がする。このような内容では、バレットやシドに話すのが躊躇われたのだろう。
クラウドの不可解な行動には、本当に性欲処理以外の思惑があるのだろうか?
単なる欲求では無く…何か別なものが?
――――確かにそれはとても気になる。
だがそれとは別に、生々しい現実に嫌気がさす気もした。同じ男として気持ちは分からなくも無いが、女性に気付かれるほど脇が甘いのはさすがに困りものである。
「あとは私が探りを入れよう。ティファはこれ以上、踏み込まなくて良い」
「うん…ごめんね」
「いや―――」
答えながらヴィンセントは、明日にでも直ぐに行動に移そうと思った。
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