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■SWEET●MEDIUM
あの香りが漂うと思い出す…あの部屋と、あの笑顔。
ETERNITY:セフィロス×クラウド
すれ違う長い綺麗な銀髪。
“おはよう”
いつもなら普通にかけられてたその一言が、今ではもうかけられない。
“お”の口の形をして、手を中途半端な所まで上げて、俺は止まってる。
何の素振りも無くすれ違ってく、あの人。
そうだ。それが普通なんだ。
おかしかったのは今までの方なんだろう。
すれ違ったその後に、微かに残ってた嗅ぎなれた香りに、胸がとてつもなく苦しくなった。
もう俺達は何も無い、赤の他人。
そしてその決断を下したのは俺の方なのに。
何が大切だったのか、今ではもう分からないよ。
焼きついた、あの笑顔。
俺だけに見せてくれてた笑顔。
離れない――――。
簡素なその部屋は、いつも何かの香りが漂っていた。
ずっと知らなかったけれど、それが珍しいフレグランスの一つなのだと知って、俺はそれが欲しいとせがんだ。
セフィロスは“じゃあやろう”と言ってその一つを俺にくれた。
俺はそれからいつもソレをつけては喜んでたんだ。どうせ汗だくになってソレどころじゃなくなるのに、それでも毎日毎日、少量を吹きかけてはセフィロスの事を思い出してた。
だけど、その日だけはどうしてもそれがつけられなくて―――。
寄ったその部屋で、その慣れきった匂いを嗅いだときは、苦しくさえなって。
いや、それどころじゃなかったのかもしれない。
久々にその部屋をじっくり眺めてみると、何だか胸が締め付けられるほど色んなものが詰まってて、妙な感覚が押し寄せた。
眩暈がしそうだった。
いつもなら俺から、くだらない話題を持ち出すのに、その日は珍しく黙ったままの俺を気にしてか、セフィロスの方が先に口を開いた。
「調子でも悪いのか?」
「いいや、普通…」
そう思うのも当然か。俺は年中、何かしらセフィロスに話しかけてたから。
だけど実際俺は、どうしていいか分からなくて、何か話さないとって思って、どうでも良い話をしてたんだよ。
多分、セフィロスは気付いてないだろうけど…。
そうなんだ。この聡明な人はどこかヌケてて、こういう事に関しては鈍感なんだ。
それは付き合いが長くなるにつれ分かってきた事だった。
そして今俺の心に巣食ってる感情も、それが原因かもしれない…。
「でもお前、何だか暗いぞ」
セフィロスは何の気なしで俺の顔を見てそう言う。
ああ、もう!
どうしてこんな日に限ってそう優しい言葉なんかかけるんだよ。
俺はこれから言おうとしてる言葉を思い浮かべて、その視線からワザと外れるようにした。
怪訝そうなセフィロスの顔。
だけどきっとその意味さえ、この人は予想できてないんだろう―――――。
沈黙の中で、あの匂いだけが漂っていた。
口を開かない俺に、セフィロスは無言のまま俺の真正面に腰を下ろす。
フローリングは冷たいかな。俺はいつものようにソファに座っているけど、思えばソレって随分と良い扱いだったりするのかも…。
まあそれは良いとして、でもやっぱり俺はもう耐え切れないんだ。
ずっとそうだった。
今までずっと気にしないようにしてきたけど、本当はいつも耐えてたのかもしれない。
なあそうだろう、セフィロス?
だってセフィロスは―――。
「俺…もう良く分からないんだ」
「分からない?」
俺はやっとの事でそう口にする。セフィロスはといえば、静かに煙草に火なんか点けていた。本当にいつも通りだ。
「セフィロスは何を考えて俺の側にいるんだよ?俺には―――良く分からない」
近づけば近づくほど、遠くなる存在―――そんな感じなんだよ。分からないよ。
セフィロスは俺の言葉に眉を寄せて、どういう意味かと尋ねてきた。
分かってくれない―――そんなところにも苛々する。
「俺はセフィロスの“何”?」
「“何”とは何だ。何と答えて欲しくてそんな事を聞く?」
ホラ、すぐコレだ。答えて欲しい言葉は確かにあるけど、そうじゃないだろう。セフィロスの本心を知りたいのに。
何て聞けば、この人に伝わるんだろう。
俺は考えて、誘導尋問のような言葉を連ねた。
「じゃあ聞くけど、セフィロスは俺に会いたいって思う?」
その一言に、セフィロスは煙を吐き出しながら「特には」なんて言う。
―――会いたくないんだ。
「じゃあ何で俺に会うわけ?」
「お前が会いたそうな顔をしてるからだ」
何だよ、それは。じゃあ俺ばっかり会いたいって事なのか?
―――いや、そうかも。
この人はこういう人だし…。
「じゃあ…何で俺を…その、抱いたりすんの。それも俺がしたそうだから?…他に女が沢山いるってのに」
俺はそう言いながら少し空しくなった。
そうなんだ、この人には他にも相手がいっぱいいて…俺はその中の“一人”でしかない。
それほど悲しい事って無いよ、セフィロス。
そりゃ俺は男で、そのうえ未熟で―――まだセフィロスには到底及ばないけど……。
でもきっと罪悪感なんて無いんだろうな。
俺はセフィロスに近づくにつれ、その相手全てに嫉妬するようになってたっていうのに、それすらきっと分かってないんだ。
「お前は妄想し過ぎじゃないか?」
良く分からない言葉が飛び込んでくる。
そして―――。
「そんなものは身体の自然な欲求だ」
俺はとうとう我慢できなくなった。
何でそうなんだ。何で伝わらないんだ。
俺はずっと憧れてたって言ったのに、ちゃんと言ったのに、それすら踏みにじるんだ。
そうやって中途半端にするならキッパリ言って欲しいよ。
俺はもう無理なんだ。
あなたに近いだけで満足だ、なんて言葉が吐けるほど、優しくなんて謙虚でなんていられないんだよ。
俺の側にいてくれるなら、ちゃんと俺を見てて欲しい。
誰だってそうだろう?
それともそれは贅沢なのか?
「セフィロス、ちゃんと言ってくれよ」
「何を」
「何を、って…。好きでもないのに、そういう思わせぶりな事しないで欲しいんだ。セフィロスにとって俺がどうでも良い存在なら、もうこんな関係―――」
そうだ、こんな関係は………、
「やめたい」
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