二度とあのハゲヅラを拝まないと思ったのに、どうやらその誓いはすぐに破られた。
翌日、タークス本部のドアをガラッと開けて、おはよーございますって言って、その瞬間にもう既に視界の中にハゲが入ってる。
ホントさ、勘弁しろよなって思う。
それに加えてもっと勘弁しろよって思ったのは、ツォンさんからの指令内容だ。ハゲヅラ禁止の俺に向かって、ゴムタイにもこんなことを言う。
「お前の潜入捜査の件だが、ルードにも同行してもらうことになった。いつものコミュニュケーションで頼むぞ」
はいはい、そーですか。
ツォンさん、俺ツォンさんのコト尊敬してるけど、悪いけど今だけはマジ恨むから。
何だってこんな時に限ってルードと組ませるんだよ。
しかも潜入捜査って…ソレ、俺だけが担当するはずだった案件だし。とゆーか、他のタークスメンツには関わって欲しくなかったから俺がわざわざ立候補したのに。
これで全部パアだ。
よりにもよってルードとなんて、最悪だろ。
クリティカル的に最悪。
それでもツォンさんの決定に否定は出来ないし、俺は仕方なくルードと潜入捜査するハメになった。
どうせだったらその案件内容もツォンさんが伝えてくれれば良いのに、相棒だからその辺も頼むだとか何だとか言っちゃって、その説明までするハメになった。あー最悪。
とりあえず俺は、ルードを引っ張って潜入捜査の件について話すことにした。
今日からはその案件一本でイケって言うから、俺はここぞとばかりにサボることにする。シラフでハゲヅラ拝みながら説明なんかできるかっての。
――――そーいうわけで。
俺は昨日サボった喫茶店にハゲを連れていくと、今日は真っ先にアルコールをオーダーした。
喫茶店だから大したアルコールはないけど、ギリギリウイスキーがある。昔は酒場だったらしいから、その名残なんだろうけど。
だから俺は専らウイスキー。で、ハゲもウイスキー。
チョリソーもオーダーしようと思ったけど、昨日のトラウマが蘇りそうだったから止めといた。その代わり、チーズの盛り合わせをオーダーする。
最強最悪の雰囲気の中に、ウイスキーとチーズ。ノンルールの俺と、マトモなハゲ。
「…で、案件内容だけど」
「ああ」
ハゲは、昨日のことなんてどーでも良いって感じに普通に聞いてる。
それがまた俺をイライラさせたけど、そんなイライラはウイスキーで流し込んで、俺はひたすら案件内容を説明することにした。
「ツォンさんも言ってたけど、今回のは潜入捜査だ。ただ潜入するってわけじゃない。囮捜査みたいな感じだな」
「囮捜査?」
「そ。まあ囮ってったって俺らには最適な仕事だから。ツォンさん辺りがやったら最悪な結果になりそーなさ」
ハゲは何も言ってこない。
だから俺は話を続ける。
「元々は治安維持部門の管轄らしいけど、あっちが手いっぱいだからタークスに回ってきたワケだ。ま、実際は軍動かす金が勿体無いとか、軍使うくらいならタークス使えよとか、そーいう圧力があったらしいけど」
「…なるほど」
「とりあえず、リミットは一週間。最終目的は組織クラッシュとオールデリート。もし出来なかったら…って選択肢はナシ。絶対やれってお達しだ。言ってみりゃ神羅発大量殺人ってトコ。反吐が出るけどな」
「…そうか」
つまんない案件。
だけど、俺が担当しなきゃって思った案件。
だって潜入するんだ、囮んなるんだ。いや、囮っていうより、爆弾かな。俺はそこに潜入して爆弾になる。で、一瞬にしてソイツを破滅させる。
そーいう案件だ。
「ってわけだけど。何か質問は?」
「…何でお前がこの案件の担当になった?ツォンさんの話によると、もう一週間も前からお前が担当することに決まってたらしいじゃないか。どうして話してくれなかった?」
「おーおー、随分プライベートな質問だな」
やれやれ、やっぱりソコに来るか。
だから嫌だったんだ、ハゲと組むのなんか。
でも組むことになったからには仕方ないし、俺は観念して話すことにした。勿論、ウイスキーをたんまり流し込んでから。じゃなきゃやってらんないし。
「たまたまツォンさんが話してたの聞いたんだ」
あれは一週間ちょっと前のことだった。
ツォンさんが上のヤツと電話で話してて、その時俺は丁度隣のデスクに座ってた。
盗み聞きするつもりなんて無かったけど、たまたま聞こえてきたんだ。内容自体は詳しく分からなかったけど、聞こえてきた単語で俺はピンと来た。
…壊滅…
…ごろつき…
…X…
それとなくツォンさんに聞いてみると、やっぱりビンゴ。
街のごろつきの組織を壊滅しろ、って内容だった。
タークスにはタークスなりに継続的に追っかけてる案件があるから、それをやりながらこの案件に手をつけるのは難しいってツォンさんは悩んでた。
一週間くらいなら何とか目処を付けられるけど、それ以上長引くとスケジュールが付かないって。本来は治安維持部門の管轄なのに横暴すぎるって。
だから、俺が立候補した。
だったら一週間でやります、って。
絶対一週間でやってくれるかって聞かれたから、俺は躊躇いなく頷いた。
街のごろつきだったら、俺にはピッタリの案件だって思ったんだ。
だけど本当はそれ以上にその案件に関わりたい理由があった。勿論ツォンさんには言わなかったけど。
本当の理由は…。
「俺、知ってんだよ。そいつらのこと」
「…何?」
ハゲが俺を見た。
俺も遠慮なくハゲを見ると、そのツラに向かってしっかり言ってやった。
「仲間だったんだ」
「な…」
―――――な。驚いただろ?
だからだよ、だからお前には言いたくなかったんだ。っていうより言えなかったんだ。
だって、この案件は俺の過去に繋がってんだ。ルードは今の俺の相棒だから、過去の俺とは関係ない。
お前と良い相棒でいたかったから、俺の過去には関わって欲しくなかった。
分かれよな、ハゲ。