■SERIOUS●SHORT
俺たちは、認められるはずがない関係だったし、そもそもあってもならない関係だった。
このじめじめとした路地裏。
建物と建物の間の、暗く細長い光の当たらないこのスペース。
こんな場所は俺にこそぴったりだ。だって何だか俺に似てるだろう。そして俺たちの関係にも。
「手が早いって聞いてたけど、意外と紳士なんだね」
「手が早いだと?…一体誰がそんな噂を」
ある日、ある路地裏で。
俺はセフィロスと密会をする。
本当に細い路地裏だから光があまり入らない。特に俺は奥の方にいるから、セフィロスの顔がうまく見えなかった。恐らく、あまり良い関係ではないから神様が意地悪をしたんだろう。
「全く…。男だらけだというのに、女々しく讒言を流布する輩が多いというのはいかにも問題だな」
「そうだね。だけど、火の無いところに煙は立たないっていうよね」
「俺を怒らせたいのか、クラウド?」
「嘘、ごめん」
俺が口にしたことは本当。
神羅の中では、事実そういう噂も蔓延してる。
だけど実際にセフィロスと仲のよい人は必ずそれを否定する。それは勿論、その噂が根も葉もない嘘だからなんだろう。俺も、セフィロスは真面目な人だと思ってる。
だけど俺は、俺の持ってるその考えを100%信用するわけにはいかないって、心のどこかではそうも思ってるんだ。理由は歴然だろう。だって俺は今どこにいる?路地裏だ。誰の目にもつかないような路地裏にいるんだ。
セフィロスが真面目な人だということは分かる。
分かるけど、俺はセフィロスとキス一つするのにこんなふうに路地裏にまで出向かなければならないんだ。それは、俺たちが非公式な関係だから。許されない関係だから。
それは性別とかそういう問題ではなかった。それ以前に、セフィロスがそうしたがったんだ。つまり俺は、誰にも知られちゃいけない存在。隠された存在だ。こういう秘密裏を楽しむ人もいるんだろうけど、俺はそういうふうにはできない。
「あのさ…前の人とも、やっぱりこんなふうに路地裏に来てた?」
「何?」
「だから…さ。前、付き合ってた人。いるでしょ?――その人達とも、こういう路地裏で会ってたの?」
俺がそう聞くと、セフィロスは少し経った後に「いや」と否定の言葉を返した。俺はそれを聞いて、想定内の返答であったことに満足を覚えると同時に、本来は想定したくもなかったその返答が現実のものとなってしまったことへの大きなショックを感じていた。
「此処では不満か、クラウド?」
「…ううん」
俺はゆっくりと首を振った。そうすることしかできなかった。
本当は不満だけれど、そう言った後に何かを失ってしまうのは嫌だった。それに、そう言ったところで何も変わりはしないことを、俺は何となく知っていたんだ。
「二人きりでいる方が落ち着くんだ。あと少し此処にいよう」
「うん」
セフィロスはそう言って俺のことを抱きしめた。長身のセフィロスの抱きしめられると、そこは路地だったし光も満足に入ってこないから、もうとにかく暗闇のようだった。
それでも俺が少し頭を動かして目線を上にやると、セフィロスの銀の髪の隣に、ほんのりと太陽の光が見えた。
建物と建物の間だけ見てる、切り取られたような太陽。
「セフィロス…俺は幸せだよ」
セフィロスと抱きしめあっているとき、こうして太陽が見えるんだよ。ほんの僅かな、切り取られたような太陽。俺は大好きな人の体温を感じながらぼんやりと太陽の破片を眺める。そして思うんだ。
セフィロスと出会う前―――俺はニブルヘイムに住む弱虫だった。
だけどね、セフィロス。
そんな俺でも、あの頃は満天の星を見てたんだよ。空一面の、妨害するものなんて何もない、キラキラ光る星を見てた。それはとても綺麗だったんだ。
あれから何年か経って…。
俺はセフィロスと出会って、弱虫でもなくなって、それなりに自分に自信を持てるようになったけど、どうやら俺の目にはもう一面の空は映らなくなってしまったらしい。
このじめじめとした路地裏。
俺に幸せな時間をくれる、俺にこそ相応しいこの路地裏。
そこから見える少しばかりの空は、あの頃と違って随分と遠くに感じられた。
END